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107 夫婦ごっこ(1)

 レイノルドは、アリアナの汗を拭った。


「はぁ……」

 そのため息は、アリアナをなんとか確保できたという安堵のため息か、それともアリアナならばやらかすんじゃないかという予測が当たってしまった諦めのため息だっただろうか。

 とにかくレイノルドは、ひとつため息を吐いた。


 助けを求めてくれたのがここでよかった。

 腕に飛び込んできた事を、思い出し、つい、心がソワソワした。


 アリアナは気を失ったかと思ったけれど、思いの外すぐに目を開けた。


「アリアナ?身体、大丈夫?」

 言いながら、包んでいたマントを剥ぎ取ってやる。

「だいじょぶ……」


 そのまま起き上がるアリアナを、なんとか手で制した。

「まっ……て、アリアナ。そのままだと危ない」

「あぶな?」

「そう、しばらく寝てて」


 言いながら、無理やり寝かそうとすると、よけい立ちあがろうとするアリアナを抱き抱える形になる。


 そこへ、コンコンと扉がノックされ、返事も聞かぬまま、アルノーが部屋に入ってきた。


「アルノー……、アリアナが居るのに返事くらい聞きなよ」

「あ、悪い」

 言いながらも、アルノーは心ここに在らずといった雰囲気だ。

 アルノーは、ただただアリアナを見ていた。


「これが……アリアナ?」


 レイノルドが、首筋にしがみつくアリアナの頭を撫でる。

「そう、これがアリアナ」


 確かに、それはアリアナだった。

 けれど、いつも見慣れているアリアナとは、かなりかけ離れた姿だ。


 アリアナは、いつもよりずっと、小さな姿になっていた。

 ただ、小さくなったわけじゃない。

 若返ってしまっていたのだ。


「4、5歳ってところかな」


 大きなワンピースの中で、もぞもぞしながら、レイノルドの首筋にしがみつくアリアナを眺める。


 蜂蜜色のふわふわの髪。

 キラキラした青紫色の瞳。


「す……ごいな。ああ、幼いけど確かにアリアナちゃんだ」


 アルノーが手を出すと、レイノルドがその手を払いのけた。


「けち」


「アリアナには感謝しなよ。アルノーが試すはずの薬、代わりに飲んでくれたんだからさ」


「ちぇー」

 若返りの薬の効果を調べるのに、まず誰かが飲まないといけないのは明白だった。


「あなたたち、だれ?」

 レイノルドの腕の中で、アリアナが二人を交互に見る。


「俺はアルノー」

「僕はレイノルドだ」


 言われて、アリアナがレイノルドをじっと見る。


「しらないひと」

 むっとした顔になって、ぷいぷいっと首を横に振ってみせた。


「どうやら、中身まで5歳児まで戻ったみたいだね。記憶まで5歳児なのかな、これは」

 表情豊かなアリアナを見て、レイノルドが笑う。


 アリアナがレイノルドを押し退けて動こうとしたので、レイノルドがアリアナを改めて持ち上げた。

 アリアナは15歳サイズのワンピースを身につけているため、これで動いたら転んでしまう。


「このまま放っておけば、薬は切れるだろうけど、1日2日ほどかかるかもしれない。アルノー、小さな女の子向けの服を準備して」


「はいよ」

 アルノーは思いの外素直だった。

 どうやら、アリアナに自分好みの服を着せられる事を楽しんでいるようだった。


 それに気づいたレイノルドはあからさまに嫌な顔をしたけれど、アリアナ本人を任せるわけにはいかないので、服の好みは任せる事にした。

そんなわけで、レイノルドくんとアルノーの子育てエピソードです。ちゃんとラブコメだよ!

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