102 この本があるから(2)
「そういえば、大人向けの創作は何処かしら」
「……ああ」
エリックも、そういえばそのジャンルには手をつけていなかったと、2階へ案内してくれた。
頭の中にしかないものなら、創作として本に書き記している事もあり得る。
本当のことだからと、ノンフィクションに目が行き過ぎてしまっていたわ……。
2階の背の高い本棚には、大人向けの創作物が詰まっていた。
「恋愛、ミステリー、冒険もの……。明日からは、この辺の本を見てみましょう」
「いいね。冒険もの辺りに、異世界へ冒険する話があるかもしれないな」
エリックがニッコリと笑った。
「ええ、それに……」
言いかけたところで、アリアナは、一つの本に目が留まった。
「…………」
「アリアナ……?」
背表紙を凝視する。
それは高い場所にある大型の本で、背表紙には、『日常風景』と書いてある。
タイトルの上に、何か小さなイラストが描いてあるのが見えた。
何がそんなにも心惹かれるのか……。
あのアイコンが……どうして……。
そこで、ふと気づく。
そうだ、あのイラストは、“アイコン”だ。
それは確かに、前世で持っていたスマホで見覚えのあるアイコンだ。
メールのイラストになっている。
この世界でももちろん、手紙というのはあるから、まったく関係ないかもしれない。
けど……。
右上に付いている数字は、スマホでよく見る新着数の数字じゃないの?
「エリック、あの本を取ってもらえる?」
「ああ」
二人に、緊張が走る。
その大型本は、どうやらイラスト集のようだった。
カラーでもない、ペンを走らせただけの白黒のイラスト集だ。
表紙を見て、ドキリとした。
「これ……」
何のことはない風景。
けれど、何のことはないと言えるのは、日本という国の中では、ということだ。
表紙には、町の中を歩く人のイラストが描かれていた。
ボディバッグをつけたTシャツの青年が、電柱の下の歩道を歩くイラストだ。
ガードレール、横断歩道……。
その全てが、アリアナが知っているものだった。
床にへたり込む。
画集の重みを感じた。
エリックは、アリアナのそばにしゃがみ込む。
「これ……っ」
エリックを見上げる。
本を開くと、それは、一人の青年が町を歩くというコンセプトの画集だった。
腕時計をアップにしたイラスト、ファーストフードで食事をするイラスト、駅のホームで電車を待つ青年のイラスト、電車に揺られるイラスト。
「知ってる……」
「この絵の世界が……」
エリックが、まじまじと本のイラストを眺める。
アリアナが必死に頷く。頬に、静かに涙が流れた。
「見つけた……」
「ああ」
「見つけた……!」
アリアナが、泣きながら笑顔を見せる。
エリックがそれに呼応するように笑った。
次回からは今度こそ新エピソードするから!!