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マークとリリ

「次は夏の半ばぐらいに出来ればいいなと思ってて」


「おい、次は夏の半ばだってよ!」


「待ってってば。まだちゃんと決めてないし、決まったらまたお知らせ貼り出だすから!」


 先日終わったばかりだというのに、次回のバーベキュー開催を心待ちにしている数人の常連に、アイオライトはしどろもどろになりながら答えていた。


「ラウルは来れなくて残念だったな」


 朝食を食べに来ていたマークが声をかけた。


 今朝は親子丼と、照り焼き丼。


 マークは親子丼をチョイスして、とろとろ熱々の卵と悪戦苦闘しながら食べている。


「なんか仕事でコルドに行くって言ってたよ。火の日にはイシスに戻るみたいだけど」


「そうか。なんかここ最近はずっとイシスにいる感じだったけど、あいつも仕事してるんだな」


 イシスには仕事できている、とのことだが、街の話の人を聞いたり、なにか困った事はないかと聞いているようだ。


「マークはラウルさんがなんの仕事をしてるか聞いたことある?」


「あぁ、なんて言ってっけな、あれだ。騎士団が街の治安維持向上の為に、団の一員を街に駐在させる実地試験、で来てるって言ってたよ」


「おぉぅ、なんか凄いね」


 実際に本格導入されるかはまだ分からないが、国が街にそう言った人を派遣して、治安維持に努めてようと考えてくれているのはありがたい。


 街の駐在では大貴族などとの諍いは上手く解決できないこともあるし、王都から来た騎士団の一員なら貴族相手でも対処できるだろう。


「でもラウルさんは、あまり騎士団員って言うより、街の駐在さんみたいに気さくよね」


 マークの横で、照り焼き丼を食べていたリリが言う。


「それは違いねぇな」


 そう言ってマークはニカリと笑った。


「なんて言うか、良く店に来てくれるし、親しみやすいし、優しいし、かっこいいよね!」


 王子様みたいで、とは言わないが。


「そう言えば、アオはラウルにまだ敬語使うよな」


「う~ん、街の外から来てる常連さんにはまだ敬語で話しちゃうよね。あんまりお客さんに馴れ馴れしいのもさ」


 そうなのだ。仲が良くなってもあくまでお客様なので、変に馴れ馴れしくするのは違うのではないかと思っている。


「あ、でもさ、最近ラウルとは友達みたいな感じじゃないか?」


「そうかな~。友達になれたら嬉しいな」


 確かに最近よく話をするし気にかけてもらっている気もする。

 アイオライトとしては金髪、瑠璃色の瞳のさわやかイケメン王子が友達になってくれるなら目の保養になるし大歓迎だ。


 友達になろうと言われたら、間違いなく即答できる!とぐっと拳を握った。


「まだまだお子ちゃまね、アオは」

「アオが大人になるのはまだ先だな」


 前世、リアルな恋人はいなかったし、好きなアイドルは二次元アイドル。恋愛レベルはマイナスだ。


「もう、自分十七だよ。来年成人だし、大人と言ってもいいと思う!」


 胸を張って大人だと言うアイオライトを二人が見る。


『若くて眩しい!尊い……』


 リリはふわりと微笑み、胸の前で一瞬拝むように手を合わせたが、一瞬すぎてアイオライトはその仕草には気が付かなかった。


 カラン、カランとドアベルが鳴る。

 新しい客が来たようだ。


「おはようございます。金の林檎亭へようこそ」


「初めてなんだが、二人、いいかね?」


 少し品のある灰色の髪に、整えられた髭が特徴的な商人風の男性と、その息子だろうか、同じ灰色の髪の少年が店内に入ってきた。


「大丈夫ですよ。こちらへどうぞ。当店の朝のメニューは……」


 と、説明しながら席へ案内する。


 あまり見たことのない服を着ていて、言葉も少し訛っているような感じだ。

 もしかしたら違う国から来たのかもしれない。


 好みに合うか心配だが、すでに席に案内したので万が一口に合わなければ、お代はもらわないようにしようとアイオライトは考えた。


「馴染みのない食べ物だが、どう言ったものなのかな?」


 髭の紳士が質問する。


「どちらも鶏肉と卵を使っています。親子丼は鶏肉と卵を一緒に煮てご飯の上に乗せています。照り焼き丼は鶏肉に甘辛ダレを絡めているんで味は濃いめです」


 少し考えて、二人で別々のものを頼んでシェアする事に決めたようだ。


「では、これとこれを一つずつ」


「承知しました。お水も一緒にお持ちしますね」


 手早く二品を作り、冷たい水と一緒にテーブルに運ぶ。


「この店は、君一人で?」


「はい。自分一人ですけど……」


「うむ……」


 質問の意味がわからなかっだか、一人で店を回しているのは事実なのでそう答えた。




 アイオライトは不思議な二人組だな、と思いながらもそれ以上は詮索することなく、厨房に向かう。


 しかし横で見ていたリリがマークに耳打ちする。


「多分、ジーラン国の人よ。なんでうちの国にいるのかしら」


 ジーラン国は、このアルタジアのある大陸から西側にある大国である。船で半月程かかる距離で、あまりアルタジアとは交流はなく、旅行者などもアンダルシアには来ることはない。

 国交もないため詳しくは分かっていないが、どうやら科学という技術が発展した国らしい。


 役場の観光窓口で働いているリリが不審に思うのも仕方ない。


「まぁ害がありそうなら、お師匠様たちが何かしら手を打つだろう。泳がせているなら取り立てて今は害はないってことさ。一応報告しておく」


「そうね……。注意だけはしといたほうが良いかも」


 何かあれば出てくるはずである。


 アルタジアの高ランカー冒険者にしてアイオライトの両親が。


 リリとマークは、ジーランから来たであろう二人組に注意しながらも、目の前にあるどんぶりの残りを食べ進めることにした。


「お待たせしました。親子丼と照り焼き丼です。スプーンですくって冷めないうちにお召し上がりくださいね。お水は呼んでもらえればお持ちしますので、遠慮なく声をかけてください」


 商人風の男と、連れの少年は、はふはふと口をあけ冷ましながら食べている。初めて食べた食べ物であるがおっかなびっくり、しかし美味しそうに時々顔をほころばせながらしっかり食べ終え、特に大きな騒ぎも起こさす満足そうな顔をして会計を済ませた。


「またのお越しをお待ちしております」


「また、必ず」


 ちらりとアイオライトを一度見て、店を出ていった。


 それを見たマークとリリも急ぎ店を出ることにした。


 リリは出勤の時刻に間に合いそうにない。遅刻しそうだが、ジーランから商人が来ていたと報告すればお咎めなしとなるだろう。


 マークは冒険者ギルドで請け負っている仕事に出掛けるだけなので、遅刻の心配はない。


「アオ!ごちそうさま」


「あ、リリ。こんな時間までゆっくりご飯食べてて平気? お代はまたでいいよ。マークは昨日の仕事の続きだよね! 気をつけて二人とも行ってらっしゃい」


 とびきりの笑顔で送り出してくれるアイオライトに、マークもリリも答える。


「あぁ、いってくるよ。アオ」

「いってくるね、アオ」


 今日も可愛い妹分に笑顔で送り出された二人は思う。


 今日も尊い妹分に幸あらんことを、と。

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