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リジェネ・スピラー  作者: ジオサイト
62/83

4-10 40年前の爆発事故の犯人

『ファレガ・・・みんな・・・』


 僕は絶望した。実験という名の愚行に。無力な僕自身に。

 このまま上層部に訴え出ても、これだけ大規模な実験を彼らが把握していないわけがなかった。つまり上層部は、全て知っていて黙認しているのだ。もしかすると、彼らの指図で医学班が動いているのかもしれない。

 いや。その可能性の方が大きかった。

 僕は絶望した。上層部に。社会に。生きることにも。


《危険です。インストールを中止して下さい》


『ファレガ・・・』


 僕の力で、逃がしてやることはできなかった。唯一助かるかもしれない方法は、実験棟が緊急事態に陥り、混乱することだ。

 身体能力に優れた彼らなら、数パーセントは・・・そして命は助からなくとも、限りなく続くその苦痛から解放してやる方法があるとすれば、これからおこす行為も許されるのではないか・・・僕はそう思った。


《危険です。インストールを中止して下さい》


『ファレガ・・・』


《インストールを中止して下さい》


 僕は画面の中にいるファレガの写真と目を合わせた。登録番号と推定年齢・性別・身体的特徴だけで、本名は表示されていない。そう。検体に名前など必要ないのだから、いくら検索しても出てくる筈がないのだ。

 

 僕はそれすらも忘れていた・・・。


《危険です。インストールを中止して下さい》

《危険です。中止して下さい》

《危険です》

《危険――》


『ファレガ、一緒に死のう・・・』


 彼らの予想は正しかった。

 僕は自ら死を選んだのだ・・・父と同じように。

 そしてあの爆発事故は――、

 事故じゃない。事故として扱われているのは、おそらく上層部お得意の隠蔽だろう。博士が僕の存在を隠していたのは、当然その真実を知っていたからだ。


 僕があの、実験棟の爆発事件の犯人だ。


 僕は実験棟のマザー・コンピューターにハッキングを行い、そしてプログラムを書き換えた。管理システムを破壊して、実験体が監禁されている部屋のロックを解除し、警報を鳴らし、警備員達の通り道を塞いだ。


 そして僕は、バイオハザード用の爆発機能を作動させ、

【 実行しますか? 】

 というパネルの問いに―――、

《YES》

 を、選択した・・・。


 けたたましい、大地の怒りのような震動だった。


 メイン・コンピューターの一部が、本部からの情報量とセージの精神ダメージに反応して、爆発を起こした。赤い炎と黒い煙が部屋の中を包み、ドアの前にいたロボッツは壊滅した。すぐに警報が鳴り、蒸発性が高く精密機械に無害の、特殊な消炎水が降り始めた。


「な、なにっ?」


 ラーヴィーとムイ、そして三人となった援護団はセージへと振り向いた。

 降ってくる先から蒸発してく雨が、床の辺りで白い煙になっている。虚ろな瞳のオレンジ髪の青年は、自分の体を抱きめながら震えていた。

 


 ◆*◆*◆*◆


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