4-06 市長
「撃て」と、ソファに座っていた痩せ型の男が言った。
手前にいた三人のガードは素早く反応し、銃を一発づつ撃った。
目標物から血が飛沫く。
ガード達が体を移動させたために、ソファの死角に遮りがなくなった。
肘掛に添えられた繊細な指の上で、ルビーの指輪が光っていた。
撃たれた人物の体が、ゆっくりと傾いていく・・・。
アレクは、〝ブルー〟の横顔を発見した。
ブライアンはそれに気付き、目を細める。
ノイスは口と目をぽかんと開けていた。
青髪の男が、口から血を流して床に倒れる。
ブライアンの背後に立っていた黒人男の気配も、どしゃりと倒れ込んだ。
側にいたガード達は銃を降ろし、再び背中の方で手を組んだ。
「なっ・・・なっ・・・」
ノイスは驚愕のあまり震えていた。ソファに座りコーヒーを優雅に楽しんでいる同僚の両側では、部下だった男達が倒れている。客人側のソファで隠れている死体から、血溜まりが広がっていた。
「なっ・・・何をっ。何を考えているんだお前達はっ。相手が違うだろうがっ、この能無しっ。早く侵入者を撃つんだっ」
《侵入者を捕獲しますか?》
「そうだっ、やれっ」
アンドロイド三体が動き出そうとするが、「止まれ」と言う命令が出された。
「侵入者を攻撃するな」
ノイスは、ブライアン=コルネの向かい側に座っている、壮年の男の言葉に驚愕した。
「何を・・・何を言っているんです?市長っ?悪いご冗談を――」
「冗談ではない。君には今日ここで、死んでもらわねばならない」
ノイスは口を大きく開け、顔を引きつらせた。
――これは夢か?
そんな儚い希望を打ち砕くかのように、ダズロン市の市長は言った。
「君は、大きな罪を犯したね・・・?」
心臓が高鳴る。
「な、何を?僕が何をしたと言うんですっ?」
「君はわたしの娘を汚し・・・そして殺した・・・」
ノイスは言葉を失った。
心外や呆れからではなく、身に覚えがあったからだ。
市長は懐中時計型の立体映像機を取り出した。
光の中に映像が現れる。
金色の長い髪が細い首にかかり、控えめな服を着ている少女が、はにかみながら笑っていた。
ノイスの小麦色の顔は引きつっている。
「あ、あああああ、あなたに子供はっ・・・」
「彼女を産んだ母親には、わたしではない夫がいた・・・分かるだろう?この意味が。わたしは実の父親として名乗り出ることができなかったが、父親としての愛情がなかったわけではない。母親から定期的に届く写真だけが、唯一の楽しみだった・・・それを・・・それを君は奪ったっっ・・・」
結婚指輪をはめた拳が、ドン、と肘掛を叩いた。壮年の男はっと我を取り戻し、気を落ち着けるために深く息を吐いた。その時にはもう、彼の顔は〝市長〟に戻っている。
「犯人が黒人であると分かって、わたしは必死に裏金を作り、『初の白人市長』という肩書きを手に入れた・・・権力を使える地位についた途端、色んなことが分かったよ・・・シューゼン君?」
ノイスは呆然としていた。
市長はホログラマーをしまった。
「新商品のアンドロイドには、なぜ【サロイディ・タイプ】が少ないのだろう?なぜ君達の会社が出している人型ロボットの部品カバーは、白が多く使われている?なぜ、【白】なんだ?クレームがあってはじめて、カバーの一部に【黒】が使われた。それでも白の割合が多い。それは何故だ・・・?」
金髪の黒人は答えない。
その代わり、市長の隣に座っている青年が口を開く。
「答えは簡単だ。サロイディはまだ、支配する立場から抜け出せていない」
「そうだ。【白】と【黒】の間では、未だに踏み込めぬ溝がある。どうして人種によって居住地区が決まる?年にどれぐらいの人間が、人種問題で死ぬ?どれぐらいの確率で、加害者のサロイディが無罪になるのだろう・・・?」




