崖の実
ステファンに紹介された仕事は、錬金術ギルドが依頼し、冒険者ギルドでも長らく放置されていたクエストだ。
「ハーピィの冒険者とか居なかったのか?」
「勇者パーティみたいに、魔族を仲間にする人族はグラナパイアに沢山いるわけじゃないんだ。それに、『崖の実』は例え空を飛べたとしても採取が出来ないかもしれない。それが何の実なのかも分かってないし、場所が危険で報酬も少ない。無理しないことだな。」
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南の森にはイグアナっぽい見た目のドラコ・リザードや、鱗が綺麗なグリーンサーペント、甘い物が大好きながらブチギレると甘くない巨大な熊スイート・ベア、森の木々に完全擬態する危険な猛獣ウッドサーベルタイガー等、様々な魔物が居た。
もちろん、ゴブリンも。
生態系はバランスが取れている。
それは必ずしも人間にとって快適な場所、という意味ではないが、、、
「ルーカス様のおかげですんなり通れている気がします。」
「ゴブリンは直ぐに忠実な部下になりましゅ!」
「御使様がゴブリンを使役するというか、ゴブリン達は目があった瞬間に土下座して付いてくるのが、、、、ゴブリンキングがお茶汲みなんて、、、」
俺達は南の森を探索しているだけで固有スキル【ゴブリン支配】で数十匹のゴブリン達を使役してしまい、かなりの大所帯になっていた。
中にはゴブリンキングも。
「おぐざま゛方、、おち゛ゃ、どう、ゾ。。。。」
「ありがとうございます!」
「くるしゅうない!でしゅ!」
「あ、ありがとな、、、」
ティア、エルメ、ゼラが木のカップに入った出来立てのハーブティーをゴブリンキングから受け取っていた。
俺達はゴブリン達の集落に来ていた。
どこかで襲撃され集落で捕虜になっていた冒険者や一般人を解放すると、皆俺にゴブリンを処刑するように言ってきた。
「何故こんな魔物を生かしておくんだ!?危険だ!!彼女達を見ろ!みんなあんなひどい目に、、、」
「黙れ。俺にはこいつらを従えるだけの力がある。命じれば死ぬ。おら、そこのゴブリン。自分で自分の首を刎ねろ。」
俺は近場のゴブリンにそう言うと、ゴブリンは自ら首を斬って倒れた。
「ヒィ!!??」
冒険者は腰を抜かし青褪める。
「フン。勘違いするなよ。ゴブリンは俺にとっては有益な資産なんだ。知能は低いが、俺が命ぜれば死ぬまで働き、幾らでも補充が効く戦力だ。今回は探し物ついでに、こいつらに山の間伐と草刈りでもやってもらってボランティアにでも励ませようじゃないか。それで不服か?どの道コイツらはもう既に俺の資産だ。お前らが邪魔するならコイツらに相手させるまでだ。」
冒険者達は被害者と共にティアの治療を受け、安静にしていたが、周りをゴブリンに囲まれているという事実に怯え切っていた。
特に男性冒険者は俺に対する恐怖心が凄まじい。
魔王か何かを見る目つきだった。
ゴブリンの集落は俺が土魔術で大幅に改造して砦くらいのサイズになった。
転移魔法陣を書き込み、ゴブリンキングを防衛の要として配置し、何かあれば連絡を取れる様にしておいた。
「勝手だがノッケンス男爵領の旗を立てさせてもらう。」
「ルーカス様、他領の貴族の旗を立てるのは侵略行為では?」
ティアが懸念しているのは紛争とかそういうのだろう。
「いや、此処は暫定陣地という話だ。ゴーレムを配置し、冒険者がちょっかい出してきたらでかい声で俺の名前で警告し、従わなければ教会送りにするだけだ。」
「手荒ですね。ですが警告を無視すればややこしいことにはなりますね。」
俺は【ゴーレム召喚】で騎士の鎧をイメージしたナイト・ゴーレムを作り出した。
巨大な白銀の鎧姿にマントをはためかせ、片手剣と盾を装備している。
聖教会の聖騎士ローガン・カーティス思い起こす風体だ。
そういえば今頃何やってんだろうなアイツ。
「我が偉大なる主よ!この身を捧げましょうぞ!」
「あ、あぁ?あぁ。とりあえず俺の名前を使って、この陣地守ってて。」
「何たる喜び!何たる興奮!我はやるぞっ!!」
妙に気合が入ったゴーレムだな。。。
後にダンガルーン辺境伯がノッケンス男爵にとある書簡と感謝状を送る。
ゴブリンを従える神出鬼没の『白銀騎士』が、領内で人々を苦しめる盗賊や違法奴隷商人の集団を次々と討伐し颯爽と去るというのだ。
ノッケンス男爵領の旗を掲げて。
もちろん、ノッケンス男爵は返信書簡にこう記す。
『当方にその様な勢力はおりませぬ。見間違いではないでしょうか?』
ダンガルーン辺境伯はこれをきっかけにノッケンス男爵と友人となり、全てはルーカス・ブラックの悪ふざけと知るが放置した。
『白銀騎士』は流浪の巨人族だとか、巨人族と人間のハーフだとか、実は最強の鬼人族だとか、噂は風のように流れるばかりであった。
俺は冒険者に未解決クエスト『崖の実』の話を聞いた。
「アンタ、こんな魔物を従える強大な力を持ってるくせに、なんでそんな雑用クエストやるんだ?」
「暇つぶしだ。先日ドラゴン・スロートの坑道がダンジョン化してしまってな。俺は錬金術師で素材集めがしたかったんだが、鍛治ギルドが坑道再開するまで何かしたくてな。お前達もダンジョンに潜れるようになれば、運が回るかもな。」
適当に話を合わせると冒険者達は俺への敵愾心や目的も忘れてダンジョンの話を聞きたがった。
全く現金な連中だ。
「待て待て、もうダンジョンの件は良いだろう。『崖の実』は?」
「ありゃ、単純に取りに行けねぇ。」
「どれだけ身軽なやつでも死ぬ。」
「行った奴全員、手ぶらで帰ってきたからな。」
単純に崖で踏破困難な上、装備を揃えても赤字になるが故に採取しないらしい。
「サクッと取ってくるか。」
ティアとエルメはここで怪我人の支援をするらしい。
ゼラを連れて俺は崖のある場所へと向かった。
「確かにこれは、、、」
「人族、、、いや、、空を飛べない種族は採取できないでしょう。」
崖は反り返っていて、その下で側面から垂れるように木が実を付けていた。
俺が『鑑定』をかけると驚くべき植物であることが分かった。
「グラトニー・トレントという、木に擬態してるデカいハエトリソウみたいなレアな魔物だ。不用意に近付くとドラゴンすら食われるらしいな。そしてあの実はさらにレアだ。ゼラ、崖の周りを警戒しててくれ!」
俺は【闇翼】で空を翔び、グラトニー・トレントに近付く。
ボアアアァ!!!グゲボアッッ!!!!
