3-11 スイッチ
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ミカナスとアレクは会場を斜めに突っ切り、職員用の通用口に向った。警備ロボが目の前に現れ、【止まりなさい】と警告して銃を向ける。ミカナスとアレクは二体いる警備ロボを撃ち壊した。飛散した部品を踏みつけながら、アレクはマガジンを装着する。
その隙にもう一体の警備ロボが現れ、ミカナスはそれを撃った。胴体がショートして破裂。体が前に倒れる。しかしそれは隠れ蓑で、倒れた体の死角から、目玉ロボが照準を合わせてきた。上空に移動。ミカナスはそれに合わせ、咄嗟に引き金を引く。
ガチン・・・
絶望的な弾切れの音に、ミカナスは目を見開いた。
弾丸が集中豪雨のように降ってくる。
「ミカナスッッ」
ゆっくりと体が傾き、後ろ向きに体が倒れる。アレクは目を見開き、一発で目玉ロボを撃ち落とした。バチバチとショート音がして、目玉ロボの残骸が落ちる。
急いでミカナスに駆け寄るが、素人目から見ても重傷であることは明きらかな状態だった。弾は傷口を貫通しているが、助かる見込みはない。かたかたと震えるミカナスの脈を調べたアレクは眉を潜めた。体温低下が尋常ではないスピードで進んでいる。
「行け・・・行くんだっ・・・俺は死ぬっ」
「死体はっ?置いて行けとっ?」
メレノバスは死後の再生が信じられている為、長年土葬の文化がある。今では衛生上の問題や全体的な生活向上から冷凍保存に移行しつつあるが、それでも遺体を大事に扱う精神は残っている。
「俺の死体は残らないっ。俺の体が爆弾のスイッチだ。俺が致命的なケガをおえば、爆弾が作動する。俺の鼓動が止まった瞬間、各階に仕掛けられた爆弾が連動し、爆発するようになっている。時限式だっ。ここから上下の階に進む」
「お前、初めから死ぬつもりで・・・何故作戦会議で言わなかったっ?」
「言っただろう死ぬ覚悟だと。お前らにもその覚悟をしてもらうっ。俺達は『伝える』んだっ・・・」
ミカナスは震える手でタイピンを外すと、それを差し出した。
「使い方は分かるなっ。マレキリート書五章二十二節・・・」
アレクは頷いた。まだ息をしているが、あと数分、という所だろう。ミカナスの銃を引き継いでマガジンを装着、瞬時に背後へと振り返って引き金を引いた。彼から受け取った十字架は、白い歯に銜えられている。
弾道は的確に敵をとらえた。別の方向にいる二体のロボットは、同時に頭部を撃ち抜かれて床へと倒れた。
「ムイを・・・奴らを頼む・・・・・・」
掠れた声が微かに聞こえてきた。アレクの顔は険しく、眉間のあたりが歪んでいる。
――どうしてこんなにも腹が立っているのか分からない。
ミカナスはただの依頼人で、仕事が終われば二度と会わなくなる人物だ。
死んで二度と会わなくなるのと何が違う?
今までと何が違う?納得できない。あいつは――・・・
ダメだ。敵に集中しろ。
一瞬ミカナスに振り返る。アレクは未練を断ち切って走り出した。
――そうだ。あいつはオリヴァーに似ている。
炎を胸に秘め、不敵な笑いを浮べるその姿。
機敏で無駄がなく、戦闘になると容赦はない。彼に甘えたことも本音で話したこともなかったが、テログループを抜けたのは彼が死んでから――・・・。
いや。彼が死んだからだった。
廊下の突き当たりにある曲がり角の死角で、黒煙を伴う爆発が起こった。ロボットの破片が飛散して来る。銃声はない。単独の足音。アレクは銃を構え、角を曲がった。
さらに角を曲がる人影の端を確認する。さきほどぶつかった、赤いドレスの少女だ。
――逃げ遅れたのか?いや。それなら今の爆発は・・・・
アレクは眉間を寄せた。駆け足で角を曲がる。少女の姿はどこにもない。
アレクは立ち止まる・・・。
運良く敵の姿は一つもない。そして、
少女の姿も――・・・、気配すら、ない。
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