『マッスル・ダンジョン』の変異
「ど、どうなってんだよ、これはぁ!?」
勇者マサルは戸惑っていた。
『マッスル・ダンジョン』内部は謎の男によってフィットネスクラブに変えられていた。
冒険者から噂は聞いていたが、こんなゴブリンは見た事が無い。
ハナ、ピナ、彩音、ティアも逞しく端正な顔立ちのゴブリン達にキラキラと目移りしている様だ。
他にも女性冒険者達が入り浸っていて、親しげにゴブリン達と会話している。
「それでは、あなた方が異世界勇者御一行でしたか。ふむ。私達のマスターはダンジョンで常にご多忙ゆえ、あまりひとところに留まりませんが、夕飯時には帰ってくるでしょう。特徴的なゴーレムを連れているので直ぐに分かりますよ?」
目の前にいるのはマスキュリン・バトラー・ホブ・ゴブリン。
ゴブリンの支配者から采配を一任されていて、ゴブリン達に纏わるトラブルを一手に引き受けている。
紳士と見紛うかの様な行き届いた作法と話術、駆け引きで信頼を得て、最近の冒険者達はダンジョン内の情報を彼から得ている事が多くなってきた。
「なんだ、帰って来んのかよ。じゃあ待っとくか。」
マサルは肩透かしを食らった気分で椅子に腰を下ろした。
「そうですか。ではお待ちの間にトレーニング等を体験なさってはいかがでしょう?あちらには女性向けのフィットネスコーナーがあります。男性向けフィットネスコーナーでは最近来た新参ゴブリンが汗を流しています。此処では身体を鍛えて早く下層に挑みたい者が多いですから。」
彩音はバトラーに質問した。
「ねえ、あなた達のご主人様って、何処から来たか知ってる?」
バトラーは首を横に振った。
「分かりません。気付けば私達はゴブリンという思考力があまり無い生物から劇的な変化を遂げたので、それまでの記憶を持ち合わせておりません。ただ一つだけ確かなのは、マスターが我らの神であらせられる、という事です。」
「筋トレを推奨する神、か。」
彩音の眼からハイライトが消えている。
入浴施設は男湯と女湯で分かれていた。
「風呂は今、入れないのか?」
マサルが聞いた。
「申し訳ございません。マスターが帰られればすぐにでも入浴出来ます。風呂専用のゴーレムがマスターに付き従っております。魔石を使えば沸かせるのですが、我らゴブリンでは未だ魔力の操作が未熟でして、いやはや、お恥ずかしい。」
ハナ、ピナ、ティアは早速、バランスボール、トランポリン、ボクシング体験、ダンベルトレーニング、チューブトレーニング、ヨガなどを始めている。
マサルと彩音は溜め息混じりに確信していた。
((謎の男、絶対に異世界出身だわ。))




