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螺旋のカノン   作者: 桜江
一章 
13/69

知らない約束   ―― 二 ――

 ――確かに素晴らしい世界だろう、身分に関係なく人が交流を持ち、暗いところがひとつもなく朗らかに笑えることは。

 

 しかし蓋を開けてみれば、下準備が全く足りぬ愚策だった。性急に事を進めたひずみゆがみやぶれ抜け穴がそこかしこにある。気をつけて進んだ先が底無し沼のようだった。暗いところを無くそうとする度、闇は深まり明かりは遠くに行ってしまう。

 

 好き好んで階級の頂に生まれたわけでもないのに下からは疎まれ、自分のどうすることもできぬ過去により周囲から責められる。

 

 階級による身分差がなくても生まれるのだ、強者と弱者、奪う者と奪われる者、光と影は――。

 そして他人の失敗をあげつらうのは一番逃げとして楽だからな、と自嘲した。

 

 彼はごろりと仰向けになり空を見上げる。

 空には何もない。双月が消える真闇(しんやみ)の日か今日は――と、立ち上がって露台の白い欄干に寄りかかった。

 

 宮殿はどこもかしこも贅沢にランプの灯りが点けられていて、真闇であっても宮殿の周囲は煌々とした光を受けて明るい。

「……きちんと話すつもりだったのに、今夜もしくじった」

 青年は大河に灯りの反映(うつ)る金を見て、屈託ない様子でパーティーの料理を堪能していただろう、幼馴染みである彼女のふわふわした髪を重ねた。

 

 彼にとってかの幼馴染みことメイナ・ドフターは自身と相反する存在だ、常に、昔から。性格が合わないのだろう。会えばイライラしてすぐ喧嘩を売ってしまう。

 それなのに、と彼は独りごちる。

「何でよりによってお前が仮の婚約者だったんだ……クソが」

 

 口の些か宜しくない彼が小さく悪態をつくと同時に自室の扉がノックもなく開かれ、男が二人勝手知ったるとばかりに入ってきた。

 

 一人は輝く銀の短髪、鍛えられていると一目でわかる立派な体躯を持つ精悍な顔つきのラヒネル。

 もう一人は癖のある赤茶けた金髪、にこにこ微笑みを浮かべた人当たりのよさそうなレフガーだ。

 

「……まあお前らだよな、ラヒネル、レフガー」

 青年は欄干から扉を振り返って二人を認めると、ラヒネルが呆れた口調で言った。

「残念だったなレオン、ドフター姉ではなくて。謝る暇もなく弟が連れ帰っていったしな」

「なっ! なななななっ!」

 

 欄干に寄りかかってあわあわしている青年こそ『イステル最後の王』と一部から嘲笑と共に呼ばれているレオン・オージェ・イステル。

 

 ちなみに彼はメイナにとって、いつの間に? の元婚約者で十年来の天敵である。トーマにとっては姉が絡むと途端に頭が悪くなるめんどくさい幼馴染みという認識しか持たれていない。哀れなレオンだった。

 

 ラヒネルは露台側の窓が開け放たれているので、そのまま大股でレオンに歩み寄り欄干に同じように寄りかかった。レフガーは露台側に置いてある室内のソファーに寝転がる。

 

 そしてそれはそれは良い笑顔を浮かべ、ラヒネルはレオンの肩を勢い良く叩いて言った。 

「まあ、昔っからドフター姉に嫌われてるのはわかっていたが。まさか婚約していることすら忘れられていたとはな。更にドフター姉がお前を好いていたという誤解までしていたとは御愁傷様だ」

「なっななな! 何だと! それじゃまるで俺がメイナを好きみたいな言い方じゃないか! クソが!!」

 

「ほんと口悪い、そういうとこだぞお前」

 ラヒネルは真顔になってレオンに言う。

「まあでも仕方ない。元々婚約はなくなる予定だったんだろ? 陛下から今聞いたとこだ」

「……ああ、俺もさっき聞いた」

 不貞腐れた声音でレオンが返事をする。

 

 メイナ達が宮殿を辞去した後、まずレオンだけが父である王の前へと速やかに引っ張り出され、パーティー会場になっていた宮殿のホールで騒ぎを起こした顛末について説明させられていた。

 その時に「いや、勝手に破棄しないでくれるかな? 元々解消視野の婚約だったんだよね」と父王からさらっと伝えられた。最初からそれを知らせておいてくれよと彼が思ったのも仕方ない。

 

「いいか、俺は! メイナなど好きではない! こんなに仲悪いのに婚約が続くからだ! ……アレが俺を好きだから婚約続いてんだなあって思ったんだよ……」

「あー……むしろそれは」

 ラヒネルが空を仰いだ。

 

「逆に意識して好きになるよな」

 ラヒネルはまたしてもいい笑顔でレオンに向かって指差してきた。

 

「違う! 好きなどではない! いいか、俺は! 違う! ないんだ!」

「わかった、わかった」

 真っ赤な顔で怒り出し差された指を曲げてくるレオンをニヤニヤしながらどうどうと宥め、ラヒネルはレフガーに水を向けた。

 

「レフガー、レオンとメイナは婚約がなくなったぞ。チャンスだ」

「はあ!?」

 レオンはぽかんと大口を開けた間抜け面でラヒネルを見る。

 

 レフガーは微笑んだまま首を横に振る。

「無理、メイナはダメ」

 小さく呟かれたレフガーの言葉は二人にきちんと聞こえた。

「何でだ? レオンの婚約がなくなったなら邪魔は何もないだろ?」

「レフガー! いっ、いつからだ!」

 ラヒネルとレオンの同時質問にレフガーは答える。

 

「ラヒネル、ドフターを勉強。レオン、十年前から」

「ドフターを勉強?」

「えっ! 初顔合わせから!?」

 またも同時に叫ぶ二人に困ったようにレフガーは微笑った。






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