⑧西側勝利の条件 理想は一体一路構想の阻止
10 日本を含む西側諸国の“勝利”は実は難しい
質問者:具体的に西側が“勝利”と言える状況ってどういう感じなんでしょうか?
筆者:これはどのラインで妥協するのかそれ次第だと思います。
まずは大量破壊兵器を使用されない上でのロシアのウクライナからの撤退ですね。
⑦でも話しましたが、自棄になったり道連れによる大量破壊兵器使用は可能性は十分あります。
ウクライナも住民を巻き込んでの必死の抵抗を見せていますが、本当なら住民を巻き込んで欲しくなかったですね……。まぁいずれにせよ住民の犠牲を少なく終結して欲しいなという気持ちはあります。
質問者:しかし、攻め込む兆候というのはありましたけど、世界のほとんどの人は本当にこんなに攻め込むなんて思いませんでしたよね?
筆者:そうですね。そこは難しいラインですよね。例えば自分が今住んでいる住居を捨てて逃げろと言われても困りますからね。世界の各地で紛争や戦争が起きていても自分の身に降りかかってこないと思うのが一般的ですからね。
次に、世界の核戦争になるのかならないのか。核戦争になった場合はもはや世界に勝利者は存在しません。今の技術では広島長崎に投下された原爆の何十倍もの威力の核兵器が使用される可能性がありますからね。世界が焦土と化します。
質問者:これだけは避けたいですね……。
筆者:次に安全なロシアの政権交代が行われるか否かです。結局のところ一時的に撃退したとしてもウクライナはロシア国民と同一祖先であるという考え方は政権交代が行われない限りは消えませんからね。
それも安全にロシア国民の手によって政権交代が行われないと“中国の自治区“として扱われるようになってしまうこともあり得ます。こうなってしまえば独裁国家の増長という意味ではあまり意味がありません。この辺りも攻防ラインとなってくることでしょう。
質問者:確かに、中国がより強大になってしまうとかなり危険になりますからね……。
筆者:そして次のラインとしてはブロック経済圏としてBRICSがまとまることを避けておきたいです。特に日本としてはドルの相対的な価値の低下は大きな影響を受けることが予想されます。
特に中国が中核的な存在になることはアジアやアフリカに対しても大きな影響力を持っています。いわゆる一体一路構想ですね。それらの国々も加わると日本は交易相手が大きく制限される若しくは高い関税に苦しむことになってしまう可能性はあります。
質問者:一体一路構想にはどれだけの国が参加しているんですか?
筆者:2021年6月時点の発表では、一帯一路における共同建設において、140ヵ国、32の国際組織と計206件の協力文書を調印しているとしています。
ただ今回の一件がありますからまた情勢的に変化していく可能性というのは十分あり得ると思います。この140のうちにイタリアが構想に参加しており、ギリシャやポルトガルや、今ロシアに反発しているバルト三国などもコミュニティに参加しています。今の時点ではこれらの国々がどう出るかは分かりませんが、一体一路構想に賛同している国々もまるっと新ブロック経済圏には属さない感じもしますね。
質問者:いずれにせよ、それだけの国々が協調していた「一体一路構想」に関しては大きな影響を及ぼしそうですね。
筆者:そうなんですよね。そもそもの話として2015年5月8日にロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席はユーラシア経済連合と中国の一帯一路構想を連携させるとする共同声明を発表しているんですよね。今回の密かな連携もありますし、これが前進していく可能性は十分にあります。
最低でもロシア制裁に参加している国々が1ヶ国でも一体一路ブロック経済圏に参加しないように呼びかけないといけないと思います。
特に食糧危機に陥っているアフリカの国々、そしてロシアからの脅威に晒されているヨーロッパの国々に対しては説得を行っていく必要はあると思います。
質問者:やはり相手の陣営を崩して味方に加えていく作戦が一番適切なんですね。
筆者:そうなるでしょうね。中でもキーになってくるのはインドだと思いますね。インドは一体一路には参加していないと思われますが、BRICSですからね。
質問者:そもそも何でインドは中国と連携しているんですか? インドと争っているパキスタンは確か中国寄りだった気がしたんですが。
筆者:そこも一言では言い尽くせないほど複雑な事情があるんですよね。インドにとって中国は最大の貿易相手で、武器・原油についてはロシアに依存しています。ただ、アメリカはパキスタンとの抗争に関しては肩を持ってくれているんですね。
つまり今日明日生きるためには中国・ロシアと関係が切れてはマズいんです。地政学的に見てもこの2つが貿易を拒否してくると厳しいですからね。
そう言う訳で今後もインドは、ロシア・中国が提供しているものの代替が無ければ、どちらかというと“ロシア寄りの中立“として立ちまわっていく可能性が高そうですね。
ただ、パキスタンの動向次第ではインドは大きく立場を変えるという可能性もゼロではありません。ここも難しいところです。
質問者:なんだかんだで地政学的な問題は大きくのしかかりますよね……日本も周辺4ヶ国が日本に対して色々と凄いですから……。
筆者:そうなんですよね。国際政治というのは周辺国の状況を考えたりすると善悪を超えて行われるということを忘れてはいけませんね。このように西側の勝利ラインをどこに引くのかによっても大きく見方が変わってきます。これまでも紛争や戦争の背後にロシア(旧ソ連)VSアメリカの代理戦争という形は多々あったわけですが、ここまで食糧問題と経済(原油)とのダブルで問題になったことは無かったと思うんです。
この戦争の戦後の体制は歴史の大きな転換点と言っても良いでしょう
質問者:中国が基軸通貨と一体一路構想で世界に大きく幅を利かせる可能性は高いんですね。
筆者:そうですね。仮にロシアがウクライナから静かに撤退したとしても“そこからが始まり”ぐらいに思っておいたほうが良いかもしれません。
習国家主席もプーチン大統領も70前後の年齢ですからね。ここが最後の大勝負と言ったところでしょうね。ここ数年が本当にカギになってくると思います。
次に日本国としての今後の“在り方“について。最後に日本人個人としての今後どうすればいいのかについて述べていこうと思います。