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初めての食事

「いらっしゃい。はじめまして。会えて嬉しいわ。疲れでしょ?さぁ座って」


「はじめまして、こちらこそお会いできて嬉しいです」


 家に着くとローリーのご両親が俺を出迎えてくれた。2人とも60歳前後の初老のお爺さんとお婆さんのようだ。沢山話してくれるお母さんに対しお父さんは少し寡黙な感じだった。


 お母さんに続き寡黙のお父さんが何かを話してくれている。だが、これがちっとも分からない。確かに聞こえはよく聞く異世界語なのだが肝心の内容が入ってこない。困っている俺にローリーが話しかけてきた。


「お父さんは歯がないの。聞き取れないのかもね」


「ほんとだよ。なんて言っているんだ?」


「貴方を歓迎しているのよ。貴方の言葉は理解できるから安心して」


 歯がないだけでこんなに難易度が上がるのか。俺は田舎にいる歯がないお爺ちゃんの姿を頭に浮かべながら驚いた。

 無論お爺ちゃんとは普通に会話が出来る。恐らく異世界語は発音される音で言葉を区別する言語だからだろう。後はただ単に俺の経験不足。先が思いやられるが、なんとか聞き取れるように努力するしかなかった。


「そう言えば、お腹すいたでしょう?私料理作ってくるわ」


 気づけばもう昼時だった。俺の初めての異世界料理、それにローリーの手作りなんて、なんだか考えるだけでワクワクした。居ても立っても居られず、俺はローリーの料理する様子を見ることにした。


 日本だと家に来ていきなり台所を覗くなんて失礼なやつになってしまうだろう。だがここは異世界、異世界では家に招待されればそこは我が家のように振る舞っても構わないのだ。むしろそうした方が礼儀というものになる。



 台所を拝見するって言ってもそこまで広いわけでない。むしろめちゃくちゃ狭い。2畳ほどしかない。

 ただ驚くのは狭さではない、その調理場だ。

 竈門の上に1メートルほどある大きなフライパンのような鍋がのせてある。ちなみにこれを動かすことはない。使ってもフライパンのように洗剤で洗うことも出来ないので、せいぜい水洗いするのみだ。異世界の衛生面は怖い。


 後、異世界にガスはない。どうやって火を使うのかと言うと、これまた原始的で火種がある竈門に木の棒や草などを突っ込んで火を焚く。

 このやり方がかなり困ったもので、一酸化炭素中毒になるんじゃないかと心配するぐらいに台所を煙で包みこんでしまう。また当然の如く下からは灰が舞う。やはり異世界の衛生面は怖い。


 しかし、ローリーの料理の腕は一級品だ。普段俺たちが使う包丁より2倍ぐらいある馬鹿でかい包丁も難なく扱っている。

 それにどの料理も3種類ほど香辛料を使用して調理されている。調味料も醤油や塩といった馴染みのあるものだけでなく、味の素みたいな粒状のものを2種類使ったり、醤油の亜種みたいなものを使ったりとかなり豊富だ。 



「出来たわよ。先に食べて」


 そう言ってローリーは料理を次々に並べていった。俺が眺めている間に料理が完成したようだ。

 テーブルの上には4種類の料理がどれも大皿に乗せられ並んでいる。ジャガイモと生姜を炒めたもの、角煮のようなもの、玉ねぎとピーマンと謎の野菜を煮たもの、謎のキノコのようなものを炒めたもの。実はこのうち2つは昨日の余り物、異世界に冷蔵庫はないのでまた衛生面の不安が頭の中でよぎった。

 料理はどれも茶色く色とりどりではなかったが、美味しそうな香りがした。


 後これもどうぞとローリーから缶ジュースが渡された。ルルという異世界の飲み物だ。異世界の飲み物は基本水を飲んでいるが、これもよく飲まれている。


 料理と飲み物を渡したローリーはそそくさと後片付けをしに台所へ帰っていった。残された俺と彼女の両親と先に食べることになる。さぁ食べてとお母さんに促されるまま俺は先に食べていた。

 ローリーを待ちたい気持ちがあったが、それは日本人の文化。ここでは暖かいうちになるべく早く食べることが良いという文化がある。郷に入れば郷に従えというもの、俺は食べながら彼女を待った。


 料理の味はと言うとこれまた一級品だ。どれもレシピなど見ずに作っていたはずだが、全ての香辛料や調味料が絶妙なバランスで作られており美味しい。醤油ベースではあるが日本では味わえない味、これはこれで俺の口に合ったようだ。またルルという飲み物も杏仁豆腐をドリンクにしたような味で美味しい。


「どう?美味しい?」


「ほんと美味しいよ」


 いつの間にかローリーが帰ってきたようだ。


「料理はいつもローリーがやっているのか?」


 料理に感激した俺は期待を持ちつつふと質問した。


「そうよ。私なんでも作れるの。今日は特別豪華にしたの」


 ふふと自慢げに笑うローリー。こりゃ最高だ。結婚すれば毎日ローリーの素敵な手料理が食べられる。先程の不衛生なところを忘れて俺の頭の中は妄想が止まらなかった。この世に存在しない将来の旦那を羨ましがっていた。



【異世界小言】

カモフラージュなしで赤裸々に書くので「異世界」を楽しみたい方は読まずに飛ばして下さい。


異世界の衛生面は本気でヤバかった。本編には書いてないが、調理前に手を洗わないし食器やまな板や包丁も全て水洗い。肉を切った後の雑菌はどうなるのだろうか…。確実に※この主人公は特殊な訓練を受けています。って注意書き入るレベル。前回に続き、腹を下さないことや病気にならないもチート級能力。

見た目や味に騙されてはいけない。もし他に異世界転移する奴や希望する奴がいるなら、絶対にこの能力は欠かしてはいけない。


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