106 小瓶の劇薬(2)
アリアナの顔が、さっと青くなった。
劇薬……。
それはつまり、死にも繋がるきつい薬であるということだ。
飲んで……しまった……。
え、どうしよう……私、死ぬの……?
とにかく、レイに話をしないと。
「ごめんなさい、ジェイリー!アルノーの紙袋を持ってきてしまったわ!急いでルーファウス公爵邸へ!」
「はい、お嬢様!」
こういう時のジェイリーの行動は速い。
何も聞かずに動いてくれるところが、護衛として信頼できる面でもある。
少し駆け足で、ジェイリーは馬車を走らせてくれた。
口の中に、うっすらとした甘みを感じる。
口の中を洗った方がいいのかしら……。
けど、ここには水もない……。
手が、震える。
緊張しているうちに、ルーファウス公爵邸へ辿り着く。
ルーファウス公爵邸の門の前で、玄関の扉から出てきたレイノルドとアルノーが見えた。
二人が馬車を認めて走ってくるのが見えたので、ジェイリーにそこで降ろしてもらう。
「うっ……」
泣きながら、レイノルドの元へ走った。
「レイ……っ」
なんだろう……。
身体が熱いような冷たいような、おかしな感じだ。
自分の身体が自分のものではないような、それでいて、確かに全てが自分だと言えるような、おかしな感じだ。
ああ、やっぱり身体に影響があるものだったんだ。
どうしよう……!
フラフラしながらレイノルドの方へ走る。
ちゃんと走れているのかすら、自分ではわからないけれど……。
アリアナの元へ、レイノルドが一層スピードを上げて走った。
へへ……。
小さい頃だって、あんなに必死で走るレイ、見たことないや……。
アリアナが縋るようにレイノルドへ手を伸ばした。
それを受け止めるように、レイノルドがアリアナを受け止める。
レイノルドが、持っていたマントで包み込むようにアリアナを抱きしめた。
「レイ……。私……」
涙が溢れた。
「あの薬……飲んじゃった……」
レイノルドは、マントごときゅっと抱きしめると、
「もう、大丈夫」
と囁くように言った。
よかった。
レイが言うなら、きっともう大丈夫なんだ。
「アルノー、後頼む」
「おお!」
アルノーにジェイリーを任せると、レイノルドは、アリアナをそのマントごと持ち上げ、取って返すように全力で自室へと走る。
安心したからか、アリアナは、なんだか眠くなった。
薄れゆく意識の中で、レイノルドがしっかり抱きしめてくれる腕の強さと、温かさだけが感じられた。
レイノルドは、アリアナを抱いたままなんとか自室の自分のベッドに、アリアナを運ぶ。
「アリアナ……」
レイノルドは、息を整えながら、袖で汗を拭った。
さて、どうなるアリアナ!