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アイスキャンディー -前編-

 アイオライトとラウルの二人に、微々たる進展があった頃、リコはアルタジアの王城敷地内にある魔法省の工房に篭って、とある発明に没頭していた。


 レノワールは舞踏会に着るドレスの打ち合わせ中。カリンは財務大臣との打ち合わせで今ここにはいない。


「リコ嬢、そんなに根を詰めてはそのうち本当に倒れるぞ?」

「いや、まだ若いんで三徹ぐらい問題なし。それよりここの回路をもう少し改良したい……」


 若かろうと徹夜するほど働く必要はない。 


「君達が国を出たのは、労働条件が合わなかったからだろうに……」

「趣味は別、だよ」


 数日はずっとこんなやりとりが続いていた。

 ここのところ長く一緒にいるせいか、リチャードの口調はかなり砕け気味だ。

 

 リコは現在、独自に作りたいものだけを作ってもいいと言われて、魔法省の開発部門に入り浸っていた。

 魔術回路への取り組み方が、とにかく他の職員への刺激になるから、と言う理由のようだ。

 実際リコが来てから、開発途中ではあるが新しい発明品が増えたとリチャードは報告を受けている。


「しかし、リコ嬢の回路はいつ見ても美しいな。これは川の様に見えるな。ここに葉の様な模様が入ったなら、秋を思わせる感じになりそうだ」


 リチャードが魔術回路の一点を指を指す。


「流れる川面に、舞い落ちる葉……、紅葉……、それだ! リチャード氏!」


 何かを閃いたのか、一心不乱に回路を引き始める。

 その姿は、さながら魔力で絵を描いているようだ。


 そんな所にカリンが、財務大臣との打ち合わせを終え菓子を持ってやってきた。

 大きな商家の生まれながら、さらにその家を大きくした手腕を買われて、現在カリンは財政見直しのためのアドバイザーのような仕事をしている。

 アルタジア自体、財政危機は全くないのだが。


「……、これはダメね」

「カリン嬢。ダメとは?」

「集中しちゃうと出来上がるまで止まらないのよね。お茶にしましょう」


 数十分ほど経って、ようやくリコが顔を上げる。

 薄い四角い板のようなものをカリンに手渡して、寝る。と言ってソファーに横になってしまった。


「ここで寝るな。リコ嬢、リコ嬢」


 呼びかけるが起きる気配はない。


「いいのいいの。ちょっとしたら起きるわよ。それにしても、これ」


 リチャードには、その板がなんなのか予想もつかない。


 リコから渡された、四角い板の大きな面の部分を触ったり叩くようなしぐさを繰り返しているカリンを、リチャードはただ眺めるばかりだ。


「んー、ちょっと早いかな…….。でも自分たちで使う分には……いいと思う……」


 カリンは何かをブツブツ言いながら、さらにその薄い板を観察している。


「カリン嬢、それはいったい……」

「使い方を教えるから、これ持ってアオのところに行ってきて頂戴」

「は? 急に何を……」

「行ってきてったら行ってきて!」

「はぁ……。君たちは本当に人使いが荒いな……」


 王城での生活に不自由がないようにとリチャードが常に気を使っているが、とにかく遠慮がない。

 面白そうなことがありそうだと勝手に王城を歩き回るのだ。

 貴族も歩き回る王城で、あっちにふらふらこっちにふらふら、登城している貴族になにか粗相があるのではないかと気が気でない。

 リチャードの気が休まるのは三人共が静かに寝ている数時間だけである。


「私のいない間に、勝手をしないと誓え」

「なに、その言い方」

「自分たちの日頃の行いを振り返ってみろ! この前は貴族のご子息から茶会に誘われたのに、その場で断っただろうが」


 相手は貴族で、かなり力のある貴族の長男でだった。

 その場で速攻断りなど、相手方の面目丸潰れである。


「だって、誘い方スマートじゃなかったし」

「誘い方?」

「これっぽっちもいい眼鏡じゃなかったし」

「いい眼鏡って……。とにかく誓えるなら、アイオライトのところに持って行ってもいい」

「「誓う……(かもしれない)」」


