4-04 神か悪魔
「いよいよ最終章ねっ」
《ああ・・・》
ラーヴィーはパネルを操作しながら、支社長室へのハッキングを試みている。ノイスが使っていると思われるコンピューターへの侵入が可能になり、扉を開いていくように次々と情報を開けていく。
ラーヴィーの数歩うしろで、ムイがふと首を傾げた。
「ソウ言エバ、通信ガトレマセン。ミカナス、ドコデスカ?」
《・・・それは・・・・・・》
「・・・・・・グレイ?」
”グレイ”が口を開きかけた時、メイン・コンピューター室のドアが開いた。
背中越しに四角い光が差したことに気付き、その場にいた全員が振り返る。薄暗い室内に逆光を背負っているのは、赤い燕尾スーツを着ているセージ・サクトだった。
「動くなっ」
援護団がセージへと銃口を向けた。セージは虚ろな顔で立っているだけで、反応を示さない。ムイも銃を構え、そして奇妙な感覚に顔を顰めた。
《おい、どうした?奇襲か?》
アレクの問いに、ムイは答える余裕がなかった。腕には粟が立っている。
「何ダ・・・『アレ』・・・人間、アンドロイド、ドッチモ違ウ・・・」
セージは目を細め、ムイを見つめた。
「なぜ、一目で・・・?」
ムイは唾を飲み込んだ。
「機械、人間、アナタ違ウッ・・・」
セージが苦笑を浮べると、警備ロボッツが到着した。青年の背後から銃を構える。
「貴様、カドケウス社の者だなっ?」
援護団の一人が引き金を引いた。
セージは弾丸の軌道を瞬時に読み取り、スローモーションに見える透明な風の道を、ドアの縁にぶらさがる、という行為で避けた。そのまま勢いよく背中を逸らし、その反動で部屋の中へと飛び入る。
いっきに部屋の真ん中に着地したセージは呆然としているムイ達を無視し、うしろに控えている警備ロボッツに向って、「ロック・オン機能で攻撃しろ」と命令した。
《おい、誰か応答しろっ》
二列に並んだ警備ロボの前列が膝をおり、プログラムされている筈の【警告】なしで発砲してきた。ムイは咄嗟に、デスク型のコンピューターの裏側へと逃げ込む。
《おいっ》
援護団の一人は肩と腹を撃たれ、他の二人に支えられて別のデスク・コンピューターの裏側へと飛び込んだ。すぐさま反撃を開始し、一体一体を確実に倒していく。
「メイン・コンピューターは破損させるな・・・」
その命令のおかげでラーヴィーは狙われずにすんだが、セージは幻想を見ているような顔でコンピューターへと近づいて来る。
ムイはセージの背中を撃った。バン、という音がして燕尾服に穴が開く。銃弾が金属にのめり込むが、セージは痛みを示さず、振り向きもせずにパネルに向って歩き続けた。ただでさえ白いラーヴィーの顔から、血の気が引いている。
《おいっ、・・・――死んだのか?》
気合の声と共に、ラーヴィーはセージの首もとに手刀を落とした。渾身の力を込めて勢いよくくりだされた右手が、ミシッ、と奇妙な音を出す。
ラーヴィーは目を見開いた。
平然と視線を合わせてきたセージの異様さが衝撃的で、痛みは感じなかった。
「ごめん・・・折れたかもしれないな・・・」
セージは困惑した顔でラーヴィーの胸倉を片手で掴み、軽々と持ち上げた。
「あっっ?」
ラーヴィーはムイのいるデスクの裏側まで投げ飛ばされた。床を滑るように転がり、ムイに受け止められる。
「なんなのよっ?」
すぐに起き上り銃を拾って反撃しようとしたが、隊長は副隊長の腕を掴んだ。
「ダメネッ。彼ハ『生キテ』ナイ・・・ダカラ、殺セナイッ・・・」
「何言ってるのよっ?」
ムイの純粋な黒い瞳は、畏怖を孕んでオレンジ髪の青年を映している。
「アレハ、神カ・・・悪魔ダ・・・」
セージは横目でそれを聞いて、苦笑した。




