2-04 シェルター
「はじめに、俺達は無差別殺人を望んでいるわけではないことを言っておく。ターゲットはCMに出ているあの男、ノイス=シューゼン。そしてカドケウス社の人間のみ。例えお前が殺人にエクスタシー感じるような奴でも、雇われたからには従ってもらう」
アレクはミカナスに向って頷いた。
武器庫兼、作戦会議室になっている地下シェルターに通された数名は、各々が自由な位置に立ったり座ったりしている。
ミカナスは長方形のテーブルの上座、ブライアンは優雅に隣の椅子へ。リカルトはテーブルに腰掛け、ラーヴィーは椅子の背を前にして跨ぐように座る。ムイは木箱の上に座り、アレクは攻撃にも防御にも有利な位置に立っていた。
「俺達はカドケウス社を襲撃する事で、この腐りきった世間に風穴を開ける。俺はリーダーを名乗っちゃいるが、基本的に部下の思想についてどうこう言うつもりはない。金のためけっこう。名誉のため、けっこう。正義のため復讐のため、大いにけっこうっ。てめぇの好きな大義名分を作るといい」
「あんたの〝大義名分〟は?」
「俺はカドケウス社の造っている人間型のロボットが嫌いだっ。医学について文句はいわねぇ。知性は神が与えもうた産物だ。俺達はそれを発展させ、伝達する義務がある。そのために医学は必要だ。
必要だが、しかしっ、俺はそれを利用してニセの人間を造ることは認めねぇ。スラムに住む人間より、機械人形の方が数十倍も値が張る。売られていく未来ある子供より、鉄やらネジやらでできた人形の方が、価値があると世間は言った。
世間は言ったが、俺は認めねぇっ。ここにいる子供は字が読めねぇ奴が大半だ。
こいつらの教育費より、ちっとかしこい機械人形の洋服代に価値があるのは変じゃねぃのか?
こいつらが地を這いつくばって食べ物を探し回っている間、上流階級はてめぇの髪形を気にしてやがるっ・・・俺はいやだっ。たとえカドケウス社が元を辿れば英雄でも、その為に今の俺達があるのだとしてもっ・・・奴らに一泡ふかせてぇっ。その為に力を貸してくれるなら、どんな理由があろうとも仲間だっ」
アレクは一瞬、〝父親かもしれなかった男〟を思い出した。
「――期待に応えるよう、力を尽くそう・・・」
ミカナスは今までで一番、愉快そうな笑顔をアレクに向けた。
「そうかっ・・・分かってくれるかっ」
「俺が依頼を受けたのは、個人的にノイス=シューゼンを襲うより、あんたらと手を組んだほうが便利だと思ったからだ。俺より先にノイスを倒してもらっては困る」
ブライアンは真剣な眼差しで頷いた。
「やはりメイン・ロードは君で決定だね。依頼主としても、僕個人的な意見としても、君と出会えたことを幸運に思うよ」
「デゥーバーナ神のお導きだ」
ミカナスがそう言うと、ブライアンは苦笑した。
「僕は神を信じない」
「俺もだ」
ミカナスとブライアンは意外そうにアレクを見た。
「不完全な人間が作り出した宗教が、完璧に神の言葉や意思を解釈できるとは思っていない・・・それを頭から信じる人間の心理が、俺にはよく分からない」
「メロカリナは太陽月神アオマニムスと、大地神ザンを崇めている筈だが?」
「神という存在を否定はしない。しかし俺は、神を崇めるのも拝むのも止めた・・・」
「なぜ?」
「裏切られたからだ」
心から神を信仰していた母は、
誰よりも悲惨な死に方をした。
お飾りだけの宗教者が説教をたれ、
贅肉を増やす。
殺人を犯したノイス=シューゼンは
法の裁きすら受けず、私腹を肥やす。
何かが変だ。
それすら神の予定の内か?
答えなど、誰も教えてはくれない。
アレクは木箱によりかかったライフルを取り、壁に向って構えた。
「だからもう、信用しない」
ふふ、とリカルトが微笑した。
「面白い考え方だね」