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森で拾った金髪巻毛の男の子が夜になるとイケメン騎士に変身するんだけど、どちらも大好物で困ります  作者: はなまる


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第八話 一緒にお風呂に入ってますよ

「髪の毛から、君と同じ花の匂いがするな」


 彼がスンスンと鼻を鳴らながら言った。おかげで考えごとから目を逸らすことが出来た。今はまだ、途方に暮れるべきではない。


「ああ。わたしが作った髪の毛用の油です。カミーリアの花で作るんです。いい匂いでしょう!」


 日用品作りはわたしの趣味だ。石けんも香油もお茶も、森の植物で作っている。雑貨屋の女将さんに褒められるけれど、売るほど作るつもりはない。なぜならそれは魔女の仕事ではないからだ。

 軟膏がひとつも売れないからといって、魔女の看板を下ろすつもりはない。いや、ジャムとピクルスは売っているけれど。魔女だって、生きてゆくには現金が必要だ。


「シオンは自分で髪の毛を洗えるようになったんですよ! 今日は石けんが目に入って、泣いてましたけど」


 気分を変えるために楽しい話をする。お風呂でのシオンを思い出して、ふふふと笑みが(こぼ)れる。


「君と一緒に風呂に入っているのか?」


 少し驚いたように聞いてくる。だって一人じゃ、まだ……無理……だし……。


「あ……あ、あの! ほんとに憶えてないんですよね? シオンの記憶、共有してないですよね⁉︎」


「あ、ああ! 誓って全く、全然憶えてない! 大丈夫だ!」


 気まずい。そしてなんだか恥ずかしい。『さあ、ちんちんもきれいに洗いますよー!』とかやってるなんて、とてもじゃないけど言えない。

 二人して顔を赤くして黙り込む。先に口を開いたのは彼の方だった。


「参ったな……。どうやら本格的に、君の話を信じたくなって来た」


 まだ信じていなかったのか……。どんな状況だと思っていたんだろう?


「俺を拉致して、昼間は薬で眠らせているとか……」


 ひどい。でもこの人なら、ずっと眠らせて眺めていたいと思う女性がいても不思議ではないかも。いっそ男性でもあり得る。


「あー、眼福ですもんね。あるある!」


 つい正直に言ってしまい、呆れ顔を向けられた。自分だって昨夜、鏡を見て男前だって言っていたくせに!


「作り話にしては、この部屋は用意周到(しゅうとう)過ぎるんだ。君はそんな仕込みが出来るようには、とても見えない」


 部屋の中を見回しながら言う。確かにこの部屋には、幼い子供のものが多くある。椅子とか、食器とか……。シオンの服とパンツも干してある。


「そんなで、よくわたしの出す食べ物を平気で食べますねぇ」


「君は自分が、一服盛(いっぷくも)るなんて腹芸を使えると思っているのか?」


 ぐぬぬ。なんということだろう。これでもわたしは薬魔女なのに! レシピだけなら凄いの知ってるんだからね! 惚れ薬とか、自白剤とか!


「実は昨夜、君が寝たあと、ずっと見張っていたんだ」


「えー、『君の話を信じてみようと思う』なんて言ってたのに?」


「こっちも切実だったんだ」


 ジト目で睨んだら、困ったように笑った。くそう、顔がいい! そしてズルい大人のやり口だ!


「朝日が窓から差し込んだ途端に、急激な眠気に襲われた。遅効性の眠り薬とは、まるで違ったよ。落ちる間際に眠り続ける君と、縮んでゆく自分の手足を確認した」


 だから今朝、シオンが廊下で寝ていたのか! ずいぶん寝相が悪いなぁと思っていたんだ!


「そうですか! それはようございましたね!」


 不機嫌を隠さずに言うと、今度は微笑ましいものを見るように笑われた。なんだか、子供扱いされている気がする。昼間、わたしにパンツ履かせてもらってるくせに!


 彼の浮かべていた笑みが、すうっと冷えて目が鋭くなる。


「呪い……だろうか?」


「おそらくは……」


 わたしも釣られて真顔になった。


「心当たりはありますか?」


「いや、何も思い出してはいない。……俺の持ち物は、マント以外はなかったのだろうか?」


「そういえば、ちゃんとは探していないですね。シオンの足の怪我が気になって……」


 荷物のことなど考えもしないで急いで連れ帰ってしまった。


「明日の昼間、探しに行ってみます」


「面倒かけるな」


「いえ、ついでですよ」


 明日は元々、シオンとピクニックがてら、キノコ狩りの約束をしている。実は彼の夜食も、明日のお弁当のついでだ。


「見たところ女性の一人暮らしだろう? 俺のような者は厄介ごとの塊だな」


 いいえ、シオンと二人暮らしですよと言いかけて、この人とシオンは同一の存在だと思い出す。


 キッチンのテーブルに座って、サンドイッチを食べる彼を眺める。ひと口がわたしの倍くらい大きいけれど、どこか育ちの良さを感じる食べ方だ。


 温め直した根菜のスープを口に入れた彼が『ああ、いい味だ。沁みるな』と言って口元を和らげる。その表情に、声に、シオンが『ルーシア、これすき。おいしい』と言って頬を押さえる様子が重なる。気のせいだとは言えない、確かな面影がある。やっぱりこの人はシオンなのだ。


 そして、もう否定することは出来ない。


 森で出会った時、シオンが身に着けていた大人用のマント。ピンと伸びた広く厚い背中。どこか堅苦しい騎士言葉。


 この人は『過去』を持つ人だ。おそらく、騎士階級かそれ以上の身分のある人だ。呪いを受けているのはこの人で、呪いを解いたら消えるのは……。



 シオンの方だ。








次話『キノコは豊作でした』


シオンと森に出かけます。楽しい……楽しい一日と、ルーシアのある決意のお話です。

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