1ー14 テストバトル
「知り合いか?」
ミカナスが聞くと、アレクは「知り合いという程でもない」と返した。
女は一瞬ほほを膨らませ、「これから親密なお知り合いになる予定よね~?」と笑顔を返すが、アレクは無視を決め込んだ。
リカルトが、「彼女も作戦に関わるだろうから仲良くしてやってよ」と言う。
ミカナスは「その前に、テストを受けてもらう」と抑揚のない声で返す。
リカルトは煙草を銜えた。豪華な飾りのあるジッポで火をつけ、紫煙を吐く。
「彼女の実力は僕が保障するよ」
「俺は疑っていないが、部下の手前もある」
リカルトは、「どうぞ」と言うかわりに肩を竦めた。
ラーヴィーは第一間接までの手袋を直した。
その間にミカナスは銃を構える。
「一番近くにいる奴が相手だ。それ以外は動くな」
「相手が近くにいない場合は?」
「俺が撃つ」
ミカナスはいきなり発砲した。ラーヴィーは咄嗟に屈む。
弾道の先、背後の金属ドアに穴が開いた。
近くにいた男の首筋を手刀で叩いて気絶させる。次の男はみぞおちに肘鉄を食らわせ、拳を顎に見舞う。周りに誰もいない。ミカナスの第二弾の銃声が来る前にイスを踏み台にして、ピアノの上にあがる。
ムイは穏やかな顔のまま真横に銃を突き出した。空中に跳ね飛んだラーヴィーのふとももへの弾道が、ポケットに手をいれたまま微動だにしないリカルトの顔横を掠めて通っていく。
着地する寸前に振られたラーヴィーの右足の攻撃を、ムイはリクライニングのイスを倒すように避けた。
みぞおちを狙って落ちてくるブーツのかかとを、仰向けのムイは素手で止め、足を振り上げた反動でラーヴィーの顎を狙った。ラーヴィーは寸前で攻撃を避け、ムイの片足を捕まえると、手の平を突き出して心臓を狙った。その腕をムイは掴み、二人は互いを拘束しあった体制のまま目を合わせる。
「・・・ほぉう」
ミカナスは興味深そうに声を漏らした。
ゆっくりと互いを解放しあうと、途端に高速な手刀の弾きあいが始まった。肌が弾けるようなリズムとともに、ラーヴィーとムイは上半身の空間で互いの『気』を攻防する、『気功殺人術』というスタロイディ独特の体術で戦い始めた。
「ドコデ、コレヲ?」
ムイはぶつかりあった手刀ごしに聞いた。
「昔いた孤児院で」
傍から見れば、少しコミニケーションの激しいあいさつに見えなくも無いが、あれは一瞬でも気を抜けば死に至ることもある、緻密で繊細な型だ。人体のツボをつく攻撃が時折混ざっている。数歩押しては数歩引き合う、傍目には互角の攻防だった。
ムイが一瞬の隙を見せ、ラーヴィーが素早い突きを食らわせようと大きく踏み込んだ。しかしムイは大きくうしろへと引き、体勢を崩したラーヴィーの片足を素早く持ち上げて半回転し、ピアノの端まで追い込んだ。
ブーツのかかとが縁にひっかかったラーヴィーは、頭から地面へと落ちそうになる。髪飾りがとれ、まとめられていたピンクの髪が広がった。ムイはその瞬間ラーヴィーの腰に手をかけ、まるでタンゴのポーズを決めるような体勢で動きを止めた。
ラーヴィーは意外そうに瞬く。
「あら、どうも・・・」
「ドウイタシマシテ」
にっこりと笑ったムイが抱き起こそうとした瞬間、ラーヴィーはズボンの腰に備えておいたミニガンを取り出し、完全に抱きしめられたところで銃口をムイの額へと当てた。
「ズルイネ」
おそらくはムイの弟分だろう。ピアノの側に駆け寄ったスタロイディの男は、上着の内側から銃を取りだした。しかしその瞬間、リカルトに肘の攻撃を受ける。ガチンと顎のあたりが盛大に鳴ると、ピアノにぶつかり苦曇った声がした。
「ルールは守ろうよ」
ピアノの蓋を開けたリカルトは、男の髪を掴んで顔面を鍵盤へと叩きつけた。大きな音がすると男は完全に気絶した。
「へたくそ」
リカルトは――曲名は分からないが――クラッシクのさわりの部分を豪華な音で奏でた。
「・・・な?ピアノはこうやって弾くんだよ」