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コルドの街にて

 バーベキュー当日。


 楽しみにし過ぎて、昼を少し回った頃に金の林檎亭に向かおうとしていたラウルに、コルドの街に錬金術師らしい目撃情報があったと知らせが入った。


 別働隊が足取りを追っているので、急ぎではないが、その人物の人相などを調べるために、調査に赴かなければならない。


 しかし、バーベキューに参加できなくなったラウルは、その顔に隠す事なく落胆の色を見せている。

 

「仕事なんだから仕方ないだろう?」

「仕方ないけどさ……」


 フィンに諭されても項垂れるばかりである。


「まずはアイオライトに参加できない旨を知らせるべきではないのか?」


 リチャードに言われて、足取り重く金の林檎亭へ向かったが、帰ってきたときにはかなりの上機嫌。


 どんな魔法を使ったのかはわからないが、アイオライトがラウルの気持ちを浮上させてくれた事に三人は感謝した。


「あのさ、アイオライトが俺たちにって弁当作ってくれたんだ」


 そう言ってはにかむラウル。


 三人三様の顔をしていると思うが、心の中は、私たちはいったい何を見せつけられているのだろうか……。そうか、そうだね。凄く嬉しいんだね、と言う感想で一致していた。


「みんなの分も作ってくれたから、馬車の中で食べようよ」

「わお、本当? それはいいね!」

「な! 嬉しいよなっ!」


 ロジャーが嬉しそうに言う。


「あと、飴も貰った」


 次から次へと喜びを隠さない。

 本当に先程の落胆した顔が嘘のようだ。


 しかし、


「ラウル様、嬉しい気持ちはわからなくはありませんが、これから調査に向かわれるのです。気持ちを引き締めていただきたく存じます」


 側近としてリチャードが言葉を紡ぐ。


 コルドで探し求めていた錬金術師が見つかるかもしれないのだ。気を引き締めなくてはならない。


「すまない。わかっているよ。ありがとう、リチャード」


 ラウルも心得ていると頷く。


「けど、弁当楽しみだ!」

「そうだな」


 四人の青年達は、コルドに向かう馬車に乗り込み早々に弁当を広げた。


「なんか、おにぎりって言ってたよ。酸っぱいのと魚が入ってるって言ってた」


 海藻でできていると言っていた海苔というシート状のものにご飯が巻かれていて、米が手につきにくく、素手でも食べやすくなっている。

 少し大きめの重箱のような弁当箱の中は四分割されており、一人ずつの量が分かりやすい。


「卵が少し甘いのに、嫌じゃないね。これはいいものだ」

「だろ?ロジャー。 金の林檎亭の食事はどれもこれも美味しいよ」


「この魚の……」


 一口食べたフィンが、手を止めた。

 魚のおにぎりは、ツナマヨであった。


「あ、これまよねーずと魚を混ぜてるんだ!」

「マヨネーズ和えの魚か。これはクセになるな」


 大きさがあまりないので二口ぐらいでおにぎり一個を食べ切ってしまう。


「この、木の実のようなものは!?」

「アイオライトがすっぱいって言ってたよ?そんなに?」


 リチャードが眉間にしわを寄せている。


「酸っぱいのだが、癖になる」


 気に入ってくれたようでよかったとラウルは自分のことのように嬉しくなる。


 それぞれが思い思いに小腹を満たした後、そのまま何故か全員睡魔に負けて、目覚めたときにはコルドの街に着いていた。


「美味しい食事で小腹が満たされて、さらに馬車に揺られていたからかね。眠くもなる」


 フィンの言葉にみんなが同意した。


「さて、調査開始かな」


「そうだな。数時間聞き込みした後、宿で落ち合おう」


 あらかじめ決めてある宿に、あとで集まることを約束してバラバラにわかれる。


 別動隊の話によれば、女性二人組で、一週間ほど前にこの街にやってきた。


 精巧な絵を大きな壁に映し出し、何度も同じ音楽が鳴る箱を持っていたという。


 絵が動くことはどういう仕組みなのかは不明だが、楽団もいないのに音楽が奏でられる。