 したり顔の二人に気がつくことなく、言葉通り受け取ったリチャードは薄い板の説明を受け、その説明に驚くことになる。


「これは……」

「実用化についてはじっくり検討するとして、今は身内だけ、だよ」


 リチャードは二つの薄い板を持ち、リコとカリンのお守りをフィンとロジャーに押し付け、一路イシスの街へと向かった。


——————


 ラウルはアイオライトが部屋に入った後、ヴィンスとジョゼットに根掘り葉掘り聞かれた挙句、晩酌に付き合わされた。

 酒はそこまで強くないが、付き合い程度には……、と言ったのが運の尽き。

 ちなみにマークはヴィンスとジョゼットが飲み始めた頃からこっそり家に帰っていった。

 頼れる兄貴分も、こんな時は薄情者である。


 夜更けまで一人付き合わされたラウルは、酒をあまり飲まなくてよかったと思いつつ、寝不足の眠い目を擦りながら部屋を出て厨房に向かうと、


「もう! なんで、食べちゃったの!!」


 アイオライトが顔を真っ赤にして地団駄を踏んで怒っているのが見えた。

 が、まったく迫力はない。


 むしろこれも可愛いな、というのが今のラウルの感想である。


 そんなアイオライトの前に座り、ヴィンスとジョゼットは反省している……、ように見せかけて、自分の娘をちら見しつつ、首を垂れる振りをして顔が緩んでいるのがラウルから見えた。


「父さんも母さんも、ちゃんと聞いてるの?」

「ごめんね、アオ。でもそんなに怒らなくてもいいじゃないの。アオの作ったものを父さんも母さんも食べたかったんだもの」

「言ってくれたらちゃんと作ったよ。これは、昨日ラウルと一緒に作ったの。お風呂の後に食べるって言ってたけど昨日は食べられなかったから……。今日食べようと思ってたのに」


 アイスクリームを食べてしまってアイオライトに怒られているのか……。あれは美味しかったがまた作ればいいのではとアイオライトに言おうとすると、突然ヴィンスが声を荒げた。


「ちょっと待て。ラウル王子、風呂の後に食べるって、どういう事だ!? ここに住んでるってことか?」

「住むと言うか……泊まらせてもらっている」

 

 ラウルの答えにヴィンスの身体が小刻みに震え、さらに声が裏返っている。


「護衛する時にわざわざ別の家を借りてもらうのも申し訳ないでしょ。だから自分から提案したんだよ」

「そんな……。うちの可愛い娘が傷物に……」

「二人だけで? 年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすなんて……。熱い展開ね!」

「父さんも母さんも冗談ばっかり! 友達なんだからそんな風に言わないでよね。すみません、ラウル」

 

 いや、まぁ、心配する気持ちは分からなくもない。

 正直ラウル自身も、金の林檎亭に泊まり始めてからと言うもの、理性を保てているのが信じられない様な瞬間が数回はあった。


「いや、ヴィンスとジョゼットが心配するのも仕方ないよ。俺だって男だし……。アイスはまた作ればいいし」

「そう、そう!」


 ちらりとラウル自身が男であることを意識してもらおうとアピールしてみるも、アイオライトはあまりその点を気にしていないような顔で、ヴィンスの顔を見ながら口をとがらせている。


 その仕草がなんとも……


「あら、アオ、その口、チュー待ちみたいで可愛いわ~」

「ちょっと、母さんってば」


 ジョゼットが発した言葉だったが、一瞬ラウルは自分の心の声が漏れたのかと思ってしまった。


 先程からラウルを見るヴィンスの視線が痛い。


「アオ、あまり怒らないで?」


 今日は火の日。幸い金の林檎亭はお休みだ。

 ラウルはそっと頭を撫でて目を覗き込むように顔を見ると、アイオライトは少しだけ柔らかな笑顔を見せてくれて、ヴィンスとジョゼットがほっとした顔を見せる。

 その顔をさせたのが自分達ではないのか悔しそうだが。


「ね、アオ」


 便乗してヴィンスとジョゼットもおねだりを始めた。


「ラウルが言うなら仕方ないです。でも父さんも母さんも反省してよね!」

「「は~い」」


 子供よりも、両親が満面の笑みである。

 

