4-02 光線
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セージは赤い燕尾を翻し、廊下の角を曲がった。
その間にも電子脳内ではメイン・コンピューターへのハッキングが行われているが、情報は混乱していて要領を得ない。
テロのせいで不具合が出ているというよりは、直接干渉を受けている感じだ。
おそらくは先客のハッカーがいるのだろう。
変に情報を操作されて、過去のデーターが露見しては困る。
博士の研究内容は、本社のマザー・コンピューターに保管されている筈だ。
いくらセージの脳内がコンピューターでできているからといって、全ての情報をインストールできるわけではない。
それに自分の体を許容量の大きな機器に繋ぐことによって、より多くの情報を把握できることが数日前に分かっていた。
本社のマザー・コンピューターに侵入するためには、支社のコンピューターがどうしても必要だった。
――博士の遺志を達成しなくては。
こういう形で現世に蘇ってしまったことを、怨んでいないわけではない。
しかし、今のセージにやれることは、このぐらいしかなかった。
それを実行することで、この世に再生してきた意味が欲しかった。
セージは曲がり角で警備ロボとはちあわせになり、【止まって下さい】と警告される。
電子脳内から【付いて来い】と直接命令を送信すると、警備ロボッツは瞬時に態度を変化させ、セージに向って敬礼した。
《了解しました》
セージは片方の口角を上げて苦笑した。
《周りにいる警備ロボッツを全て集め、メイン・コンピューター室へと向わせろ》
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「行くわよっ・・・さん、にぃ、いちっ」
ラーヴィーは実行ボタンを押した。
部屋が停電になったと同時、赤い光線が全て消える。
アレクはそれを瞬時に察知し、全速力で走り出す。
セージはメイン・コンピューターへの侵入が途切れ、目を見開く。
警備ロボッツが同時に動きを止め、セージは弾かれるように階上へ走り出す。
テトラは真っ暗になった八階で天井を仰いだ。
ラーヴィーとムイは、険しい表情でパネルを睨んでいる。
支社長室にいたノイスは、突然の停電に動揺。
隣にいた二人の人物は何故か冷静だ。
五人のボディ・ガードが銃を構えた。
6・00、6・48、6・51、6・5563――。
瞬時に総電源が復活した。
レーザービームの最後の二本が、アレクの目の前で放射される。
斜めにかかった赤い線を跨ぎ飛び、その勢いで片足に重心をかけると、垂直に伸びた光線を高飛びの要領で飛び越えようとする。
ネコのように捻れた上半身のあとに、下半身がついくる。
回転している一瞬の間、鼻先に赤い色を感じた。ジュと焼けて、クズになったものが床に落ちる・・・。
――それは青年の鼻先ではなく、ローブの袖だった。
風の神の属性名を持つアレク・グレイリアは、膝をついて着地した。
《・・・グレイ・・・グレイッ、無事ッ?》
《大丈夫デスカ~?》
アレクは一拍の間を置き、深呼吸をした。
「ああ・・・問題ない」




