第二試験
2次試験は、2人組で行うチーム対抗戦。
先程のをテニスでいうシングルだとすれば、こっちはダブルスだな。
ペアとなる味方は、どうやら先程の戦闘を参考に、能力の相性の良さや、戦闘力のバランスを考えて組まれるらしい。
そして、今からペアとなる入団希望者と、対戦相手の名前が書かれた表が掲示される。
(さてさて、俺のペアはどんな奴かな〜っと。見つけた!)
俺の名前の隣には、アニス・グリンゼルという名前があった。
名前からして、女の子っぽい…?
「アニス・グリンゼルさーん、どこですか〜?」
「私よ、あんたがシャリム?」
現れたのは、赤い髪をした強気そうな女の子。
背は俺より少し低く、引き締まった体つきをしている。
無駄な筋肉がなく、その軽そうな体躯からは、スピード重視の接近戦を得意としてそうだ。
「シャリム・ナードだ。よろしく」
「ええ、短い間だけどこちらこそよろしく」
「早速だけど、君の能力はどんな事が出来る?」
ペアで戦う以上、仲間の能力を把握するに越したことはない。
「全ての攻撃を強化出来るわ。簡単に言えば、パワーを強くするっていった感じかしら」
「へ〜、なるほどね」
そうなると、刻印は"強"あたりかな?
筋肉をあまり付けていないのも、刻印でカバー出来るからか。
「それで?あんたは何が出来るのよ」
「あ〜、俺はちょっと瞬間移動っぽいことが出来たり、音を消したりできるかな?」
「はぁ?なんの刻印なのよ、それ。嘘じゃないでしょうね」
「試しに、音消しの方だけやって見せてあげよう。今から君に使うけど、抵抗しないでね」
「抵抗しないでねって、その伸ばした手で何するつもりよ!女と見れば誰でも襲う奴なのね!」
「いやいや、俺のは相手に触らないと、力を付与出来ないんだって。あとほら、付与系の力は本人の抵抗力によって弾かれる事、知らないの?」
「むっ、そう言えばそんな事を父上から聞いた気がするわ」
「だから、俺の力を見せようと思っても、君に抵抗力を発揮されたら見せられないでしょ?」
まあ、わざわざ彼女に付与して見せなくても、自分にかけて見せればいいんだが、この騒がしい場では分かりにくいんだよなぁ。
「じゃあいいわよ、抵抗しないから。でも、触るのは肩だけよ!他のところ触ったぶん殴るから!」
「元気のいい子だなぁ」
たくさんの騎士がいる所で、痴漢するわけないだろ。
いや、もちろん騎士が居なくてもしないが。
"刻印よ、その音を無に帰せ"
アニスの方に触れて、音を無くす力を付与する。
これで、あとは俺が力を使い続ける限り、彼女の行動によって音が発生することは無い。
見た目には分かりづらいが。
肩に触れていた俺が離れると、アニスは口をパクパクさせる。
そして、驚きの表情を浮かべた後、より高速に口をパクパクさせ始めた。
パクパクパクパクパクパクパクパク
何をしているんだ?
俺は不思議に思っていると、アニスは今度自分の口を指さして、パクパクさせたまま腕をばたつかせ、ジェスチャーする。
うむ、さっぱり分からん。
彼女は何がしたいんだ?
と思った所で、俺はようやく気がついた。
(そうか、彼女から出る音を無くすから、声も消えてしまうのか)
だから、ジェスチャーで声が出ない事を伝えようとしていたのか。
俺は力を解除する。
「「「だから!こっ」」」
どうやら、俺が音を消していた間、彼女はとても大きな声を出していたらしい。
解除した瞬間、会場全体に響き渡る声。
"何事だ?"
"なんだなんだ?"
