2-05 大義名分
「私にはよく分からないわ。良いことして死んだら楽園に行けるとか、悪いことしたら地獄へ落ちるとか・・・『正義』とか『善いこと』って、時代と一緒に変るものでしょう?今の時代の正義や思想を作っているのはサロイディだわ・・・つまり天国に行くのは、サロイディだけ、ってこと?」
ラヴィーの質問に、会場内は内心「仕掛けたのか」と疑問に思う。
「そういうことじゃない。そういうのは・・・解釈の違いで色々と変る」
「だから信用しないの?」
「人間の作り出した宗教は――・・・信用に足りない」
「なるほど。宗教、神うんぬんってより、君は人間を信用してないんだね?」
アレクがリカルトを見ると、リカルトは肩を竦めた。
「それなら僕にも理解できる」
「理解されたくない」
リカルトは愉快そうに口元を歪め、煙草の灰を床へと落とした。
「僕が参加する理由は、報酬がどうのってより、個人的な感情によるものだ。僕は小さい頃に家族を失った。スラムで流行した、『第二の悪魔風』と噂されたあの病魔で。僕は助かったけれど、両親も姉も弟もひどい苦しみようで死んだ・・・あの病が、カドケウス社の実験だったと知ったのは最近のことだ・・・」
アレクは険しく眉間の皺を寄せた。
「カドケウス社が、病原菌をまいたと?」
「そういうこと。新薬の実験には、もともと病の多いスラムが最適だったんでしょ」
アレクは閉口した。沸々と怒りが湧いてくる。
「ワタシハ昔、ミカナスニ拾ッテモラッタ。ダカラ参加スルネ。ソレニマダマダ、サロイディ、ワタシ達バカニシテルヨ。アンドロイド、体の形サロイディジャナイ。皮膚ノ色、黒イナイ。世ノ中、ソレ何トモ思ワナイ。上層階級ミンナ黒イカラネ」
ムイは微笑を浮べたまま、手榴弾でお手玉をしている。
「ワタシハ、〝メレノバス〟違ウ。デモ、デゥーバーナ信ジテル・・・NO。信ジタイ。デゥーバーナの奥サン『シャンビー』ハ、【平和】ト【再生】ト【美】ノ女神ネ。二人ハ戦士ナラ誰デモ認メテクレル。ワタシハ本物ノ戦士ニナッテ、認メラレタイ。生キテテイイ理由、欲シイネ」
「存在理由、か・・・」
ブライアンはテーブルの上で細い指を組んだ。
「僕の動機には大きく妹が関わっている。そして黒人優位主義のカドケウス社の社風にも不満を持っている。いつまでもイスから動こうとしない重役達にもうんざりしている。だから僕は、カドケウス社を新しくリフォームしたいと思った・・・」
自然と全員の視線がラーヴィーに向けられ、暗黙の了解のごとく回答を待っている。ラーヴィーは自分を指差して「わたし?」と言った。
「何となくよ?リックに誘われて、楽しそうだったから」
・・・全員が数秒間、無言だった。
「近々『新商品お披露目』と、『新支社長就任』パーティーがカドケウス社・ダズロン支社で行われる。新・支社長はノイス=シューゼンだ。父親のトーマス=シューゼンが亡くなった為、異例の若さで出世することになった。
つまり、親のすねかじって生きてきた、経営実力は皆無のバカ息子だ。それが何故、特別に世襲制でもない支社長のイスに座ることができたのか・・・〝依頼主〟は、重役の誰かがトーマスを殺害し、ノイスがそれを理由に脅したのではないかと考えた。そうなら物的証拠が残っている筈だ。
録音か録画されたもの、もしくは殺害に使われた凶器など・・・計画的なものならば秘密文章かもしれない・・・」
ミカナスはアレクに視線を寄越した。
「〝グレイ〟。お前の役目は、そのあるかどうかも分からない証拠品を探し出して、依頼主に渡すことだ」




