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リジェネ・スピラー  作者: ジオサイト
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4-07 新たなる統治に向けて


 銀髪の市長は、その紫色の瞳を細めた。


「カドケウス社の技術は認めよう。医療班の起源となった製薬会社が、悪魔風のワクチンを開発したために、今のわたし達があることには感謝している。しかしそのワクチンへの順応能力が高かったからと言って、サロイディが全てにおいて秀でている、と勘違いしたのがいけなかったのだ・・・そこから世界は、おおいに歪み出した・・・」


 白人である市長自身、若い頃には苦々しい屈辱を体験している。その日々の中で手に入れた不義ではあるが真実の愛情の中で生まれた娘が、目の前の男の身勝手によって消えてしまったのだ。どんなに内側に押し込めた所で、今の市長に嫌悪や憎悪が隠しきれるわけがなかった。


「カドケウス社の本部がなくなってもらっては困る。しかし、日々不満が募る市民の大規模な反乱を考えれば、人権問題の元手となった会社の末端ぐらいには、痛手を負わせておかねばならなかった・・・」


 市長は立ち上がると、ノイスを睨みつけた。


「わたしはサロイディ以外の人種のために、新政治をおこなうつもりだ。そのために、君には生贄になってもらう。そして娘の、仇をとらせてもらうことにしよう・・・」


 ブライアンも席から立ちあがり、こちらは飄々とした口調で続ける。


「悪いけれど、僕も同じ理由で君には死んでもらいたい。僕はこれから、自分の手で社風を変える。そのための強力なコネも得た。君は謎のテロリストに殺され、そしてテロリストは捕まることなく逃亡する。大半の市民は、口を噤むだろう」


 ジグザグ染めの男がコートを広げると、ブライアンはそれを着た。


「ヘリは二台ですみそうだ・・・」


「何を・・・何をバカなっ、しょ、証拠はっ?何か証拠があってそんなデタラメをっ」


「君のお父様の口座から、過去に七回ほど、莫大なお金が引き出されているね。それとほぼ同時期、未解決の殺人事件がおきている・・・これは、偶然なのかな?」


「ぐっ、偶然に決まってるっ。どうして俺がそんなことをっ――」


「そうであろうがなかろうが、君に逃げ場所はないよ」


 市長とブライアンはアレクの方に向って歩き出した。ガードの一人が拍手のように二回手を叩いて【収納】と言うと、ソファとテーブルが床へと沈んでいった。

 ソファの近くに倒れていた二人の死体は、その穴へと落ちる。一メートル以内にいる生物に対しての感知装置はついているが、生物でなくなった人間は例外らしい。床の蓋は静かに閉まっていき、血溜まりだけが残った。 


 ブライアンは擦れ違いざまにアレクに言った。


「屋上にヘリを一台残しておく。君は操縦ができたるんだよね?」


 アレクは頷いた。


「じゃあ、あとは任せた・・・」


 アレクは市長を横目で見る。視線が合った。


「パーティーに同行していた少女は?あの、赤い髪の・・・」


「ああ、彼女か・・・彼女には大きな恩があってね。頼まれたので一緒に連れて来たが、おそらくはあの爆発に巻き込まれたんだろう・・・残念だ・・・」


「さきほど見かけた」


 ――と言いかけて、アレクは口を噤んだ。


 現在生き残っている確率は少ない。それに出世の為に娶った黒人妻を殺害してくれと依頼し、エスコーターに十代前半の少女を連れて来る不貞男に、教えてやる義理は無い。

 仲介人は明かさなかったが、ハロルド・K=アンダラーガが、依頼人だとアレクは思っている。市長は、アレクが自分の妻を殺した人物だと気づいていないようだった。


「では、ノイス君。次は葬儀で会おう・・・」


 五人が部屋を出て行くと、室内にはアレクとノイス、そして三体のアンドロイドが残された。ノイスは動揺を隠せない声で、「命令だっ」と叫ぶ。


「戦闘モードに切り替えっ、わたし以外の人間を排除しろっ。暗殺者だっ。殺せっ」 


《【【了解しました】】》


 アンドロイドの瞳の色が、真っ赤に変化した。戦闘モードに移ったのだ。

 アレクは静かにかまえ、挑発するような手招きの仕草をしてみせる。

 彼らが逆上することはないが、それを合図に三体が走り出した。


 ノイスはデスクまで駆けて行くと、引き出しの裏にある緊急信号ボタンを押した。その通信だけは、メインコンピューターの介入なしに、付近のロボッツに命令できる。


「侵入者だっ。警備っ、いますぐ来いっ」


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