2-06 「パーティー」
「途方もない話だ。証拠品がどこにあるのか目星はついているのか」
「おそらくは支社長室、もしくは奴の自宅だろう。俺達はパーティー会場に潜入し、停電を起こして会場を占拠する。他のチームは監視カメラや防御システムを切る。その混乱に乗じて、お前は支社長室に忍び込み証拠品を探す」
「自宅へは」
「他の者が向う手はずになっている。お前は支社で、警備員か警備システムと戦うことになるだろう・・・バーチャル・バトルの経験は?」
「いいや」
「では、訓練を受けたほうがいい。ムイ、あとで説明してやれ」
「アイアイ・サー」
「ああ。支社長室に行くよりも、脱出の方が困難だと想定している。俺達は烏合の集だ。何か不具合があって作戦を中止せざるを得ない時、俺は各々で逃げろと教育している。そして脱出後、俺達は二度と同じメンバーを集めることはない。
素人に毛が生えたような連中だ。半分は死ぬ・・・それでもあいつらは、世の中に〝伝える〟んだと言った。国も宗教も性別もなく集まったはみ出し者が、これだけやれるんだと。だから俺は、敵を同じくする奴はどんな理由でも仲間に入れる」
ミカナスはラーヴィーをちらりと見た。
「そこの嬢ちゃんみたいな奴でもな」
「あらぁ、心外ねっ。私は神を信じてないけど、運命は信じてるわ。依頼を受けた理由は〝何となく〟だけど、〝何となく受けた〟のには理由があると思ってるのよ?」
「ほおうっ。そいつは面白い。神を持たないわりには、どんな宗教者よりも〝らしい〟考えをお持ちじゃないか?ポイント高いぜっ」
「それはどうも。それならお店に遊びに来てね。ネオン街の――」
「いいや。あんたには一緒に来てもらう。俺の同伴者としてな。当日はドレスで戦闘のエスコートだ。生半可な」
「やだっ、早く言ってよっ。何着て行こう・・・」
「・・・まぁ、それはあとで考えろ。リカルト。俺が要望した通りなら、この嬢ちゃんはコンピューターを扱えるんだな?源のでかいコンピューターも?」
「もちろん。金持ち相手の商売だから、そういう知識も必要だ。彼女は早いうちから上流階級の相手だったからね。趣味は自宅でハッキング。――ね?」
「ええ。運がよければ、メイン・コンピューターから支社長室にハッキングして証拠を引き出せるかもしれないわ」
「そしたら、彼にありかを訊ねなくてもいいわけだね?彼は用無しだ」
ブライアンは殺意を孕んだ目をしながら、それでも上品に微笑った。
「グレイハ、ノイス暗殺スル。スグ逃ゲル。ソシタラ、ワタシ達ノ〝勝チ〟ネ」
「停電を起こしたら、ムイは嬢ちゃんのサポート役になるだろうな。俺はグレイと支社長室に乗り込む。リカルトは逃走経路担当だ。ブルーは・・・まぁ、『高みの見物』とやらになるんだろう。せいぜい怪しまれないようにしてくれ」
「分かってる。僕は立場上、君達の誰かが目の前で負傷しても、手助けできない。そのかわり、資金の援助はおしまないつもりだ」
「そういうことだ。ブルーの根回しによって、俺達は堂々とパーティー会場に潜入する。もしも作戦が失敗して逃走する場合は、スラムの西地区に逃げろ。麻薬中毒者とギャングしかいない危険地区だが、そのかわり捜査の手は遅れるだろう」
「奴らに殺される可能性の方が高いんじゃない?」
ブライアンが言うと、ミカナスは数秒黙った。
「・・・まぁ、てめぇらの運次第だ。他に安全だと思う所があるなら、各々で逃げろ。俺は不具合が生じた場合、現場から脱出しない。捕まるか、自害してその場を収めるつもりだ。俺は出生届けを出されないまま育った。表の世界で働いたことも、警察に世話になったことも無い。俺が口を割らない限りは、俺や俺の周りの者の身分が明かされねぇ」
「死ぬ気か・・・」
アレクが聞くとミカナスは口元を歪めた。
「まぁ、それぐらいの覚悟はあるってこった。てめぇらにもしてもらう」
さほど興味もなさそうに、リカルトは紫煙を吐いた。
「グレイ。逃走経路の説明は、僕がするよ」
はぁ~いと言って、ラーヴィーは手を挙げた。
「電気系統のことなら私に任せて」
「ワタシハァ・・・ワタシ、何デキル?手合ワセスル?」
アレクは無表情で頷いた。
「必要なら全てこなす」
ブライアンこと〝ブルー〟は、満足そうににっこりと笑った。
「なかなか頼もしい同士達が揃ったねぇ」
「ああ。当日の宴会戦が楽しみだ」
作戦が成功する確率は低い。
それを理解した上で歪められたミカナスの口元は、妙に不敵だった。




