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リジェネ・スピラー  作者: ジオサイト
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4-01 メインコンピューター室

四章 歴史の繰り返しは、全てが回転し循環しているせいのか


 ――――

 全てが平等になること程、

 不平等なことはない。         

(サマエリナス・マリード)

 ――――

                                                                         

 分厚い扉が開くと、薄暗い部屋に到着する。大きなパネルが煌々と光り、希望を映し出しているようだ。人間の警備員や看守は、すでにその部屋の床に転がっていた。


「タクサン、死ンジャッタネ・・・」


 ラーヴィーはうしろを振り返った。ゆっくりと閉まっていくドアの隙間から、血だらけの腕が見えた。目を瞑り、深呼吸をする。意気込んでパネルへと振り返った。


「感傷に浸ってる暇はないわ」


 巨大なコンピューターを前にして、ラーヴィーは銃を朴り投げた。いくつも並んでいるキーボド状のボタンと、球体のコントローラー、スライドスイッチ、立体映像干渉機器などが備えられている。看守から奪い取った十手型の鍵を鍵穴へと差し込んだ。


《 設定操作 変更可能 》の文字がパネルに現れる。


 例の闇医者に改造してもらった爪を見て、ラーヴィーは情報侵入プログラムが設定されているマイクロチップの練ってあるつけ爪を認証装置にかざす。侵入が成功した証に、つけ爪が仄かに赤から緑に変わって光った。

 浮き出ていた文字が即座に滲んで、粒子レベルの細かさになると画面から散っていく。


「やるわよ」


 ラーヴィーは指の骨を鳴らした。


 コンピュータ・ウイルスという異物(プログラム)への拒絶反応が出る前に、超小型パソコンを繋ぎ操作、その反応を遅らせる麻酔のような措置を施した。あとは頭脳(メス)と技術で切り開き、腫瘍を取り出して、傷口を治療し、縫合すれば作戦完了だ。


 ラーヴィーの白い顔に、画面が切り替わる度に色んな種類の光が当る。ムイと生き残った三人の〝ヘラ〟小隊が、銃を構えてそれを見守った。


《グレイッ。メインコンピュンター室を乗っ取ったわ。今から総電源を切るからっ》


「分かった」

《いまどこ?》


「廊下だ。巨大な水槽が埋め込んである」


《水槽・・・あ、分かった。ここね。この先に支社長室があるわ。でも気をつけて。そこに罠がしかけてある。警戒レベル(エイト)を越えてるわ。防衛の為の残虐的殺人が合法に許可されるレベルよ。トラップが何か、今調べるから―》


 高速にキーボードを叩く音が聞こえる。


「必要ない。すべて避ければいい話しだ」


 建物の一部と化しているトンネル状の水槽には、数十トン級の水が循環されている。

 中ではサンゴ礁が育てられ、鮮やかな色の熱帯魚が大群で泳いでいる。獰猛さを抜かれたサメや、極小の鯨、遺伝子操作の新種らしき奇妙なやつもいる。その水槽から差す不規則な光の動きが、ぬらぬらと床に映っていた。三面を水槽に囲まれた廊下はあたかも、月光のカーテンをかけられたようだった。


 アレクは慎重に歩き出そうとして、自分の姿がガラスの表面に映ったことを自覚するか否かの一瞬、突然の攻撃に後方へと飛び退いた。放たれたのは肉眼で見ることのできる何本もの赤い光線だ。

 出来損ないの蜘蛛の巣みたいな光線が、アレクの行く先を阻んでいる。


《あっ、まってっ。分かったっ。レーザービームよっ。水槽の表面に特殊加工がしてるみたいっ。鏡の反射みたいに、何重にも赤い線が見えるっ。人間の入り込める隙間なんてないわっ。焼かれるわよっ》


「早く言えっ・・・」


 アレクにしては随分と感情の篭った声だったが、通信相手は気付いていないようだ。ラーヴィーは巨大なパネルを操作し、次々とハッキングの度合いを高めていく。仕切られた画面にいくつもの情報が飛び出てきて、その上に情報画面が重なっていく。


 暗号解読プログラムを作動させながら、アレクの現在位置の設定を行い、レーザーの反射の屈折を計算し、だんだんと交差する光線の感覚を広げる。アレクが廊下を走りきる時間をゲームのデータから計算し、メイン・コンピューターから支社長室への侵入が可能な程度の電源停止時間を計算し、合理的な復旧ができる時間が6・5563秒の停止だということを割り出した。


《グレイ、総電源を切れるのは七秒弱っ、それまでに渡れるっ?》


 アレクは廊下の向こう側、かたく閉じられた密閉性の高いドアを見つめた。

 右足の踵で何度かステップを踏む。まだ余力はある。

 目を閉じる。


 覚醒の第二段階トランス・レベル・トゥ、解放。


 細く息を吐く。


「ああ。必要なら、やる・・・」


《目の前のドアを開くわ。その先に、もう一枚ドアがあるっ。それは自動。その先に生命反応があるわっ――えっと、八人分っ。そこが支社長室よっ》


「ノイス・・・シューゼン・・・」


 ガコン、という音がして銀色のドアがゆっくりと開きだした。その先は応接間のような空間で、その先にもう一枚、同じようなドアがある。

 

 あの中に、奴が――。


 ラーヴィーは高速で動かしていた指を突然止め、ふぅ、とため息を吐いた。


《アー・ユー・レィディ?》

「女じゃない」


《は?》

「今何て言った?」


《 ・・・アー・ユー・レディ?(準備はできてる) 》


 アレクはマシンガンを床に捨てた。


「ああ・・・ああ」

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