4-10 40年前の爆発事故の犯人
『ファレガ・・・みんな・・・』
僕は絶望した。実験という名の愚行に。無力な僕自身に。
このまま上層部に訴え出ても、これだけ大規模な実験を彼らが把握していないわけがなかった。つまり上層部は、全て知っていて黙認しているのだ。もしかすると、彼らの指図で医学班が動いているのかもしれない。
いや。その可能性の方が大きかった。
僕は絶望した。上層部に。社会に。生きることにも。
《危険です。インストールを中止して下さい》
『ファレガ・・・』
僕の力で、逃がしてやることはできなかった。唯一助かるかもしれない方法は、実験棟が緊急事態に陥り、混乱することだ。
身体能力に優れた彼らなら、数パーセントは・・・そして命は助からなくとも、限りなく続くその苦痛から解放してやる方法があるとすれば、これからおこす行為も許されるのではないか・・・僕はそう思った。
《危険です。インストールを中止して下さい》
『ファレガ・・・』
《インストールを中止して下さい》
僕は画面の中にいるファレガの写真と目を合わせた。登録番号と推定年齢・性別・身体的特徴だけで、本名は表示されていない。そう。検体に名前など必要ないのだから、いくら検索しても出てくる筈がないのだ。
僕はそれすらも忘れていた・・・。
《危険です。インストールを中止して下さい》
《危険です。中止して下さい》
《危険です》
《危険――》
『ファレガ、一緒に死のう・・・』
彼らの予想は正しかった。
僕は自ら死を選んだのだ・・・父と同じように。
そしてあの爆発事故は――、
事故じゃない。事故として扱われているのは、おそらく上層部お得意の隠蔽だろう。博士が僕の存在を隠していたのは、当然その真実を知っていたからだ。
僕があの、実験棟の爆発事件の犯人だ。
僕は実験棟のマザー・コンピューターにハッキングを行い、そしてプログラムを書き換えた。管理システムを破壊して、実験体が監禁されている部屋のロックを解除し、警報を鳴らし、警備員達の通り道を塞いだ。
そして僕は、バイオハザード用の爆発機能を作動させ、
【 実行しますか? 】
というパネルの問いに―――、
《YES》
を、選択した・・・。
けたたましい、大地の怒りのような震動だった。
メイン・コンピューターの一部が、本部からの情報量とセージの精神ダメージに反応して、爆発を起こした。赤い炎と黒い煙が部屋の中を包み、ドアの前にいたロボッツは壊滅した。すぐに警報が鳴り、蒸発性が高く精密機械に無害の、特殊な消炎水が降り始めた。
「な、なにっ?」
ラーヴィーとムイ、そして三人となった援護団はセージへと振り向いた。
降ってくる先から蒸発してく雨が、床の辺りで白い煙になっている。虚ろな瞳のオレンジ髪の青年は、自分の体を抱きめながら震えていた。
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