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朝の唐揚げ定食

「目と心は潤うけど、全員揃うと心臓に悪いな~」


 アイオライトはいつもより早く日課を終え、店の前の階段に腰掛け、朝の風に当たりながら昨日のことを思い出していた。


 噴水公園でまったり過ごす予定が、ラウル達と遭遇。楽しいやら恥ずかしいやら、なんとも形容し難い時間だった。

 

「だがしかし、四人並んだ時の乙女ゲーム感よ。破壊力半端なかったな……ラウルさんは無論爽やかイケメン王子だけど、お友達もみなさん系統違いの素敵王子だよな~」


 興奮でついつい声に出ているが、今のアイオライトがそれに気がつかない程テンションが上がっているようだ。


 ニヨニヨと顔が緩むのを抑えきれず、朝もいつもより早く誰も見ていないのをいい事に、好き放題踊り場をゴロゴロと転げ回る。


 推しのアイドルを好きなような?

 ちょっと違うな……と思ってまたゴロゴロと転がる。


 転がりながら、友達だと紹介された三人の顔を思い出す。


 そして、急に思い出した事があったので転がるのをやめ、床の板目を見ながらつぶやいた。


「多分、リチャードさんのこと、好きだな」


 リコが。と。


 ただ名前を口にはしなかったが。


 リコは前世の友達で、異世界でまた会おうと約束した一人だ。

 蒼に、夜通しその魅力と理想を語る、銀髪インテリ眼鏡をこよなく愛する女子である。


 リコの理想を思い出すと、恐らくその理想に見事にハマると思う。きっとここで会えたら、鼻血を出して倒れるかもしれないぐらいの理想的なインテリ眼鏡なのだ。


 きっと大興奮だな、こりゃ、と思った矢先、


 頭の上が急に熱くなった。

 なんだろう? と頭を上げるとラウルがじっとアイオライトを見ていた。


 魔力が炎のように綺麗に揺らめいている。


「リチャードのこと、好きなの?」


 何故魔力が揺らぎまくっているのかもわからないが。

 朝一番、ほぼゼロ距離にラウルがいた。


 踊り場に寝転がったまま、起き上がることも出来ないので、顔の距離が近すぎる。


 そして、話しかけてもラウルは微動だにしない。


「あの……」

「俺…………」

「なんの話しでしょうか?」


 いつもはあんなに爽やかな笑顔で笑うのに、今はなんとも苦虫を噛み潰したような顔である。

 アイオライトは喉の奥がヒリつくような空気を感じつつその答えを待った。


「さっき、リチャードのこと好きだって、つぶやいてた」


 ?リコがね。


「俺、アイオライトがリチャードのこと、好きなら、応援、出来ると思う。そう言うのも、理解あるほうだし」


 いやいや、つい一昨日知り合ったリチャードより、店の常連であるラウルの方が好感度が高いに決まっている。


「そう言うのが、どう言うものかわかりませんが……。自分はラウルさんの方が憧れです!」


 間違いじゃないぞ!好感度高い爽やかイケメンには憧れるよ!


 何か一言二言足りない気はするのだが、アイオライトの中では好感度激高であることを、控えめだが伝える事ができたと、本人は満足気にラウルを見た。


 その瞬間、急に魔力の揺らぎがなくなったので朝の爽やかな風が、再びアイオライトの頬と髪を撫でる。


「えっと、本当にリチャードの事、好きじゃないの?」

「嫌いではないと思いますが、ご本人のことまだほとんど知りませんから」

「でも、さっき!」

「聴こえてました?声大きすぎたかな……」


 ラウルは急に口を噤む。


 言えない。


 店の近くに着いたときに、ゴロゴロ転がりながら、一人楽しそうにしていたアイオライトが見えたの、悪戯心からちょっとだけ風魔法を使って声を聞いてみようと思ったところ、その一言だけを拾ってしまったなどとは。  


「凄い楽しそうにしてたよ」


 楽しそうなのは間違いではないが、自分の悪戯がバレないように視線を外して、さらに何かモヤモヤする気持ちからも手を離してラウルはアイオライトに答えた。

 

