5-01 復讐
五章 ”現実”という概念こそが幻想なのか
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神は死んだ。
(ニーチェ)
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いっそう大きな爆発音が支社長室に響いた。
「あっ・・・あああっ・・・」
アレクが近づいてくる度にギシュリ、ギシュリと足音がした。
ノイスは魔除けの呪文を唱えながら、震える手でマガジンを装着した。『制裁』という言葉が擬人化されたような姿が、自分の命を狙っている。とにかくこの空間から逃げ出したかったノイスは、叫びながら銃を乱射した。
デスクの陰から飛び出したノイスは、ドアに向って走り出した。アレクは悠然と銃弾を避けながら、ノイスに近づいて行った。恐怖に顔を引きつらせ、意味不明な言葉を叫ぶノイスから銃をもぎ取り、アレクはノイスの両の太ももを撃ち抜いた。
「ぎゃあああっ・・・ああっ・・・」
ノイスの顔は醜く歪み、涙でぐしゃぐしゃになっていた。アレクから逃げようと無様に床を這い回りながら、ブランド物のスーツで掃除している。
バン。
アレクは眉間を寄せ、太ももを押えているノイスの片腕を撃った。悲鳴を聞いていも、何も感じない。意外なほどに冷静な人格がノイスを見下ろしていた。
「あっ・・・ああ・あ・・・」
「・・・・・・憶えているか?お前がやった、残酷な所業を?」
「あ、あれはっ、あれは俺がっ、俺だけじゃないっ。俺はやってないっ」
「心配するな。お前の仲間はすでに、地獄でお前を待っている」
ノイスは血走った目を見開いた。
「お、お前なのか?あいつらを殺ったのはっ・・・あ、あっ・・・し、しかしっ、俺は―俺はやってないっ。あいつらが好きにしてるのを俺は見てただけだっ。ほ、本当だっ」
「あいつらが好きにしてるのを、ただ、見てただけ?七回も?それが本当なら、お前は七回も居合わせておいて、何もしなかったんだな?止めもせず、咎めもせず、親から多額の隠蔽代を出させておいて?」
アレクはもう片方の腕の、二の腕あたりを撃った。
「ぐぅあっっ・・・」
「被害者の指に、金色の毛髪が絡まっていた・・・当時の犯人グループの中で、髪を金色に染めていたのはお前だけだ。ノイス=シューゼン・・・」
「な、なぜっ・・・そ、そんなの分からないじゃないかっ。毛髪なんて――そ、そんな報告聞いてなんか―」
ノイスははっと我に返った。
「『そんな報告聞いていない』?」
「あっ、あ、ま、待てっ、待ってくれっ。違うんだっ。これはっ――」
アレクはノイスの腹を撃った。ノイスはくぐもった声をあげ、体を丸めようとする。しかしアレクは足で肩を蹴り、もとの姿勢に戻した。
「俺は見たんだ。八つの春先・・・お前が俺の母を車で連れ去った所をっ・・・」
また一発、ノイスの腹に銃弾が撃ちこまれた。
「忘れられないんだ。あの、棺の中に入った母の顔の、大きなアザがっっ・・・」
バンッ。
ノイスの右肩が赤く濡れた。