「まずは朝ご飯食べてからね。父さんも母さんも昨日の夜はたくさんお酒を飲んだんでしょう? 軽くサラダとパンにしようっか。すぐ作るから待ってて」

「ちっくしょー! 飲まなければよかった」

「手料理が食べられるんだから、私はなんでも嬉しいわ」


 テーブルをバンバン叩いて悔しがるヴィンスだが、寝不足の体には、正直サラダで軽い朝食はラウルはありがたかった。

 昼はしっかり食べることが出来るように、食後に少しだけでも寝ておこうかと思いながら、自然に朝食の準備を手伝う。


「ラウル様も随分といい男になったものね。スマートに手伝えるなんて、なかなか出来ないわよ」

「だよね。ラウルは格好いいし、舞踏会でもきっと沢山のお姫様にモテモテだと思う」


 アイオライトが自分で言ったにもかかわらず、なんだかもやっとして頭を一旦ひねる。

 頭をひねった理由は今日も見つからなかった。


 一方ラウルはびくりと身体が動いたが、動揺は表に出なかったはずだと横にいたアイオライトに視線を移す。

 と、その横にいたヴィンスが面白いものを見つけたような顔でラウルを見てからかい始める。


「モテモテだと思うよ。アオ以外には」

「その顔、やめろ」

「やめられなーい」


 簡単な食事を終えて、今日もアイスを作ることになったわけだが……。


「今日は、アイスクリームメーカーを使わないでアイスを作ります」

「使わないで? あ、冷蔵庫だけで凍らすのか。時間がかかるんじゃない?」

「はい。父さんも母さんも、あとラウルもあんまり寝てないみたいなんで、出来上がりまで少し寝れるように冷凍庫で作ります。おやつか夕飯の後に食べましょう」


 そういって、アイオライトが準備したのは牛乳と砂糖だけ。

 それだけを鍋に入れて煮詰める。

 練乳なしでも煮詰めて作ればそれなりに濃厚になるのだ。


「母さん、焦がさないようにゆっくり混ぜて、そう、良い感じ。牛乳の色が濃くなってきて煮詰まってきたら火を止めてね。ラウル、コップとスプーンを持ってきてもらっていいですか」

「父さんは何をしたらいい?」


 手伝いがしたいのか、期待に胸を膨らませているヴィンスだが、


「髭が痛いから剃ってきて欲しい」


 とアイオライトにぽつりと言われて、転げ飛び出す様に厨房を出ていった。


「アオ、これぐらいかしら?」

「うん、いい感じ。じゃぁ、これをちょっと冷ましてから、コップに入れてスプーン挿したら冷凍庫で冷やします。片付けは自分がやっておきますから。ラウル、お昼前に起こしに行きますね!」


 ラウルは、瞼は重いが、アイオライトに起こされる自分を想像して、つい顔がほころんでしまった。

 嬉しいのだから仕方がない。


「母さんのことも起こしてくれるのかしら?」

「起こすけど、ちゃんと起きてよ?」


 バタバタと走る音が厨房に近づく。


「アオ、頬擦りしてももう痛くないぞ!」


 ヴィンスがあっという間に髭を剃って戻ってきた。


「父さんもあんまり寝てないんでしょ? 少し寝てね」

「いや、父さんは寝ない。アオと買い物にでも……」

「寝なかったら自分はもう父さんと口きかない!」


 ガーンと言う効果音が後ろに見える様な顔で、ヴィンスがとぼとぼと二階へ上がり、それを慰めるようにジョゼットも一緒に部屋に向かう。


「そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」

「ダメです。たまに帰ってきたと思ったら、ラウルの事いじめるようなことばっかりして」

「いや、まぁ、娘が住んでいる家に男がいたらやっぱりご両親としては心配だと思うし、当たり前なんじゃないかな?」

「でも、ラウルは変なことしませんから」


 アイオライトが自信満々にラウルを見つめる。


「あ、うん? うん。まぁ変なことはしない……かな」


 濁す言葉に、自信のなさが表れているが、まぁなんとか言いきれたので及第点を自分自身に与え、ラウルは部屋に戻ることにする。


「さっき起きたばっかりなのにね。ちゃんと片づけできなくてごめん」

「気にしないでください。おやすみなさい、ラウル」

「おやすみ、アオ」


 数時間後、アイオライトはどうやって自分を起こしてくれるのか。

 おはようのキスは流石にないにしても、目を覚ましてアイオライトの気配が近くにあるなんて幸せだな、と思いながら、しばしの眠りにラウルは落ちていった。


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