4-05 ターゲット
援護団の一人が手榴弾を投げ、ドアのあたりが爆発した。ムイとラーヴィーは、はっと我に返り、セージに戦闘の意思がないことを悟って、参戦を開始した。
薬莢が床を跳ね、火花が散り、銃弾が飛ぶ。
ここ数十年は戦いらしい戦いがなかったために、武器の向上はほとんどない。しかし一般人向けに拳銃専門店が開かれ、護身のために銃を持つようになるまでに治安は悪化しているようだ。今では〝潔癖時代〟と言われているセージの十代の頃には、考えられなかったことである。
セージは髪の中へと指を入れた。耳の付け根のあたりを探ると、血管めいたファイバーが伸びてくる。それをメイン・コンピューターに差し込み、自分の意識と連結させた。
セージの頭内部は特別設計の最新型だが、直接干渉なしに特別管理された情報にアクセスすることはできない。
途端にパネルが黒一色になり、緑色の暗号や記号が雨のように画面上を流れていく。
セージはそれを解読しながら、意識を奥へ奥へと集中させた。まるで産道を通る時のように意識がファイバーの中を急速に移動し、白い光が大きくなっていく。フラッシュを通り過ぎると、本社の〝マザー〟へとたどり着いた。
「やぁ、マザー。久しぶりだね・・・」
しかしマザーは異常を察知してか、いくどかバリケードを張ってきた。見えない壁が競り上がったり、回転する網が襲って来たりする。セージの意識は鉄格子の隙間を潜り抜けて、何本もの有刺鉄線が空間を交差する前に走り抜けていく。
電子脳内の中で木製のドアを開けると、大量の雨に襲われた。高速に落ちていく情報の雨だ。セージはその無作為で意味不明な情報に混乱しかけたが、深呼吸をして『防御』という名の傘を取り出し、それを広げた。
雨が傘の表面を滑っていく。セージはその中を悠々と歩いた。
「そんなに拒絶しないで欲しいな・・・俺は唯一、ファザーになれる存在なのに・・・」
セージはベルガ博士の顔を思い出した。
途端に検索が始り、彼に関する情報が提供され始める。
さらに奥へ。もっと奥へ。
研究結果が欲しい・・・さぁ、早く。
空間に現れた扉を開け、図書館に入った。本棚の間にベルガ博士の立体映像が立っている。彼が指差すおびただしい本の中から、【極秘】を検索した。
すると本棚がセージの方へと移動してきて、【極秘報告書】と表示された本が飛び出してくる。【過去四十年】という単語を付属させと、ページが勝手に捲られて、『ユーノアス人種の人体実験・および研究結果』という項目がヒットした。
セージはそれを脳内に取り込み、コピーしていく。
◆*◆*◆*◆*
「おいっ、おいっっ・・・くそっ」
アレクは険しい顔でイヤホンに手を当て、幾度となく話しかけていた。
「もう、知らんぞっ・・・」
アレクは赤い光線を背後にしている。
――奴らが何処で死のうと知ったことか。俺には関係ない・・・目的はノイス=シューゼン。それが終われば、俺の生きている目的も終わる。
ドアを潜ると、小さな応接間があった。豪華な活花を横目にそこを通り過ぎ、アレクは自動ドアの気配感知範囲ぎりぎりのと所で立ち止まった。
広い袖に隠された拳を握り締め、目を瞑って深呼吸をする。
一歩、踏み出した。
アレクが伏していた視線を上げていくのに連動するように、ドアが開いていく。
ドアの向こうに、八人と三体の人影を見つける。
「誰だっ?」
手前には銃を構えているガードが三人。茶髪のメガネ男と、大げさに言うと砂時計みたいな体形の女、刈り込んだ髪がジグザグに白金と黄金に染められている男だ。
ソファに座っている二人の男は、そのガードが遮りとなって人影しか見えない。
そのソファの両側に、水色の髪を束ねた白人男と、緑色の瞳の黒人男がいる。
「両手をあげ、頭のうしろに」
アレクは言われた通り、ゆっくりと両手を胸元まで上げた。ドアと表裏一体の絵画の側に立っているのは黒人の男だ。髪の色は、脱色した金。
――・・・ノイス=シューゼンだ。




