5-10 ティー・スプーン
セージは足元を見た。改造マシンガンと、手榴弾、人間の警備員が接近戦で使う小型の楯と、煙幕弾が転がっている。
「これから・・・どうしたい?」
セージはファレガの耳元で囁いた。
階下が爆発していく音が聞こえてた。
「逃げましょう」
「どこへ?」
「どこかへ」
二人は見つめ合った。
「ヘリはもう、ない。それにさっきから、向かい側から見られているよ」
「知ってるわ。きっと顔を見られているわね」
ファレガは足元を見て、そしてセージを見た。
「さっきみたいなジャンプ、もう一度できる?」
「百回でも、二百回でも」
ファレガは微笑し、そして手榴弾を握り締めた。そしてセージの耳元で、脱出の計画を話し始める。セージはそれを全て聞いたあと、にっこりと笑った。
「楽しそうだね。だけど、もっといいジャンプ台が手に入るよ」
「本当?」
セージは屋根の上を移動すると、スライドした窓の電子センサーにアクセスし、枠で区切られた窓の一部をぱかりと外した。約一メートルの三角形だ。
「簡単にとれるのね?」
「この手のガラスは、汚れたり傷が付いたりした時のために取替えがきくんだって。本当は所有者の電子暗号を使わないと反応しないんだけどね」
「じゃあどうして?」
「コンピューターに侵入した時に、偶然見つけたんだ」
セージは窓をおろし、温室にあったティー・セットのスプーンを圧迫して止め具代にすると、手榴弾の入ったポシェットを楯の内側に固定した。楯の上に窓を乗せ、ファレガの持っていた薄いストールで締めた。
「・・・大丈夫かしら?」
「一秒もってくれれば、それでいいよ」
《――おい、聞こえるか。ヒューマノイド》
セージは通信機を思い出して、応答した。
「どうかした?」
《・・・ヘリに乗っているロボットに遠隔命令は可能か?》
「おそらく・・・通信機ごしでも、周波数が合っていれば反応すると思うよ」
《なら、負傷者を運ぶように命令してくれ》
「それより、君の命令を聞くように言えば早いんじゃない?」
《可能か?》
「やってみる。《ロボッツ、聞こえるか?お前等の目の前にいる操縦席の男の命令をきくよう、わたしは命令する》・・・」
《《イエス・サー。了解しました》》
「・・・これでいい?」
《ああ・・・・・・お前はこれからどうする?》
「さぁ?とりあえず、脱出して〝確かめて〟みるよ」
《・・・そうか》
一瞬のノイズと共に通信が切れた。セージは顔を顰める。
「クールなふりが上手いな」
ファレガはセージの顔を覗きこみ、「お友達?」と聞いてきた。セージは思わず苦笑すると、大丈夫だよ、と、彼女の頭を撫でて改造版の窓を小脇に抱えた。
「行こうか」