 さらに、馬もいない馬車に乗ってこの街に来たという。


 錬金術かは不明だが、この世のものとは思えない技術を持っていることだけは確かだ。


 様々な場所で聞き込みをしても上手く人物像が浮かび上がってこない。


 ただ、分かったのは女性の二人組で、一人は牡丹色の髪と瞳、笑う顔は女神と言う者が多かった事。

 もう一人は薄藤色の髪に、緑色の瞳、知的な女性に見えたと言うものが多かった。


 二人はこの街の遊園地で、大きな壁に音楽付きの絵を映し出して皆を楽しませたという。

 遊園地の支配人はしばらくいて欲しいと懇願したが、探し物があるからと馬のいない馬車でどこかに向かったようだ。

  

 それ以上は同じ証言ばかりであったため、ラウルは宿に戻った。


 四人で話した結果、分かった情報はみな似たり寄ったり。


「二人とも美しい女性だというじゃないか。是非ともお会いしたものだね」


 フィンが珍しく目を輝かせて言う。


「年上のお姉さんだと、僕は嬉しいな」


 ロジャーの好みは年上であると三人はよく知っているので、それに関して口は挟まない。


「女性の好みは置いておいて、目撃された動く絵と音の出る箱、馬のいない馬車でどこに行ったのかという事が問題だ。探し物をしていると言っていたという証言もあったな」


「そうだね……。何を探しているのかがわからないから、どこに向かうのか見当もつかないけど、王都に入ったらすぐわかるだろうし」

 

 リチャードとロジャーが推測を進める。


「ここから近い街はイシスだけれど、あそこはもともと錬金術師の目撃情報があったところだろ。イシスでの目撃情報に関しては人相すらわかっていないけど、目撃情報の時期に差がありすぎるか……」


 ラウルは考えをまとめるように声に出した。


「そうだな。イシスは半年前、今回は一週間前。差がありすぎるな。ただ、馬の要らない馬車を使うのであれば色々な場所に休みなく向かえるのではないか」


 リチャードはその馬の要らない馬車にもの凄く興味があるような顔だが、仕事モードに徹しているのがラウルには分かった。


「う~ん。わっからないな。一週間前にここを出たなら、イシスも通り越して違うところに行ったかもしれないよね」


「せっかくコルドまで来たけど、一晩で集まる情報はこんなもんだよ。明日からまた情報集めていこう」


 ラウルは明日もまだ情報を集めようと遅い夕食を宿の店員に頼む。


「初日から情報なんて集まらないもんさ。食事をして一晩寝て、すっきりしたらひらめくものもあるかもしれないしね。いただきます」


 運ばれてきた食事にフィンがフォークを入れ食べ始める。

 

「なかなか美味しいね」


 運ばれてきたそばから男四人、遅い夕食を取る。


 そう、なかなか、美味しい。

 凄く美味しくはない。


 ラウルは昼間食べた弁当を思い出す。


 仕事頑張ってと言ってくれたアイオライトの優しさが嬉しかった。


 自分の肩ぐらいまでしかない身長で、何とか食べさせようと見上げられて、口の中に無理やり入れられたオレンジ味の茶色い何かがけ……。


 自分の唇に少しだけアイオライトの指が触れて……


「なんかさ、たまにアイオライトが女の子みたいに見えるんだよな……。ちょっと小さいからかな」


 独り言のようにいうラウルだが、三人ともその声を拾っていた。


「アイオライト小さいよね。可愛いよね」


 ロジャーがラウルの独り言に返す。


「ロジャーもそう思う? もうちょっと男っぽく見えるように、今度服でもあげようかな」

「それはいいね」


 面白いいたずらを思いついたかのようにフィンも乗せてくる。


 今日もリチャードは思う。

 せっかく女性かもしれないと思い始めていたのを、ロジャーが引き戻して、フィンが焚き付けた……、まだまだこの面白いものを見られるのだと。


 アイオライトが服を贈られたとき、どう反応するのかも見ものだなと思いながら、今宵の食事を終え明日に備えることにした。

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