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第二試験の後

ここ訓練場にある監督席には、第二試験を行うシャリムとアニスを上から眺める、4人の姿があった。


「とんだゴリラ女だな。能力ありきだとしても、あそこまで腕力があるとは」

「でも、女だったのが残念だな。あれが男だったら、ベースの筋肉量も増えて、更に強いパワーを持つことが出来ただろうに」

「貴方はいつも筋肉で物事を考えすぎですよ。そろそろ女は男に劣るという考え方を、見直してはいかがですか?」

「誰も劣るなんて言ってねぇだろ。むしろ、男に劣等感を感じてるからこそ、そう聞こえるんじゃねぇのか?あ?」

「まさか、"あれが男だったら"という発言が、女性を劣等視する発言だと理解出来ていないのですか?まさしく脳まで筋肉なんですね、脳筋ですね」

「あーそうだとも、俺は脳筋だね。そして、脳筋に誇りを持ってる。力さえあれば、ちゃちな計略なんてぶっ壊せるんだからよ。考えるなんてのは、弱い奴のする事だ」

「あ〜、そろそろその話やめない?その言葉は僕に刺さるんだ」


眼鏡を掛けた女性の騎士と、筋肉モリモリのいかにもパワー系な見た目をした男性の騎士が言い争う。

ただ、その光景はむしろ日常的なもので、腕を組んだイケメンの騎士は我関せず。

仕方なしに、隣にいた細身の騎士が止めに入る。


「それよりも、もう1人の少年についてはどう思いますか?瞬間移動系の能力に見えますが、第1試験を担当したラトさん曰く、音を消したり、体の治療も行っていたそうです」

「随分と多彩なものだな。だが、今の所はあまり目立った部分がないように見える」

「しゃあねぇよな、さっきの試合はあの女の方が目立っちまったから」

「ですが、あのアニスという少女が初撃で一人を戦闘不能にできたのは、シャリムという少年が計算した結果です。それが無ければ、ああも簡単に行きませんでした。また、次の彼女の一撃も、彼が相手からアニスが視界の外になるように、計算して移動しています。まだ身体能力は定かではありませんが、冷静さと瞬間的な判断力はありそうです」

「随分と褒めるではないか」

「事実ですから」

「ただ、筋肉が足らんよなぁ、うむ、筋肉が足らん。あれでは、敵の隙を突いても倒せるだけのパワーが足りん」

「筋肉の部分はさておき、その指摘は正しいでしょう。だからこそ、この第二試合でシャリムはアニスを目立たせる戦い方をしたのかも知れません」


そんな風に、入団希望者に対する評価が、4人によって行われていた。


ーーーーー


そして一方、自分がどう評価されているか知らないのシャリムはというと、


(やっやべぇ、この女やべぇ馬鹿力だ…)


まさか、アニスが速攻で二人を倒すとは思ってもおらず、決着の速さに驚きまくっていた。


(あんな風に吹っ飛んじゃって、相手の子大丈夫か…?死んでないかなぁ)

「楽勝だったわね、シャリム!」

「うわわぁああ!馬鹿女!」

「は?何ですって???」


やば、間違えた。


「すみません、言い間違えましたアニス様」

「どう言い間違えしたら、馬鹿女なんて出てくるのよ。あと、様は気持ち悪いからやめなさい」

「…御意」


良かったぁ、一回の失言で危うく俺も同じ目に会う所だった。


「それにしても片方の相手の子、能力使う前から戦闘不能にされて、可哀想だったな」

「何よ、手加減しろって言いたいわけ?」

「あ〜、その馬鹿力は加減してあげた方が…とは思うけれどね」

「いやよ、変に遠慮して負けたら嫌だもの」

「それはそうだけど。でも、あの子結構痛そうな見た目になってたよ?お腹に窪みできちゃってたし」

「仕方ないわ。あと、能力を発揮する前に負けたのは、あの子の力不足なんだから」

「それはそうなんだけれどね?」

「ん?てか待って?今私に向かって馬鹿力って言った?」

「いえ、言ってません。多分カバ力の事じゃないかな?」

「いや、カバ力の意味が分かんないんだけど。それに、結局私の事を指してるのよね?そうよねぇ?カバ力って、絶対私の事褒めてないわよねぇ〜?」


もうダメだ、逃げよう。

身の危険を感じた俺は、その場から消え去った。


「ちょっ!どこに行ったのよ!逃げるなぁあああああ!!」


ーーーーー


第二試験の後は、最終試験の前に昼食だ。

俺は訓練場に向かう道中の露店で買った、サンドイッチを取り出し頬張る。


「ん〜、うまい!」


やっぱり食材はゴロゴロするに限るよなぁ。

食は味だけじゃなく、食感も楽しまないと。

潰したりペーストにしてたら、折角の歯応えが台無しだ。

その点、露天の親父さんはよく分かってる!

じゃがいもは荒く潰して、ベーコンは分厚く!

そして味付けにはニンニクとブラックペッパー!!

これぞ男のサンドイッチだぁっ!!


