公開処刑
「ルーカス様、到着しましたよ。」
「ん、ティア、おはよう。ここがヴァイケンか!」
白い石造りの街並みが印象的な街だ。
至って平和そうだ。
ティアが言っていた沼だかに行きたいとは思わないが、他に名所らしい名所も知らない。
「ブラック様、でよろしいでしょうか?」
馬車を止めた冒険者が俺に恭しく挨拶に来た。
どうやら高貴な身分だと勘違いしているらしい。
「よせやい。俺は貴族じゃない。ただの羽振りの良い一般人だ。ブラックさんで良いよ。」
「ご冗談を。畏れ多いです、ブラック様。貴方様ほどの剣の腕前、属性剣を気前良く手放す人物が一般人な訳がないでしょう?」
そうなのか?
「まぁいい。それで、どうした?」
「お荷物が多い様でして、どちらに馬車を停めれば良いか迷っておりました。この馬車は既に貴方様の所有物でして。」
あ、御者のおっさんを処刑したから俺の拾得物になったのか。
維持費がかかるな。
「なるほど。君らも野盗の首を詰め所に持って行かなきゃならないだろう。先にそっちを優先しよう。」
「畏まりました。衛兵詰め所までご案内します。他の家族2組はここで別れる様です。お手数ですが、重ね重ね感謝申し上げます。」
「なに、旅は道連れってやつだ。急いでないから良いよ。」
魔道具の腕輪からダンゴちゃんの定時連絡が来て、冒険者達がびっくりしていたが、適当に誤魔化した。
衛兵詰め所に到着すると、野盗の首を検分し、手配分の金を受け取った様だ。
冒険者は俺にも金を渡そうとしたが固辞した。
「約束の金貨5枚だ。もう十分だ。無理せず休むと良い。」
「ブラック様、ありがとうございました。宿をお探しでしたら、大口取引をする商人が集う、『グラス・ハープーン』が良いでしょう。それではまた。」
ティアが馬車を曳き、俺達は直ぐに宿屋でチェックインした。
厩にはゴツい棍棒を持った見張りが立っていて、馬と荷物をまとめて警護していた。
商人ギルドが派遣している護衛らしく、この宿は商人が安全に宿泊出来る。
俺達は荷物から食材を持ちだして、宿で食べる事にした。
【ゴーレム召喚】や【料理召喚】してしまいたかったが、ティアもエルメも目立つのを嫌がったのだ。
宿では俺の甘いマスク効果のせいか、周りに美女が集まってきて、ティアとエルメが俺の腕を取って両側から胸で挟み込み、終始姦しい夕食になった。
「へ〜!貴方達、ピアース街から来るのに盗賊に襲われるなんて、運が悪いわね!」
「しょうがないだろ。俺達を運んだ御者がグルだったんだ。」
「うわ!どうして生きてるの?」
「それはご主人しゃまがスパッとバサッとやっちゃったからに決まってます!」
「ウソぉ?ほんとにぃ?」
「エルメ、話を盛るな。実際、危なかったが、護衛の冒険者が奮戦したのさ。俺はちょっと手伝っただけだ。」
「ルーカス様はお強いですからね。ですが、仕事を奪うほど無粋ではありませんから。」
「ふ〜ん。神官さんはそうゆうカレのキザなとこに惚れて、そのタワワな果実でモノにしたワケ?」
「な、何を言いますか!わたしは兎も角、ルーカス様は他にもカッコイイところが沢山あります!!」
「わお!惚気るぅ〜!!」
ここは女子会か?