「あれはですね、古くからの友達が、恐らくリチャードさんのことめちゃくちゃ好みだと思っただけなんですよ」

「友達?」

「はい。性格はサバサバしてるんですけど、男性の好みは王道というか……」

「男性の好み……」

「はい、本人とは随分会っていませんが」


 転生してからまだ出会えていないが、多分女性に転生してると思っている。アイオライトと再び出会って、楽しいスローライフを送るなら、絶対に。


「そっか。そっか。友達ね!」


 大きく息を吐いて、吹っ切れたようにラウルが声を出した。


「友達と早くまた会えるといいね」


 友達との再会を願ってくれるラウルは本当に良い人だ。やっぱり爽やかイケメン!推せるっ!とまた自分の世界に入りそうになるのを、引き戻すようにリチャードの声がした。


「楽しそうなところ申し訳ないが、今から朝食はいただけるだろうか」

「さっきからずっと俺たちもいたのに全然気がつかないのな」

「お腹すいたよ~」


 カラカラとフィンとロジャーが笑う。

 ラウルの魔力が漏れてて、気がつけなかったがずっとこの場にいたようだ。


 ならば、リコ、ごめん。

 名前出してないからね。リチャードに会うことができた時にはきっと今の出来事忘れられてるはずだから許して、と心の中でアイオライトは謝っておく事にした。


「おはようございます。失礼しました。金の林檎亭へようこそ。中へどうぞ」


 仕事モードに切り替えて、四人を中に招き入れる。


「今日のA定食が焼き魚の定食で、B定食は唐揚げ定食です。お水とお茶どちらにしましょうか」


「全員お茶と、B定食で!」


 間髪入れずにラウルが答える。


「すぐできますのでお茶も一緒にお持ちしますね。少しお待ちください」


 アイオライトは準備のため厨房に向かった。


「カレーライスがないのが残念だが、とりあえずラウルの薦めるものを食べてみることにしよう。」

「かれーらいす?」


 フィンとロジャーが声をそろえて復唱する。


「来週からメニューに並ぶそうだ。私はカレーライスを食べにこの店に通いたいほどだ」

「「そんなに!?」」

「カレーライスは、禁断の食べ物だった」


 ラウルの言葉に二人ともごくりと喉を鳴らしてしまう。


 その時、ジュワジュワっと唐揚げの揚げる音が聞こえた。

 匂いが席に漂ってくる。


「俺、何回か食べてるけど、この店の唐揚げ最高に美味い」


 ラウルが自慢気に三人に説明する。


「ラウル、美味いのはわかるが、どう美味いのか、もう少し説明を……」


 リチャードがラウルに声を掛けたところで一旦音が止み、アイオライトがお茶を持って来た。


「お待たせしました!唐揚げ定食です」


 朝からボリューム抜群だが、意外に朝定食で人気がある。


「今日はニンニク醤油と、みなさんには特別にカレー味をお試しでお付けしました」

「ありがとう。アイオライト。いただきます」


 目の前に出された唐揚げを四人同時に口に入れる。


「いつも食べているやつも美味しいけど、カレーのヤツも美味しい!」

「ありがとうございます」


 ラウルは感想を述べた後、口いっぱいに唐揚げとご飯を入れてとても幸せそうな顔でもぐもぐと咀嚼している。

 お客様が美味しそうな顔をして食べているのを見るのが好きだ。自分も嬉しくなる。


 他の三人は一心不乱といったように唐揚げ、ご飯、唐揚げ、ご飯、たまに付け合わせのサラダを食べている。


 しばらくすると厨房や店内をにパタパタと走るアイオライトの姿を、眩しそうに追いかけてみているラウルにロジャーが気が付いて、問いかけた。


「あのさ、ラウルはあの子とどうなりたいの?」


 聞かれたラウルは、唐揚げを口に入れたままキョトンとした顔をロジャーとフィン、リチャードに向けた。


「どうなりたいって……」


 ラウルは考える。

 どうなりたいんだろう。

 仲良くなりたいけど、それだけじゃないし。

 守ってあげたいけど、やはりそれだけでもない。


「兄貴とか、友達とか、かな」


「「「なにそれ……」」」


 三人同時に声が出た。

 哀れに見える。自分の主が哀れに見える。


「お茶のお代わりお持ちしました」


 タイミングがいいのか悪いのか、アイオライトがお茶のお代わりをもってテーブルに戻ってきた。


「あのね、ラウルは君の兄貴になりたいみたいだよ?」


「いや、違うんだ。ってかなんでロジャー、そこだけ切り取るの!?」


 しどろもどろのラウルに、アイオライトが追い打ちをかけるように言った。


「兄貴分と言うとマークですが、年が離れすぎているので……。でもラウルがお兄ちゃんだったら、なんだか年も近いし毎日が楽しそうですね!」


「そ、そうだね。楽しいかもね」


 返事をしたにもかかわらず、屈託なく笑うアイオライトの顔をまともに見れない、顔を真っ赤にして唐揚げを食べ続ける、ラウルがそこにいた。




「こんなに可愛い弟がいたら、心が休まらないかも……」


 またもやラウルのつぶやきを聞いてしまったリチャードは、アイオライトが女性であることを自分の主が気が付いたとき、ますます面白くなりそうだとその日を心待ちにすることにして、目の前の唐揚げに改めて集中することにした。

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