101 この本があるから(1)
それから、アリアナはエリックと共に図書館へ通った。
前世を見たという人と会話ができればいいのだけれど、残念ながら、前に見た人物図鑑に載っていたデザイナーは200年も前の人物だ。
他にも、前世と関係するものが、何処かにあるかもしれないと思った。
何処かにあると信じて、本を探すしか術がなかった。
二人は、図書館の奥にあるガラス張りの読書室に、本を積んだ。
少し低めのソファにクッションが敷き詰めてある小さな部屋で、それぞれ一人掛けのソファに腰を下ろした。
二人は、お茶を飲みながら、歴史書や伝記など、人に関する本を一冊ずつ読んでいく。
1日3時間ほど。
会話もなく、二人は静かに本を探した。
この作業はもう4日にもなるけれど、二人はそれほど悪い気分ではなかった。
二人で穏やかな時間を過ごす。
アリアナはこれに関して懐かしい気持ちを覚えていたし、エリックはアリアナの顔を見る事が出来るだけでなかなかに満足だった。
見終わると、数冊をワゴンに載せ、他の本を探しにいく。
ジェイリーは、図書館入口のホールで待ってもらっていた。
一人歩く図書館は、なかなか興味深い場所だ。
何処を見ても大きな書架が見える。右も左も、上もだ。
吹き抜けになっている2階3階にも、更に本が並んでいるのが見える。
左門は読書とは無縁だったので、あまり大きな図書館というものは知らない。ここまで本が揃っているところを見るのは前世から見ても初めてだ。
その日も、数冊の本を抱え、読書室へと戻る。
夕陽が差し始める頃、エリックは顔を上げる。
「そろそろ、終わりにしようか」
アリアナは、他の本に心惹かれながらも、
「ええ」
と答える。
「まだ見ていない本は、ここに置いたままでいいよ。この部屋、しばらく貸してもらえる事になったから」
アリアナの顔が、ぱっと明るくなった。
「あら、ありがとう」
「時々あるんだ、部屋の貸し出し。学校の宿題とか、調べ事とか、ね」
エリックがニッコリと笑顔を見せた。
二人で図書館の中を歩く。
図書館に通えるようになったとはいえ、このままでは埒があかないわ。
前世の事が書いてありそうなものってどんな本だろう。
功績のある人の伝記なら、何冊も読んだけれど、“前世”という言葉が使われている本はなかった。
新聞にも目を通してみたけれど……。
何か見落としているんだろうか。
確かに、何か引っ掛かるような気がした。
前世を見た事が現実にあった事だと……、他に見た人との共通事項があるものだと、確信したいのに。
あの一言だけでは、心許ない。
だってこのままでは、現実にあったことかどうかわからない……。
「あ」
アリアナが声を上げると、隣を歩いていたエリックが立ち止まった。
新エピソードにしようと思ったけど、2話追加するね。