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おわりではじまり

 木島蒼きじまあおは横断歩道で車輪が壊れたベビーカーを助けようと、愛車から降りたところ赤信号に突っ込んできたバイクに運悪く轢かれて死んでしまった。

 

 助けた赤ちゃんとお母さんがわざわざきてくれたようだ。 

 ちゃんと助かってよかった。


 父と母があの子らしいと、誇らしげ助けた赤ちゃんの母親に話しながらも小さく見える背中が震えているのが見えて、申し訳ない気持ちになる。


『結婚もしないで先に死んじゃってごめん』

 

 届かないかもしれないけど気持ちを込めて謝る。


 そしてこの葬式の初めから斎場にいた友人四人が目を腫らし、しかしこそこそと何かを話しながら横たわる蒼のそばにいた。


 横たわる自分を囲む友人を、さらに上から見る。

 なんとも不思議だ。


 高校を卒業してから数十年……、蒼は最後まで独り身だったが、誰かが結婚しても、遠くに引っ越しても、ずっと付き合いは続いた。

 厨二病全開で全力で話もするし、ちょっと話しにくい話もしっかり相談できるかけがえのない仲間達だ。


 そんな仲間が自分を囲んで何をコソコソ話しているのか知りたくて、透けて浮いた体で四人の近くに寄る。


「だからさ、最近流行りの異世界転生するわけよ。蒼は黄色と青の組み合わせが大好きだから」


『ふんふん、私その組み合わせ大好き!って、異世界転生とか葬式で話すことじゃなくね?そりゃ、憧れますけど!異世界転生には!』


「黄金の瞳で、深い青の髪で、残念美少年(な女の子)に転生だよね」


『え?なんで?転生するなら金髪碧眼、素敵美少女がいいに決まってるじゃん!!何でわざわざ残念な美少年かっこ女の子かっことじ、なの!』


 がんがん周りで飛び回りながら叫ぶが、蒼のツッコミは聞こえない。


「やっぱ魔法は使える世界がいいよね!」


「それぞれが何かしらの特殊な力みたいなのがあってさ〜。でもあおっちの力だけはぱっとしないんだけど、実は……みたいな?」


『まじ?私ちょっとかっこいい感じ?』


「いや、どうだろう」


『あげられて貶められたぜ……』


 肩を落としてしょんぼりしてる間にも、異世界転生の設定は四人によってどんどん固まりつつある。


「でさ、ちょっとずつ蒼のところにみんなで集まるんだよ!あがるー!」


『待って待って、途中全然聞いてなかったよ!ワンモア!』


 先程から何度も大きな声を出しても、蒼の声は四人には届かない。四人どころかこの世の人達には届かないのだが。


 なんとかしてかっこいい設定にして欲しくて、大きく手を広げたところで一斉に視線が蒼に向いた。


「だから待ってて。うちら、血よりも濃い絆で繋がってるから、絶対また会える」


 死んでしまった自分が、これからどうなるかなんてよくわからない。異世界転生なんて物語の中だけのことだ。きっと何もかもなくなるんだと、急に怖くなって蒼はみんなに必至に手を伸ばす。


「安心して約束の場所で待ってればいいよ」


 待てと言った四人も蒼が見えているかのように手を伸ばして、全員の手が重なった瞬間、その中心が金色に光った。


 どこでどれぐらい待てばいいのだろうか。さらに約束の場所に心当たりもないが、なんとなく光の中心に向かっていけばいいのだと思った。


『みんなで、穏やかな、飛び切りのスローライフしよう!待ってるから!』


 約束だけが蒼の胸に刻まれる。


 聞こえないはずの蒼の声が聞こえたかのだろうか。


「気楽に待ってて!」


 ハッキリと返事が聞き取れた後、蒼の浮いていた体がみんなの真ん中にあった金色の光と共にふわりとさらに上がっていく。


 しかし、ふと蒼の脳裏に疑問が浮かんだ。


『いや、待って!私、みんなの設定わからんし、会った時わかるかわからないじゃん!おーい、教えてー! 教えてー!』


「向こうで会えば、まぁなんとなくわかっちゃうでしょ。」


『そんなわけあるかー!!』


 締まらない最後の叫びと共に、蒼の意識は金色の光に吸い込まれ、プツンと途切れた。

 

 意識が途切れる直前、爽やかで甘酸っぱい香りが体を包んだ気がした。

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