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螺旋のカノン   作者: 桜江
一章 
22/69

商人と宝石鉱山  ―― 二 ――

 ファダリスはまた顎に触れ唸り始めた。

「ワスナか……それはまた面倒な」

 

「お父様、テゼーで採取できる鉱石なのですって、その首飾りの石は」

 メイナがカップを持ち上げ茶を啜った。

 

「あの辺りは質の良い鉱石が採れることで有名ですけれど。近頃は別の石、そういう色の付いた石を宝の石、『宝石』と呼ぶんだそうです。テゼーの商人達にとっては富を呼ぶ宝の石ですって。宝石欲しさに御婦人方がこぞって財を投げるとか」

「確かに鉱石と言えばテゼーだが。メイナ、意外と詳しいな」

 

「実は受け売りです。緋君(ひくん)のおばあ様のところにわたくし達の従妹にあたる娘がいたでしょう」

「……ああ、あれか」

 ファダリスがうんざりしたように言い、トーマの表情は消えている。

 

 メイナが緋君(ひくん)のおばあ様と呼んでいるのはその通り祖母だ。ただ、ドフター家は独立しているので他家とは縁戚であっても本来はかなり他人に近い付き合い方になる。

 

 イステルの王妃は紫君(しくん)からと決められているように、ドフター本家では男が後継ならば緋君(ひくん)から嫁を貰い受け、女が後継ならば藍君(あいくん)から婿を取る。

 

 当時ドフターの後継は男である父なので、慣例通り緋君(ひくん)から嫁を貰い受けた。

 メイナの母親――レイス――は身体が弱いため、結婚前にレイスの妹のほうが相手に良いのではないかという声が緋君(ひくん)側からあがったが、父のファダリスがそれを是としなかった。

 

 レイスは出産後、産後の肥立ちが悪く衰弱が進み、寝台から起き上がれなくなる。そうして寝台で八年過ごした後に息を引き取った。

 

 そして、母の妹。叔母であるグレイシアは姉のレイスの結婚が決まってすぐに藍君(あいくん)に請われて嫁いだ。姉よりも早く結婚したことになる。

 メイナが藍君(あいくん)のおじ様と呼ぶのは彼女の夫だ。

 

 そのグレイシアは夫との間に子供を三人もうけた。息子が二人と娘が一人。この娘が従妹だが、中々に扱いが難しい。

 

 いくら親戚とはいえドフター家は王家にも縛られぬ家であり、緋君(ひくん)藍君(あいくん)はドフターのための(・・・)家である。

 

 ところが彼らはそれを正しく理解しない。グレイシアの娘、クヤクジャはトーマを非常に気に入っていて、何かといえば遊びに来たがったり――実際突撃しているが門前払いだ――呼びつけようともするが、言うことを聞くことはドフター姉弟共にない。

 

 すると、グレイシアと共にあちこちで文句を垂れて回るのだ。藍君(あいくん)の娘を馬鹿にするのか? と。正直ドフター家(こちら)からすると『藍君(あいくん)だから何?』なので放っておいているが、面倒なことこの上ない。

 

 ファダリスもあいつらは何様だと頭に来ている上にトーマの嫌がり方も半端ないので全く相手にしていない。緋君(ひくん)のおばあ様から丁寧な詫び状が届くものの、父からすれば教育がなってない、の一言である。婚前もレイスは理解し弁えていたがグレイシアは全く聞く耳を持たなかったというのは父の側仕えの言い分だ。

 

 とにかくめげないグレイシアとクヤクジャはトーマと婚約を結びたがっていた。仮にトーマが嫁を貰うにしても緋君(ひくん)からで、藍君(あいくん)のクヤクジャではそもそも無理なのだが、これをどうあっても理解しない。

 

 普段は上級家らしく階級の下の者を小馬鹿にしているのに、そのような時ばかりは階級が下の者に人気の自由恋愛主義がどうの、政略婚は時代遅れだどうだと話が全く通じない。しまいにはそんなに緋君(ひくん)からと言うなら祖母の養子になるとまで言う始末。

 

 クヤクジャは姫様扱いが常の筋金入りの我儘娘なので、トーマもドフター家も自分の思い通りにならないと癇癪を起こしてはメイナに絡んでくるために、彼女もなるべくなら付き合いたくはない。

 

 ただ彼女達の情報網はかなり広く、八割無駄話でも二割有益なものがあるので、メイナはたまに緋君(ひくん)のおばあ様のところへ遊びに行き、頻繁に実家に帰ってきている叔母達とお茶を飲むことにしていた。

 

 そして祖母はいつもメイナに陰で謝罪している。祖母として(メイナ)を可愛い気持ちもあるのだろうが、メイナとクヤクジャではクヤクジャの方に遠慮がない。

 

 なんだかんだ彼女に甘いのを見る限り、やはりメイナはおばあ様にとっては『孫』ではなく『ドフターの娘』なのだろうなと思っている。

 それを寂しいとは全く思わないが、線引きするのであればしっかり娘と孫を教育したら良いのに、と父と同じことを嘆息しつつ思うのみだ。

 

 何にしろ女同士の交流(戦い)が生きる糧である叔母とクヤクジャが世間の流行りを知らぬわけがない。

 メイナも年頃の娘であるから、流行りの装飾品や珍しい石の話は心うきうきと聞いていられた。

 

 ――そしてそこでその商人の話だ。

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