「うまい!!」

「お〜、美味そうに食べるねぇ」


俺が口いっぱいに広がるサンドイッチの味に舌鼓していると、誰かから話しかけられた。


「あ、さっきの序列5位の人」

「ん〜、名前の方で覚えててくれたら、ポイント高かったんだけどなぁ」

「そのポイントは成績に関係しますか?」

「いいや?」

「ならそんなポイント集めても無駄ですね」

「ププッ、君は面白い子だねぇ〜。序列5位の騎士に声をかけてもらえるなんて、うちの騎士団じゃみんな大喜びだよ?」


本当かなぁ〜。

この人結構適当というか、飄々としてるから、いまいち言葉に信頼性がない。


「それで?何か僕に用事でしたか?」

「まあね。ところで、さっきの第二試験はどうだった?」

「僕の活躍としては、まあぼちぼちですかね?何せ、相手を両方とも倒したのは、僕のペアの子ですから」

「みたいだね。実際、監督官の中でも評価が割れていたよ。一見して君は勝ちに貢献していない様にも見えるけど、しかしそのペアの子が相手を戦闘不能にできたのは、君のサポートありきだったって」

「・・・その情報って、僕に伝えていいんですか?」

「ん〜、いいんじゃない?」


いや、ダメだろ。

やっぱりこの人は適当だ、信用ならん。


「それで、昼食にまで押しかけてきた本題はなんですか?」

「君はせっかちだねぇ、もう少し会話を楽しむ余力を持っていてもいいんじゃないのかい?」

「相手が美少女だったらそうする所です」

「美少女というと、さっきの君のペアの子とか?確か可愛い顔つきしてたよねぇ?」

「あ〜、僕も最初はそう思ってました。ただ、中身が馬鹿力なので、できればもう少しお淑やかな子で」

「その希望は、せめて治療科の方に行かないと叶わないかなぁ」

「ですよねぇ〜」


俺が今受けている入団試験は、騎士団の中における戦闘科。

つまり、荒々しい奴はいても、お淑やかな子がこの場にいる訳がないのだ。

残念・・・。


「まあ、でも最終試験で眼鏡に合う子とチームになれるかもね」

「・・・どういう事ですか?」

「次の試験は、チームで行うんだ。戦闘科から二人、諜報科から一人、治療科から一人の計4人で編成されるチームで、森から指定のものを取ってくる試験なんだ」

「・・・なんでそんな事を教えてくれるんですか?」


次の試験に関する情報は、当然だが漏らしていいものじゃない。

カンニングもいい所だ。

それを、なぜ俺に伝えてくるんだ?

元から考えている事がわからない人だが、更に意図が読めない。


「なぜかって言うとね、君のチームには他の入団希望者とは異なるものが、入手対象として指定されるからだよ」


ん?他のチームと入手対象が違う?


「僕はそれを事前に伝えにきたんだね」

「なぜ僕のチームだけ別なんですか」

「それはね、君の実力をより正確に評価する為さ。さっき言っただろう?評価が割れているって」

「それはそうですけど・・・」


しかし、それにしても俺のチームだけって。

テスト中に、俺だけ別の問題渡される様なものだろ?

おかしくないか?


「そういうのって、よくあるんですか?」

「まあ、無くはないかなぁ。ちなみに、君のチームの入手対象はレッドベア、つまりブラウンベアの強化種の爪だね」

「はあ?!レッドベアって討伐難易度Cの魔獣ですよね?おかしくないですか??」

「おや、怖気付いているのかい?第一試験では僕に生意気を言っていた君が」

「そうじゃないですけど、難易度が見合ってないって話です!だって、中級騎士二人で戦う相手ですよね??」

「お、よく知ってるじゃないか〜」

「これぐらいは、入団試験を受けると決めた日から、勉強してましたから」


討伐難易度Fを見習い騎士が一人でも倒せる魔獣だとしたら、討伐難易度Cは中堅の騎士が2人で討伐する魔獣だ。

ただ、中堅騎士一人は見習い騎士四人と同等の戦力に当たるため、中堅騎士二人は、実質見習い騎士八人相当となる。

そのため、まだ入団もしていない見習い騎士未満四人では、圧倒的に戦力不足なんだ。


「ま、この最終試験も入手してくるかどうかよりも、その過程や貢献度を評価するものさ。だから、たとえ入手できなくても失格になったりはしないし、仮に危なくなったら監督官が助けに行くからさ。安心していいよ」

「だっだとしてもーーー」

「おっと、そろそろ僕も仕事の時間かな?」

「ちょっと、まだ話は終わってませんって!」

「君はまだ休憩時間が少し残ってるから、ゆっくりサンドイッチを楽しむといいよ。それじゃあね〜」

「まっ!」


そういって、序列5位の騎士は勝手にどこかへと行ってしまった。

まだ試験内容の変更に納得していないのに。

しかも、まだ見ぬチームメンバーには、俺がいるせいで苦労をかける事になるのだ。

本当なら討伐難易度Cなんて相手にしなくてよかったはずなのに。


「あー、急にこの後が憂鬱になってきた」


美味しかったはずのサンドイッチが、今はちょっと味がしない。


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