そんな周囲の視線が、アニスに集まる。
…みるみるアニスの顔が真っ赤に染っていく。
「…ちょっこっち来なさいよ」
恥ずかしさのあまり顔を上げられないアニスは、顔を下に向けながら、小声で言う。
俺の裾をひっぱり、人がいない方へと連れ出す。
「かっ解除するなら教えてよ!お陰ですっごく恥ずかしい思いをしたわ!」
「悪かったよ、実はあまり人に付与した事がなくて、声まで消すとは知らなかったんだ」
それにしても、顔を真っ赤にしてあわあわする彼女は、ちょっと可愛い。
「あなたの能力が音を消せる事はよく分かったわ。で?それであなたはどうやって戦うっていうの?こう言っちゃ悪いけれど、地味だし、あまり戦いに向いた能力だとは思えないわ」
「言っただろ?他にも瞬間移動っぽい事ができるって。さっきの一次試験では、この二つを組み合わせて奇襲する形で戦ってたんだ」
「ふ〜ん、なるほどね。でも、そうなるとあなたと私の能力では、協力すると言うよりも、敵を分散させて1対1に持ち込んで戦った方が良さそうね」
「そうだな、特に音を消せてもメリットはなさそうだし」
もし、刻印の力で俺だけでなく、アニスも一緒に移動させる事ができたら、初っ端からアニスに有利な接近戦に持ちこめていいんだがなぁ。
残念ながら、まだ自分しか移動させた事がない。
これも、瞬間移動系との違いなんだよなぁ。
”無”の刻印はできる事が多い分、本職に比べると使いにくい部分も多い。
「じゃあ、細かい作戦なんかは要らないわね」
「連携取れないし、それはそうだけれど・・・。君は攻撃を強化する能力なんだろ?相手が遠距離に特化していた場合、どうやって接近するつもりなんだ?」
「そこはそのぅ、あれよ、その場の雰囲気で!」
「雑だなぁ」
何も考えていないのはよく分かった。
まあ、そう言う事であれば初動で俺が相手の裏を取り、前後で挟撃するか。
俺の能力は初見殺しとしては十分な性能を持つからな。
ーーーーー
そして、訓練場に戻った俺とアニスは、対戦表に書かれていた対戦相手が待つコートへと向かい、第二試験を行った。
先ほどの第一試験とは違い、今回は入団希望者同士の戦いだ。
相手の能力にも注意は必要だが、付け入る隙は大いにあるだろう。
”第二試験、始め!”
監督官が試験を開始すると、俺は事前にたてた作戦通りに相手二人の背後を取りに行く。
”刻印よ、その距離を無に帰せ”
俺に背後を取られれば、対戦相手にとしても無視できない。
前から接近してくるアニスから、一度目を離さざるを得ないだろう。
背後を取った俺は、木刀を振り下ろし攻撃を仕掛ける。
相手の一人が咄嗟に防ぐものの、体勢が崩れる。
すぐさま反撃するのは難しいだろう。
一瞬、俺は目の前の相手から目を離し、もう一人の相手に目を向ける。
そこには、既に腹めがけて殴り込んでいるアニスの姿が。
対戦相手は防御が間に合わず、モロに殴りを受けて大きく殴り飛ばされた。
・・・爆音を立てて壁にめり込んでいる。
一撃で戦闘不能だ。
「・・・はあ?」
あの細い腕で、どんなパンチ力してんだよ!
馬鹿力じゃねえか!
しかも俺が相手の注意を奪ったとはいえ、瞬間移動した俺に匹敵する足の速さ。
その光景に唖然とするものの、気を取り直して目の前にいるもう一人の相手に集中する。
俺がよそ見をしている間に、相手は既に体制を立て直していた。
片手で木刀を持ちながら、片手を前に突き出し、
「ファイア!」
炎を放つ。
火炎系統の能力を持っているらしい。
しかし、発射される速度が遅い。
それでは移動する俺には当たらない。
”刻印よ、その距離を無に帰せ”
再び俺は移動し、今度は相手の右側を取り、右下から木刀を振り上げる。
ただし、それも相手の木刀によって受け止められる。
(思ったよりも反射神経がいいな)
しかし、彼では勝つ事はできない。
何せ、俺とこうして鍔迫り合いしている隙に、アニスを懐に潜り込ませてしまっているから。
アニスは再び右拳を相手の脇腹めがけてぶん殴る。
相手はそれを防ぐ事ができず、一人目と同じように大きく殴り飛ばされた。
”勝者 シャリム・アニスペア!”
「ふん、当然ね!」
そんな感じで第二試験はあっさりと終わった。