ヨイショされるのは良いが、周りの商人達の中に同行していた商人一家も居て、属性剣の話になった。
あれよあれよと売ってくれだの作ってくれだのと騒ぎが大きくなり、金の匂いがし始めたので、「もう寝る!」と言ってティアとエルメを両肩に担ぐと女達が黄色い声を上げて喜んでいた。
もちろん、夜は3人で楽しんだのは言うまでもない。
〜〜〜〜〜〜〜
「「おはようございます!!」」
「ん、おはよう2人とも。今日はどうする?場所をタグ付けしてマッスルダンジョンに戻っても良いし、それか冒険者ギルドに行くか。」
宿の朝食の席で聞いたらティアは別の提案をした。
「ルーカス様。先に錬金術ギルドと鍛治ギルドに登録した方が良いのではないかと思います。」
「何故だ?」
「差し出がましいかと思いますが、ルーカス様の錬金術、その御技である【加工】があれば、癒し手であるわたしから見ればポーションなど多くの人々を救う薬品を作れると思うのです。もちろん、無理にとは言いません。しかし、作るならば錬金術ギルドに加入しておいて損はありません。」
錬金術ギルドでは薬草を多数取り揃えていて、買取り価格も良い。
ポーションを売る際は錬金術ギルドを通した方がトラブルも少ないという。
それに貴金属や鉱物、魔道具も販売している。
鍛治ギルドでは武具や魔道具の扱い、鉱石の売買などで、錬金術ギルドと絡む事もある。
「ルーカス様は魔道具や魔武具も作られるので最適かと。」
「なら、そうするか。タグ付けは後でも出来る。冒険者ギルドも後で良い。」
俺達は宿屋の人にチップを払って錬金術ギルドの場所を聞き、向かう事にした。
数十分後、錬金術ギルドの前に来たは良いが、、、
「嫌な予感がするな。」
「同感です。」
「あれ、何ですか?ご主人しゃま?」
人垣がぐるりと城の外郭にある沼の周りを囲うようにして集まっていて、異常な興奮に包まれていた。
「始まるぞ!」
「公開処刑だ!!」
「公開処刑・・・・・・」
外郭の沼の辺りから、ウィンチが回る音が響いて、ぼろぼろで痩せぎすの少女が吊るされた。
「あんな小さい子供を、、、」
「孤児なんでしょうか、、」
ちょび髭のふざけた格好をした男が聴衆の真ん中で罪状を読み上げる。
「えっっへん!!!本日断罪される卑しいネズミの名前はロシャール!ほぼ毎日、果物店、精肉店、パン屋で手癖の悪さから追い回され、あろう事かカッセル伯爵様の敷地内に侵入した不届き者である!我らがカッセル伯爵様は判決を下した!死刑!」
わああぁぁぁっ!!!と野次馬は騒ぎ始めた。
「ロシャール!!ロシャール!!」
野次馬の後ろに孤児達が集まり、絶望的な表情で捕らえられた仲間を見つめていた。
ブクブクと沼が泡立ち、どこからともなく巨大ワニがやってきた。
俺はワニに鑑定をかけた。
(見たところ単に脂肪でデカいだけで強さとかは無いな。一体何人食ってああなったんだ??)
エルメは既に顔を手で覆っている。
「ル、ルーカス様、あまりにも惨い仕打ちです。」
ティアは完全に狼狽えている。
「ティア、見るな。俺に任せろ。せっかくの旅行だ。良い気分で過ごしたいから、そろそろ一日一膳しようと思ったとこだ。」
俺はすぐに【迷彩化】し、【闇翼】で見晴らしの良い建物の屋上に立った。
「【影分身】したら、そいつを鳥のイメージで、、、、【変化】!!!」
俺は巨大な魔物の鷲をイメージして分身を作り、吊るされた子供の周りを飛行して旋回させた。
グオオォォォォ!!!バクン!!
飛び出したワニが吊るされた子供を狙って顎門を開いたが、脚を丸めて間一髪助かった。
「おおおおお!!??」
野次馬は興奮し始めている。
ちょび髭が口上を続けた。
「よって!このロシャールは皆様お馴染みのワニ、『エリザベス』の少し遅い朝食になる!!それでは!縄を切れ!!」
処刑人が縄を斬る瞬間に動いた。
ピィィィヒョロロロロ!!!
グォォォ!?
【影分身】の鷲は風魔法の刃でワニの首をスパッと落として、ロシャールと呼ばれる孤児を爪で掴み、持ち去った様に見せかけた。
「わああああああ!!??」
「ま、魔物の横取りだッ!!??」
「番狂わせだァァァァッ!!」
聴衆は突然現れた鷲の魔物に驚いていた。
「エッ!?エリザベーーースッ!!??なんて事だ!!あんなわけ分からん鷲に獲物をとられて、し、死んだ!!??カッセル伯爵に何て説明すれば良いんだーーー!?」
完全にパニックに陥ったちょび髭はカッセル伯爵の城に逃げ帰った。
「ル、ルーカス様!流石です!」
「ロシャールとかいう子供にはその辺で降りてもらったから心配はない。」
「い、一時はどうなるかと。」
沼は血に染まり、プカプカとワニの頭と胴体が離れて浮かんでいた。




