104 デート日和!(2)
三人は、店の中へ入る。
ジェイリーは護衛中はいつも堂々としているのに、今日は珍しい場所へ来たからか、仲のいいアルノーが居るからか、どことなくふわふわとしていた。
中は、ステンドグラスのような窓から陽光がうっすらと入る。
天井にはいくつもの電気がつってあり、思っていたより明るい。
魔道具屋というからもっと暗い感じなのかと思ったけれど、そんなことはなかった。
それはそうか。
ラベルも値札も見えなければ困る。
キョロキョロと、店の商品を見回す。
物が所狭しと置いてあり、まるで宝箱のような物置を彷彿とさせる。
大きな棚の上には、何に使うのかわからない道具類が置いてあり、右の隅の方には服類が、左側には宝石類が並ぶ。
なんだか怪しげな小瓶や、時計のような器具も多い。
レジ近くには、文房具の戸棚が置いてあった。
ひょいひょいとアルノーがアリアナを手招きした。
文房具の棚は、ペンや紙類、クリップ、ハサミ、文鎮などなど。それにちょっとした画材が置いてある。
この世界のペンは、ペン軸の中にインクを入れ使うタイプが主流だ。
いわゆる、万年筆のようなもので、ペン軸とインクの組み合わせで、書きやすさが決まる。それぞれ好みの組み合わせがあるという事だ。
「あ、これ、私使ってるわ」
一つのペン軸を示す。
すると、アルノーからは、
「ああ、これいいよね」
といい雰囲気の返事が返ってきた。
「インクはまだわからなくて、とりあえずこれを使っているのだけど」
アリアナが使っているのは、周りでも一番使われている一般的なインクだった。
なかなかに書きやすいと評判だ。
「それもいいけど、インクなら、これがオススメだよ」
と、アルノーが何やら高級そうなインク瓶を手に取った。
「へぇ……、見たことない瓶ね」
「それもそのはず」
アルノーがインク瓶を指でくるくると回しながら格好をつけた。
「魔術師御用達だからね。知る人ぞ知る。オススメだよ」
アリアナが、そんなアルノーに「ふふっ」と笑った。
「じゃあ、それにするわ」
アルノーがニッと笑う。
「俺も今日は、師匠のお使いで来たんだよね」
と、何に使うのかわからない道具をいくつか抱え、レジに並べていく。
レジには、無口なフードを被った魔術師が、置いていく商品を一つ一つ目で追っていた。
「あと、これを」
小瓶の並んだ薬品棚から、一つの小さな小瓶を持ってくる。
紫の小瓶は、とても小さいけれど、とても高価なものだった。
ドレス1着分はするものだ。
「何の薬なんだ?」
ジェイリーがアルノーの手元を覗く。
瓶にはラベルが貼ってったけれど、魔術師が使う紋様なのか、何が書いてあるのかわからなかった。
「内緒だよ。師匠の次の研究の参考にするものだ」
「ほ〜ん」
ジェイリーが、興味あるんだかないんだかわからないような返事をする。
ジェイリーとアルノーは仲が良く、会話はいつもこんな調子だ。
師匠といえばレイの事ね。
研究、とか、色々やっているのね……。
それともう一つ、アルノーは飾り気のない小瓶をアリアナに渡した。
「これはオススメの栄養剤。レイノルドは無茶する事も多いから、時々飲ませてるんだよ」
「へぇ……」
レジでの会計は、かなりの高額になった。
フードの店員は、紫の小瓶を示し一言、
「こちらは劇薬ですので、取り扱いにご注意ください」
と言った。
レジの魔術師は、小柄なお兄さんです。店長さんは別にいます。