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螺旋のカノン   作者: 桜江
一章 
4/69

メイナ・ドフター ―― 三 ――

 

「――で、一体どうしたあの騒ぎは?」


 会場を出た後、支度室としてメイナに用意された小部屋――とはいえ結構な広さでソファとテーブルに茶器とお菓子も用意されている――でラヒネルがその首根っこを引っ掴んだままソファに陣取って言った。レオンは床に引きずられているがムッとした顔で黙ったままだ。

 

 メイナはその向かい側にささっと座るとちゃっかりお菓子をつまみ、空いている自分の隣をポンポン叩いて、レフガーを目で呼んだ。

 レフガーはニコニコとメイナの隣に大人しく座る。

 

「レオン様を怒らせてしまったみたいなので」

 メイナはそう言ったつもりだが、いかんせんお行儀の悪いことに口にお菓子が入っているので、モゴモゴ言っているだけだ。

 

 ラヒネルはメイナに首を横に軽く振ると、レオンを片手で持ち上げ座らせ乱れた服を軽く整えてやっていた。

 

 メイナはさらにお菓子をつまもうとお皿に手を伸ばしたところ、にこやかに微笑んだままのレフガーに両手を捕まれ、そのままメイナの膝の上に固定されてしまったため、お菓子がつまめず小さく抗議の声を上げたが無事無視される。

 

「まずレオンも大概だがドフター姉も約束は守ったほうがいい。今日は会場入りする前に別室で話し合う約束だったろう?」

 

 ラヒネルが不貞腐れて何も言おうとしないレオンに呆れを含めた視線をやりながらメイナに言った。

「うーん? わたくし約束した覚えはないんですけど。婚約も一体どういうことなのかなって」

「……約束をしていない? 婚約については、まあどういうことも何もだな……」

 ラヒネルは遠い目をした。

 

「……知らないうちにレオン様とわたくしが婚約した? 知らない話し合いをする約束をした? 更にパーティーの場、大勢の人前で破棄宣言? あらーそれは宜しくないですよねえ?」

 

 パーティ会場で暴れなかったのは王家王族への忠誠を見せるためレオンを立てた(つもり)、けれどここには幼馴染みとしての四人しかいないのだから遠慮はしない、とメイナは握りこぶしを天に向け力強く作る。

 

「……あー」

 ラヒネルは頭を抱えて呻いた。

 レオンはそっぽを向いたままだし、レフガーはにこにことメイナの握りこぶしを下ろさせほぐし始める。

 

 メイナはがなる。

「付き合ってすらいないのに別れ話されたこのモヤモヤ感! ラヒネル紫君(しくん)にわかります?」

「ああ……そういう……」

「はぁ!? お前は俺を好きだろ!? ずっと!!」

 ラヒネルがまた遠い目をしたところで、不貞腐れていたレオンが参戦してきた。

「はああああ!? 誰が誰を!?」

「メイナ! お前はさああああ! 昔っからあああ……モゴッ!?」

 

 レオンが立ち上がってメイナに怒鳴ろうとしたが、レフガーによって口にお菓子が詰め込まれラヒネルにより服を引っ張られて阻まれた。

 同じく立ち上がって迎え撃とうとしたメイナも、レフガーがレオンにお菓子を放り込むと同時に引っ張って座らせた。

 

 ラヒネルはレオンを無理やり座らせる。レオンはお行儀よく口の中のものがなくなるまでモグモグしている。レフガーはにこにことメイナの腰を抱えて立ち上がらないよう押さえつけている。

 

 本来恋人なり夫でないものが女性の身体をむやみやたらと触れることはいけないことだけれど、この高貴な血筋の幼馴染みたちの間ではレフガーがメイナに触れるのは許されている。昔から彼が体を張ってメイナを止める係だった。

 

 混沌とした空気の中、ラヒネルが傍にある呼び鈴を鳴らすと、部屋の外に控えていた各人の側仕えたちが入室してきた。

 ラヒネルはメイナの側仕えには飲み物の用意を頼み、他の者にはパーティ会場へのフォローのための指示を出した。そしてレオンの側仕えにはある人物を呼ぶように伝える。

 

「悪いがドフター弟がどこかでうろうろしてるはずだ、俺が呼んでるとここに連れてきてくれ」

 それを聞いたメイナがお茶を噴き出して、そのお茶がレオンの顔にかかる。レオンは固まるもレフガーがハンカチを取り出して、とりあえず顔を拭いてやる。

 

「トーマが来てるなんて聞いてない!」

「お前は! まず! 俺に! 謝れ!」

「イヤ」

「イヤ、じゃねえだろおおおおお! モゴッ」

 またもレフガーにお菓子を突っ込まれて静かにモグモグするレオンを横目にラヒネルはメイナに伝えた。

 

「いいか、よく聞け。レオンとお前は婚約して大体十年経ってる」

「じゅっ……?」

 メイナが目を丸くする。

「そう、十年。初めて城に来て俺たちと会ったあの日がお前たち二人の婚約記念日だ」

「こんっ……?」

 メイナは驚きで言葉が出てこない。

 沈黙したままのメイナを見つめる三人。そこに控えめなノック音がコ、ココンと響くとメイナの側仕えが扉を開けた。

 

「――これはこれは、皆さんお揃いで」

 それはそれは良い笑顔で現れたのはトーマ・ドフター、メイナの弟であった。







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