エルメとティア
「え〜?ご主人しゃま、なんでそのお姿なんでしゅか?進化したらカッコいいのにぃ。」
俺は進化前のダーク・ホブ・ゴブリンに【変化】していた。
「エルメ、お前は浅はかだな。強さは隠してこそ威力を発揮する事がある。明らかに強いと分かっていれば対処しやすいものなんだ。そうだな、例えるなら近衛騎士が村人や商人に扮していれば、誰も気にしないだろう?まさか騎士がそんなところに居るなどと誰が思うだろうか?油断は隙を招き、致命的な弱点を晒すものだ。裏を掻くという事だ。」
「ん〜、人間のフリしてた時のあたしみたいな?じゃあエルメはご主人しゃまと似た者同士だね!」
エルメは腕と尻尾を絡ませ、柔らかい双丘を押し付けてきた。
「そうかもしれないな、、、」
実際、エルメがどんな罪を犯していようが俺は気にしていなかった。
どうせサキュバスは差別されていたんだろう。
こいつは居場所を探していたんだ。
他の女を追い出して男をモノにする。
それはサキュバスの性というより、女の本質といったところだ。
エルメとティアの問題は当事者同士の問題な気がしてならない。
きっと世間が気にするような人間対魔族とかっていう話では無いはずだ。
「俺の居場所は俺が作る。エルメ、お前は俺のモノだ。勝手に何処かへ行ったり、決闘地味た真似で犬死にする事は許さん。」
「うっ!カッコ良しゅぎて死ぬ!」
俺とエルメは拠点に向けて歩き出し、MK1がその後ろに従った。
〜〜〜〜〜〜
「エルメ、、、」
「ティア、、、」
出会ってはいけない2人が会ってしまったって感じの雰囲気だ。
「な、なぁ、おい、どうすれば良いんだ??」
「知らないわよ、そんなの。」
俺は見ず知らずの冒険者達を眺めながら、ティアとエルメの再会を見守った。
「まだ生きてたのね。てっきり殿方に使い潰されていたのかと思っていましたのに。」
ティアは冷酷な眼でエルメを射抜いた。
エルメは服を脱ぎ、裸で土下座の姿勢を取った。
冒険者一行は男の目を覆って騒いでいる。
「ティア、いいえ、ティア様。このエルメは弱く、小賢しい女でした。聖騎士と冒険者から逃げ惑う弱小のサキュバス。それがあたし。今や何も無いあたしで差し上げられる命も、既にマスターの物。どうかこれ以上はご勘弁下さい。」
ティアが暗い表情でエルメに問いかけた。
「・・・あなた、本気でザックスとダフィを愛していたの???」
「はい。あなたから奪いたいほどに、愛していました。ですが死なせたのはあたしです。今更愛していたなどと、、、、、」
それから嗚咽混じりにエルメの独白が続く。
孤独な魔族領の捨て子、サキュバス、エルメール・ラブリューシュカの生涯。
奴隷商人を殺して逃げ延び、醜い人の営みに関わり続け、疲れ切ったエルメは逃亡の果てに、勇者を目指すザックスとダフィに出会った。
そして途方もない夢を見た。
勇者の寵愛を受け、誰からも祝福される人生。
そして隣に佇む女性に対する殺意に似た嫉妬も。
優しいザックスとダフィの為に、冒険者として一生懸命活躍したが、それよりもティアが気に入らなかった。
いざという時に、仲間の危機に武器を握って闘おうともしない、ニコニコ笑っているだけで皆んなが認めてくれる女。
眉間に青筋が走り、腑が煮え繰り返った。
何度もザックスとダフィを唆し、ティアの心を傷付けた。
だが、ティアも何も知らない生娘だった。
エルメとやり直そうとすれ違い、そしてダンジョンの一件に繋がった。
「もう戻れないのは承知ですが、初めて会ったあの時からやり直したい、、、ザックスとダフィに、、、会いたい、、、」
ティアは目を伏せて言った。
「エルメ、、、貴女を赦します。神は常に私達を見ておられる。死にたくても死ねない罰、愛した人を殺した者に抱かれる日々。貴女は毎日その責め苦を負うのですから、それを贖罪として下さい。」




