4-03 支社長室の絵画の仕掛け
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「申し訳ありません。まさかこんなことになろうとは――・・・」
青年の困惑気味の声に、ソファに座っている賓客はにっこりと笑った。
「いや、なに。立場ある人間とは、常に妬まれるものだよ。それにまだ、誰を狙ったテロなのか分からない。もしかすると私を狙った可能性もあるからね」
高級ソファの前に水色の髪色をした白人男が現れ、白人種系の〝敬礼〟にあたる、両指を交互に絡め胸の前に翳す仕草を恭しくすると、渋い声で言った。
「サー・シューゼン。脱出用のヘリの準備がもうすぐ整うようです」
「そうか。ちゃんと三台揃えてあるか?」
「はい」
ノイスのボディ・ガードは軍人あがりの屈強な白人種と、白黒混血の二名。大事な客人のB・Dも二名で、角メガネをかけた黄色人の優男と、グラマラスな黒黄混血。そして本社からの客人が一人と、彼のB・Gである多種混血の男が一人、計八人が支社長室に避難し、ヘリで上空からの脱出を行う予定だ。
三体ほどアンドロイドが待機していたが、当然避難用のヘリに乗せる予定はなかった。
「サー・マリードはご無事でしょうか?」
客人の向かい側のソファに座っている、本社の人間が言った。
ノイスは肩の治療を終え、上着を羽織る。
「大丈夫でしょう。彼のことです。地下にシェルターがあることは知っています。そうでなくとも、優秀な部下が付いていますから」
「そうですね」
ノイスはふと、支社長用のデスクへと向った。引き出しの二重蓋の中から電子暗号内蔵の鍵を取り出し、壁に掛かっている絵画の方へと移動する。等身大の、美しい女の絵だ。長椅子に凭れ、オルゴールのような宝石箱を持っている。
正面を向いている宝石箱の鍵穴に、ノイスは鍵を差し込んだ。小さな音がすると、それを左に回しながら、もう片方の手で額縁の下にあるスイッチを押す。扉になっている絵画が開くと、中には金庫が隠されていた。
「秘密文章か何かかな?」
賓客が聞いた。ノイスは、「ええ」とドアの死角越しに答えた。
「大事な報告書や資料のデータです。持っていかないと――・・・」
「本当は、ラブ・レターでも入っていたりして?」
本社の人間がからかい口調で言った。
ノイスは苦笑する。
「それこそ見られたくないなぁ」
ノイスはコンピューターに暗号文章を打ち込んでいる途中だった。
ふ、と部屋全体が暗くなる。
「なんだっ?」
ノイスは声を上げた。ボディ・ガード五人が、銃を構えた。
「単なる停電でしょう。予備電源が作動するはずだ」
本社の人間が能天気な声で言うと、数秒後、言った通りに灯りが戻った。
ノイスはため息を吐き、金庫の表示が【エラー】になっていることに気が付いた。小さく舌打ちをしてから、文章を入れ直そうとする。
パシュー、と機密性の高いドアの開く音がした。
「誰だっ?」
ノイスのB・Gが叫ぶ。
金髪の黒人は思わず手を止め、絵画のドア越しに入り口を見た。
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