擬態を解き、顎門を開き、よだれのように粘液を撒き散らしながら、凄まじい鋭さの歯を剥き出しにして、グラトニー・トレントは空中の俺を襲ってくる。
(あの粘液はヤバいな。おそらく魂魄や幽体すら溶かしてしまう。)
ドラゴンや幽鬼すら分解する粘液を風魔法で吹き飛ばすと、俺は【影収納】から『地獄剣』を取り出した。
不気味な柄の魔法陣が紅く光り、鍔が開き、悪魔のプラズマが刃を象る。
「絶対防御破断だ!喰らえ!」
呆気ないほどにグラトニー・トレントを切断し、俺は【影収納】に魔物の死体を収納した。
飛び散った粘液が俺の皮膚を溶かす。
「チッ!粘液が触れたか!とんでもない激痛だッ!」
俺は敵を倒して貯めていた魂魄で幽体を修復した。
身体の方は再生するが、幽体が傷付けば重篤な後遺症となる。
【ケルベロス・ガントレット】と似たような成分の毒だ。
俺はゼラのそばに降り立った。
「御使様!ご無事ですか!?」
「あぁ。少し溶かされたが、問題ない。」
「御使様が苦戦するほどの魔物とは、、、恐ろしい。。。今すぐ身体を見せてください!!」
「いや待て、、その必要はな、、、むぐ。。。」
涙目のゼラに身体を弄られ、唇を塞がれて、結局なし崩し的に致してしまった。
「ふぅ。。。ゼラ。。見てみろ。」
「ほぇ?何ですかこれ?」
ケルベロスレザーの外套を敷いて、裸で惚けるゼラに採取した実を見せた。
「コレは『スキル・プルーン』だ。神々が気まぐれでランダムの植物に実らせる、国宝級のシロモノだよ。食えば『固有スキル』が1つ増えるんだ。」
「!?!?」
ゼラは驚き過ぎて固まっている。
「もちろん、荒唐無稽なスキルが発現する訳じゃない。本人が持つ眠った才能を呼び覚ますんだ。しかも俺はそれを15個も取って来た。皆で食べて見ようぜ?」
俺達は当然、この件をステファンやギルドに報告できない。
グラトニー・トレントの素材も、『スキル・プルーン』も国が動くほどのレア素材だ。
余計な面倒は御免だ。
ティア、エルメと合流し、ステファンの元へ報告をしに行った。
「あともう一歩のところだったんだがな。木の根元が腐っていたようで、木の実ごと崖下に真っ逆さま。。。悔しいよ。」
「残念だったな。まぁ良いさ。コレで錬金術ギルドはクエストボードからあの依頼書を剥がせる。新種だと思ったんだけどな。。。」
ステファンに嘘をつくのは忍びなかったので、お土産だと言ってゴブリンの集落に溜め込まれた希少素材を渡したら、すごく喜ばれた。
「いやぁ、錬金術師同士だと、素材の価値が分かっていて助かるよ。この泥にしか見えない苔『ダート・モス』が猛毒の解毒ポーションに使われてるなんて、皆知らないからね。冒険者が踏んづけて台無しにするのを見て何度激怒したか。。。」
「ハハハ・・・これ売ると金貨10枚だからな。」
鍛冶屋の親父と同じく、頭の悪い冒険者にステファンは悩まされている様だった。
俺にはどうすることもできんが。
仕事を終えて宿に戻ると、既に風雪が待っていた。
「遅いアルよルーカス!これお土産ネ!」
風雪はドラゴン・スロートを悩ませる武器密売組織を退治してきたらしい。
ドラゴン・スロート産武器を護衛中の冒険者達を、そいつらが強襲したという。
偶然別のクエストで居合わせた風雪とガヤ三兄弟がボコボコにして冒険者達に引き渡したお礼に、連中の武器をもらったという。
「我の武器の素材にすると良いアルよ。」
「ちゃっかりしてんな。でもありがとな、風雪。」
口付けしてやると宿屋の男連中から冷やかしがあったが、他のガールズ達もおねだりしてきたので答えてやったら段々と視線が殺気に変わってきた。
「さて、夜のお楽しみはもちろん、皆に別のプレゼントがある。部屋に行こうか。」




