2-14 ブライアン
アレクは前方にあるエレベーターへと向っていた。その手前でドアが開き、ブライアンが姿を現す。目が会うと、アレクはロケットを示した。
「ああっ、よかったっ。ありがとうっ。探してたんだ・・・」
ブライアンは満面の笑顔で受け取ると、ふと悲しげな表情になった。ロケットの蓋を開けると、妹の姿に目を細める。人種が違うせいか、アレクには黄色人が同じような顔立ちに見える時がある。写真の人物はとても、ブライアンに似ていた。
「妹は・・・どんな性格だった?」
「可愛かったよ。誰からも愛される、素直で明るくて。少し体が弱かったけど、成績も内申書もトップレベルで。努力家で、本当は芯が強くて――・・・ふふ、兄バカだろう?でもレベッカは、本当に可愛かったんだよ?」
「声をたてて笑うと言うよりは、歯を見せる程度。服は今時珍しく、あまり肌を見せない禁欲的な姿。異性に対して積極的ではなく、目を合わせると控えめに笑いかけるか、顔を赤らめて俯くタイプ。派手な化粧はせず、ピアスの類もしない」
ブライアンは目を見開き、言葉を失っていた。
「それは・・・それは君の母親にも該当する、七人の被害者の共通性のこと?」
「そうだ。俺は以前、ノイスの仲間に接触したことがある。そいつが吐いただけでも被害者は三人。趣味は一貫している・・・俺が知ってる加害者の四人のうち、仇をとったのは二人だけだ。二人ともリーダーであるノイスの名だけは最期まで言わなかったが・・・」
「・・・もう一人の加害者は?」
「薬物中毒ですでにこの世にはいない・・・」
「そう・・・そうか。僕もノイスに仲間がいたことは知っていた。その仲間のほとんどが死んでいることも・・・ノイスが口封じの為にやったのかと思ってたけど・・・君が仇をとってくれていたのか」
ブライアンは微笑を浮かべ、ロケットを握り締めた。
「・・・ベッキーと僕は、サロイディ達にバカにされながら育ってきた・・・父は強い者には従順で、犬以下にへりくだるのを何とも思わない人だ。同じスタロイディにも、自分が生き残るためなら酷い仕打ちをしてきた・・・
今の生活があるのも、彼が努力をしてくれたお陰だとは思っている。でも、もう・・・彼が保身するのは、家族のためではないと分かった今は、歩み寄る必要性を感じない・・・」
伏せった栗色の視線の中に、過去という闇が滲んでいる。
「妹が酷い殺され方をして、会社が隠蔽して――その隠蔽に父も率先して関わっていた。娘の名誉の為じゃない。あのヒトは、僕が犯人探しに躍起になっている時、『止めろ。犯人が捕まれば、わたしの築いてきた地位が粉々になってしまう。お前達の命の保障もないんだぞ』――って言ったんだ・・・」
ブライアンは苦笑を浮べている。瞳の色に正気という光が僅かに戻ってくるが、その奥にはまだ、仄暗い闇が燻っている。
「あ・・・ごめん。聞きたくなかったよね・・・とにかく、君に会えて良かった。僕は神も運命も信じないけど、妹が導いてくれたんじゃないかな、って最近は思ったりもするんだ・・・気休めじゃなく、作戦はきっと成功するよ。君達の幸運を祈ってる」
「祈る?何に祈る?」
「さぁ・・・妹に、かな?」
ブライアンは切なげな、今にも泣きそうな笑顔で言った。
「・・・そう、きっと・・・『神』ってこういう時に欲しくなるんだろうね・・・」
ブライアンはふと、アンティークの腕時計を見た。
「ごめん。本当にもう、行かないと・・・」




