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リジェネ・スピラー  作者: ジオサイト
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5-12 ロック・オン


足元が小さく振動している。爆発が続いているのだろう。いくらなんでも多すぎやしないか。内部に裏切り者でもいるのだろうか・・・まぁ、僕が責められる立場ではないし、責めるつもりもないのだけれど。


「・・・行きましょう」


 温室の入り口は、一番近くにいるスナイパーからは死角である。セージは【暗視スコープ・ズーム機能】で、向かいのビルの屋上に這いつくばっているスナイパーの顔と銃を確認した。【ロック・オン】を発動させる。

 敵の通信機へのアクセスを試みて、周波数を探ってみる。数秒ノイズが続いたが、ある瞬間に繋がった気配がする。セージは適当に、自然な声色を合成した。


「待機している、全スナイパーに告ぐ。わたしはカドケウス社、医学班責任者、サマエリナス=マリードの直属の部下だ。民間人を保護したので、いまから脱出作業へとりかかろうと思う。通常の脱出が不可能だと判断したので、いまから特別ルートを開く。万が一にも攻撃はしないでほしい」


《さきほどマシンガンを乱射していたようだが?我々は敵か民間人か判断しかねている》

「どうやらテロリストのヘリと勘違いをしたらしい」

《ウイルステロの可能性もある。半径五○○メートルの――》


 ふ、と独自で発電していた温室の照明が消えた。


《あ、何も見えなくなったぞ。おい、何があった?》


 先に温室へと降りたファレガのあとを追い、セージは温室へと入った。観賞用の発光キコノも栽培してたようで、星のような青白い光が温室に散っている。

 セージに抱擁されながら、ファレガは手榴弾のスイッチを押した。準備音、準備完了音がすると温室の奥へと投げる。耳を塞いだ一瞬後に鼓膜のやぶれそうな音が破裂した。

 衝撃と熱風が巻き起こるが、セージの背中に守られ、彼女の生身は無事だ。


「うわぁぁぁっっ」

《おい、どうし》


 セージは第四条を発動させ、三原則を破った。


 相手は所詮人間だし、補助しているのは機械である。その両方であるセージは、半径三百メートル内にいるスナイパー全員が使用しているヘルメットコンピューターに侵入し、誤作動を起こさせた。無意味な情報を大量に流し、強いノイズと不協和音をイヤフォンから流す。とどめに視覚補助グラスの内側で閃光を放つと、悶絶していたスナイパー達は気絶した。

 その間にも、防弾ガラスでできた温室の中で赤いバラが対流するように舞っていた。唯一開いている屋根の穴から、外側へ向って煙とバラの花びらが噴出していく。その様子をうっとりと見つめていたファレガだが、セージに促されて温室を出る。


「行くよ」

「何をしたの?」

「走るよ」

「全力でっ?」

「そう」


 対極に向って走る。並んで屋上をつっきり、セージは改造窓をフリスビーのようにビルの外へと投げた。

 ファレガを抱えるとビルから跳ぶ。

 手榴弾へ爆発する周波数を流す。

 ダズロン支社とビルの間ほどで、手榴弾が連動して爆発した。

 防弾ガラスでできた窓は一瞬だけ引力に逆らい、浮上する。

 セージはその窓を踏み台にすると、勢いをつけてそれを蹴りあげ、ダウンロードしていたオリンピック優勝選手の走り幅跳びを実践モードに切り替え、ロボットに出来る最高限界跳躍モードを掛け合わせ、向かいのビルを目指して跳んだ。


 腕を精一杯伸ばし、ビルが目前となる。もうすぐ手が届く。届きそうになる。指先が屋上の端へと触れる。指に力を入れた。すり抜ける。爪を立てる。視界が下がっていく。凹凸を探すが、平坦な窓に足掛かりはない。セージは顔を顰めて、片腕に力をこめた。


 険しい顔のセージと、必死にセージに抱きついている赤い髪の少女が、マジックミラーの表面を高速に落ちていく。指先がビルの表面を引っかきながら、爪を立てていく。頭上で火花が散っていた。手袋は瞬時に擦り切れ、人工脂肪がこそげ落ち、金属部分が急速に磨り減っていく。

 セージは足先をビルの表面に押し付け、ストッパーの役目をさせながら、必死にファレガを抱きとめていた。オレンジ色の火花が咲いている。


「くっっ・・・」


 耳障りの悪い高音から、ガリガリガリガリガリ。ガリガリ・・・と、抵抗音が低くなっていく。セージは息を止め力を込めた。摩擦によって指の半分近くがなくなっていたが、それでも落下は止まった。深いため息を吐きながら、そういえば呼吸は必要なかったな、と少し冷静に戻りつつある自分を確認。


 壁から足を降ろすとすぐに地面に足先が届いた。小脇に抱えていたファレガを先に降ろす。少しよろめいたが無事のようだ。壁から指を抜いて観察していると、自分でも気づかない内に口角が上がった。


「どうしたの?」

「うん・・・僕にもできることがあったみたいだ」


 セージの胴体にファレガが抱きついた。セージは彼女を抱き寄せる。


「行こう。すぐに追っ手がくる」


 ファレガは頷くと、セージの顔を見た。


「・・・話したいことがたくさんあるの」

「うん・・・僕もだ・・・」

 

 ――その数分後。新たな警官がその場に駆けつけた頃には、奇妙な五本の線がビルに残っているだけで、二人の姿はどこにもなかった。

 停まったパトカーの下には、マンホール。どうやらそのマンホールの下の道を使ったことは、パトカーが上にかぶっている限り、知れそうもなかった。 


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