王国と聖教会によるダンジョン調査
ここはバーバノン王国にある、ピアースという街の冒険者ギルド。
今、ギルドを騒つかせているダンジョンがある。
単純に街の名前を取って『ピアース・ダンジョン』と呼ばれていたが、ここ最近は『マッスル・ダンジョン』と呼ばれている。
そう呼ばれるようになったのは奇異な出来事からだ。
数ヶ月前、ダンジョンの中ではゴブリンによる被害が多かったが、今では皆無。
むしろゴブリンが人間を襲わない、ゴブリンを討伐しようとしても尽く丁寧に死なない様に返り討ち、女冒険者は屈強で顔立ちの良いゴブリンの肉体美にゾッコンになりダンジョンに潜る始末。
しかもその帰りにゴブリンからダンジョン産の素材やら何やらを貰って帰ってくる始末。
ゴブリン達が魔物を寄せ付けず、安全な探索が可能になった。
何がどうなっているのやら。
全ては時期的に冒険者パーティ、『黄金の扉』の不祥事から始まった。
古い歴史から存在する聖教会所属の神官ティアが、パーティリーダーの勇者を目指すザックスという青年に乱暴をされていた所を、謎の冒険者に救われ、その場でザックスとダフィは狼藉者として処分。
神官殺害を目論んだサキュバスのエルメは戦利品として連れ去られたという。
確かに『黄金の扉』にエルメが加入してからティアを虐めているという噂は絶えなかったが、それでもエルメは冒険者達に愛想が良く人気があり、魔物とは思えなかった。
サキュバスの策略による冒険者達の暴走。
世間と冒険者達は納得する事にした。
聖教会が事実と認めているからだ。
エルメの人相書きで調査した聖騎士や国の衛兵が、他領で殺人を冒した偽名の女である事を突き止めたからだ。
神官ティアが持ち帰ったザックスとダフィの首は手練れの剣士に一撃で断たれた形跡があり、ティアの証言を補足した。
いずれにせよ謎の男に接触し、サキュバスの引き渡しをして欲しかったが、かなり交渉は困難に思われた。
その男は襲撃され、その賠償としてサキュバスを奴隷にした。
それ自体は正当で合法であり、奴隷の過去の行いを精算するには所有者の判断次第である。
引き渡しを拒否されればそれで終わりだ。
しかも謎の男はダンジョン内のゴブリンを完全に支配し、鍛え、何故か筋肉をつけさせている。
これまでも分別の無い冒険者を返り討ちにしているし、謎の男が強力なゴブリンを支配している以上、迂闊に手を出してしまえば被害が広がり、王国にはメリットが無い。
サキュバスを連れ去るなら、魔族なのか?
仮にそうならば弱った神官を見逃したりはしないだろう。
冒険者では?冒険者が単独で下層まで行くなら、伝説の異世界勇者だろう。
それかただの世間知らずの強者か。
いずれにせよ、謎の男がダンジョンの最奥まで行く可能性は高くなった。
バーバノン王国はダンジョン・コアが破壊された場合の経済的損失がピアースに訪れるのを危惧していた。
実際のところ、エルメの件は謎の男をダンジョンから引き摺り出す口実に過ぎない。
王国と聖教会はダンジョンの調査に乗り出すべく他領を漫遊していた勇者を呼びつけ、メンバーに神官ティアを加えようとしていた。
だったのだが、、、
「ティアちゃん、頼むぜ!この通りだ!」
ギルドマスターが頭を下げている。
「嫌です!命の恩人に仇を成すなど!下衆外道のする事!わたしは行きません!エルメなどもう、どうでも良いでは無いですか!きっとダンジョンの底で口にも出せぬ様な罰を受けているに決まってます!良い気味!」
ティアは激昂していた。
殺されそうになった自分は援助しないくせに、ダンジョンコアが他の人間に取られそうになっただけでエルメエルメと人気者に。
殺せるならこの手で殺してやりたいと思っていた。
だが謎の男に罰を受けていると思うと少し溜飲が下がった。
何故か若干の嫉妬もあるが。。。
「あの殿方はきっと何処かの英雄ですわ。名も告げずに私を助けて下さるなんて。。。かっこいい!!ぽっ!」
ティアは顔を赤らめた。
「ぽっ!てなんだよ!ぽっ!て!こんな可愛い娘をホの字にさせるなんて、どんなイケメンだよ!会いたくないわ!」
勇者がツッコミを入れた。
彼の名前は、野口克。
正真正銘の異世界勇者だ。
「あーあ。なんだか気が乗らないわ。ティアちゃんの話を信じるなら、その人って淑女の窮地を救ってダンジョンの環境を良くした豪傑じゃない。そのエルメってサキュバスを使って何してるかは、私は想像ついちゃうな。だってマサルとか絶対想像してるでしょ。」
パーティメンバーの犬耳の獣人少女・ハナの発言でギクッとマサルが固まった。
ギルドマスターも溜め息をつく。
「はぁ。お前さんが諸国漫遊して魔王崇拝者を打倒するとかってご立派な事言って、そういうのが目的なのは知ってたが、、、、」
剣呑に言うギルドマスター。
「そうね、確か、『異種族こんぷりいと』?とか言ってたわ。言葉の意味は分からないけど、まぁ、内容は察するわ。」
ハーピィの少女・ピナもマサルをジト目で見ていた。
「以前ラミアに捕まった時やアラクネに捕まった時に殺されそうになったのに、懲りないよね、全く。」
唯一人、勇者パーティで人間枠の少女、高崎彩音が辛辣に言い放つ。
彼女も異世界勇者である。
なんだかんだツンツンで克ラブな女だ。
「あーその話は置いといてだな、ティアちゃん?だよね?その殿方って人にお礼を言いに行くって口実で会うのはどうだい?どの道ダンジョンコアが破壊されたらピアースの街の人達は困るんだ。彼にそれを伝えるのに相応しい人は、きっと君だけだよ。」
ティアの顔が真っ赤になって、、、
「たらしが、チッ!」
彩音がめっちゃ舌打ちした。
「俺たちは冒険者パーティの『チアーズ』だ。短い間かもしれないけど、よろしくな!ティア!」
結局ティアの一目惚れも相まってダンジョン調査は始まるのだった。




