4-11 アンドロイドとバトル
敵は三体。長い黒髪に黄色いサングラスの白人種XX型。白い山高帽の眉無し白人種XY型。そして薄茶色の肌と髪を持つ、白黒混血系・もしくは多種混合系XX型だ。
その三体が一列になって走って来たので、アレクは懐に飛び込むのが得策と判断し、勢いよく義足の方から踏み出して走る。山高帽の首元を狙い飛び蹴り。通常の敵ならその威力に首が折れて死ぬか、重傷で床に伏す筈だ。
しかし山高帽は顔面に腕を翳し防御すると、上半身を捻りながらアレクを空中へ払い飛ばした。特別戦闘用に改造されている腕力は凄まじく、部屋の真ん中でぶつかりあった青年の体は、ドア近くの天井まで飛ばされている。
その瞬間、ブライアンか市長の部下が仕掛けたのだろう。収納されたソファの辺りから爆発が起こり、その衝撃は蓋を拉げさせながら周辺の床を揺すぶった。家具と共に飛び散る人間二体分の肉片にノイスは悲鳴をあげ、デスクの陰に転ぶ。爆発地点近くにいたアンドロイドはバランス保持機能を自動発動させたが、それでも大きく体勢を崩した。
空中にいたアレクは一瞬だけその影響を受けず着地し、低姿勢のまま獲物を狙う猫猛獣を思わせる走りで間合いを詰め、左手に握った銃を発砲。軽々と避けられた軌道を予測したうえで、金属リストバンドを付けた右手を山高帽に向って突き出した。
中から調合金でできた針鉄線が飛び出し、しなやかな光線が放射したかのようにXY型の眉間を貫く。山高帽が床に落ち、無表情な両眼から赤い光が消えた。手首を回すと鉄線の根元が折れ、ただの人形と化したXY型が後頭部を打ち付けるように床に倒れた。
仲間が倒された動揺など一切なく、XX型二体が攻撃を仕掛けてくる。間合いが狭まったことを利用し、薄茶髪のすらりとした足が下段の蹴りを、黒髪が服の中から銃を抜き取り、撃ってくる。
アレクは覚醒の段階をもう一段上げる。
床の上を滑るような足元を掬う攻撃を、アレクは軽々と飛び越え、膝を曲げて上半身をうしろに倒し銃弾の軌道を避けた。瞬時に上半身を上げると銃を持っている黒髪の腕を掴み、捻り回して腕を折った。電子回路が千切れ、内側がショート。その隙に銃をもぎ取り背中側――敵の死角に回り込み銃を発砲。
その時間、約三秒――。
一発目がのど笛の裏を貫通し、黒髪が攻撃に反応し始めたせいで二発目は首横を掠り、アレクが間合いを取るために大きく後退った三発目は鎖骨に当り、黒髪が完全に振り返った四発目は心臓部に命中、五・六・七・八発目は胸部にめり込んだ。
青い電気が傷口に走っているのがアレクには確認できたが、黒髪はまだ立っている。
薄茶髪がアレクの脇腹を狙って手刀の突き。人間の指を模してはいるが、中身は金属である。戦闘モードになればナイフのような指先が掠ると、ローブが大きく裂けた。
脇腹に薄っすらと痛みが走るが、致命傷ではない。
体重軸を咄嗟に移動させ、薄茶髪の首を巻き込むように掴む。渾身の力を込めながらその前屈みの体勢の背中を域をいをつけて転がると、首内部が捻れる妙に生々しい音が聞こえる。それでも完全には電子回路が破壊されてはおらず、着地したアレクの首元を狙って薄茶髪は大きく手刀を突き上げた。
アレクは片手を床に突いて後方へ回転する。
ノイスが護身用の銃を乱射してきた。そのまま側転で銃弾を避けるが、床に広がった緑目と青髪の血で手が滑り、紙一重で銃弾を避けていたタイミングがずれる。乾いた音と同時にアレクの左足から血が弾けた。
「くっ」
顔を顰めたアレクは、それでも倒れることなく血溜まりの中に足をついた。瞬時に片腕を発砲者へ向け、銃の引き金を引く。金髪の黒人が構えていた銃が弾き飛び、持ち主は悲鳴を上げて赤い片手を押さた。
アレクはもう一度引き金を引き、銃弾切れの音を聞く。思わず舌打ち。
悪運が強いノイスはデスクの下へと蹲った。
「ああっ・・・手がっっ、手がぁぁっ・・・」
声を聞くだけでも嫌悪感と憎悪が這い上がって来る。
アレクは弾切れの銃を捨て、デスクを睨みながら立ち上がった。
殺意感知機能、三原則の第一条の発動により、平行感覚が故障したアンドロイド二体が侵入者の行く手を遮る。黒髪が正常に動く腕の方で手刀の突きを出すが、動きの遅い薄茶髪はアレクに捕まえられ、楯になった。
機械でできた腹から背中を、黒髪の腕が貫く。血のような褐色の機械油が飛び散った。前かがみになった薄茶髪のアンドロイドは停止し、ぐったりと脱力した。黒髪は差し込んだ腕を抜き取ろうとするが、人工皮膚が捲れ上がった状態では上手くいかない。精密機械で構成された内部同士が擦れ合い、ショート。一瞬にして体内に電流が駆け巡る。
薄茶髪と繋がったまま床に崩れ落ちると、苦痛にのた打ち回るように体を痙攣させている。人間が絶命した時のように首がことりと傾くと、活動が停止した。