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第三十一話 アドルフォの提案

「あらら。アドルフォ、落ちちゃったわね」


「の、のりょい(呪い)のかいじょは?」


「終わった筈なんだけど……。上書きされてるみたいなの。ルーチャ……もしかしてこの人、登録してないの?」


 登録? ナニソレ?


「塔の手引書、読んでないの? 塔のセキュリティ機能は登録者以外に発動するの。登録してない人間が塔にずっといたら、そりゃあ、解除した途端にまた発動するわよ」


 読んだ……! つい最近確認したばかりだ。でもそんな記述あった?


「全く……その大きな目はガラス玉なのかしら! いーい? あなたはこの塔の跡継ぎなのよ? その調子じゃ上の方、全然使ってないのね?」


 えへへと笑って誤魔化してジプシータンバリンをシャラシャラと鳴らしたら、猫みたいに首根っこを掴んで持ち上げられた。


 カミラさん……力持ち。


「踊って汗かいたのに、いつまでも寒空に居たらまた風邪ひいちゃうわ」


 ぽいっと部屋に投げ入れられる。


「お風呂であったまって来たら?」


 続いて眠ってしまったアドルフォを『よいしょ』と担ぎ上げた。普段はすっかり忘れているけど、こんな時にはカミラが男性だと思い出す。


 トボトボとタオルを抱えてバスルームへと入ってゆくと、背中から声をかけられた。


「久しぶりに一緒に術を編んだけど、なかなか良かったわ。基本を守って丁寧だし、素直で繊細……。あなたらしくて、素敵。ちゃんと頑張ってるのね」


 意外なほどに褒められて、嬉しくて涙が出そうになる。幼女の身体は(こら)え性がなくて困る。


 バタンとバスルームのドアを閉めると、そのタイミングで変身がはじまった。ナイスタイミング! 幼女だと背中とか髪の毛とか、上手く洗えないんだよね!


 良い機会なので、服を脱いで自分の様子を観察することにした。シオン→アドルフォ、アドルフォ→シオンは、呪いの発動時に必ず眠りを伴うけれど、わたしはそうではないようだ。


 トントンとバスルームのドアが鳴る。


「ルーシア、その気配……! もしかして変身してる? ねぇねぇ! 私も見たいわ!」


 そんなわけいくかー! 夜明けにアドルフォがシオンになるから、そっちで満足して欲しい。


 お湯を張ったバスタブへドボンと飛び込んで、手足を伸ばすと「んん〜、うはあ〜〜」と、思わず意味不明な声が出た。魔女の技を使った後は、独特の倦怠感がある。


「ルーシア! もう終わっちゃった? んもう! 見せてくれたって良いじゃない!」


 カミラがバスルームの外で騒いでいる。兄弟子も自分の性別を思い出した方がいいと思う。あと妹弟子の年齢も。わたしは、春には成人なんですよ!



 ホカホカになってバスルームから出ると、カミラがキッチンでお茶を飲んでいた。


「アドルフォの登録済ませておいたわ。あなたは明日、手引書をもう一度、隅から隅まで読んでおくこと! いいわね?」


「はぁ〜い」


 気の抜けた返事をして、自分の分のお茶を淹れる。


「どーする? もう一回挑戦してみる?」


「えーっ、もうお風呂入っちゃったから明日にしようよ」


 とても呪いを解く解かないの相談とは思えないやり取りになった。カミラが絡むと、不思議と全てのことが緊張感から遠ざかってしまう。


「すまんが、ルーシアさえ良ければもう一度頼みたい」


 アドルフォが階段をトントンと降りて来て言った。


「あら、アドルフォ起きたの? 具合悪そうだったけど大丈夫?」


 カミラが軽い口調で聞いた。カミラは人見知りとか、無縁なんだろうなぁ。羨ましい。


「ああ、大したことはないが頭痛があったな。眠気はシオンになる直前のものと似ていた」


 意外にアドルフォも打ち解けた様子で話す。わたしはといえば、急に自分の濡れたままの髪や、湯上がりの露出した肌が恥ずかしくなりバスタオルを頭からかぶった。我ながら、意識し過ぎで情けない。


「良いですよ。もう一度やりましょう。この姿の方が、わたしはやりやすいですから」


 魔力の残量と相談して、アドルフォの提案を受けることにした。

 わたしの魔女としての能力は、幼女化していても変わらないように感じるけれど、短い手足や舌は思い通りには動いてくれないのだ。


「もうひとつ、頼みごとがあるんだ」


 アドルフォが改まった様子で口ごもる。


「俺を縛ってくれないか?」


 ブフォー!


 盛大にお茶を吹き出してしまった。ゲホゲホと咳き込む。突然あなたは、何を言い出すの!


「最初の時から、そうするべきだった。記憶がどこまで戻るのかわからんが、俺は自分の素性に自信がない。暴れたり、君たちに危害を加えるかも知れない」


「あら……。あなた、魔女二人に簡単に勝てるつもりでいるの?」


 カミラが挑発するように言った。いや、わたしを戦力に数えないで下さい。


「無様を(さら)したくないんだ。頼むよ」


「いいわ……。縛りましょう! いやだわ、なんて楽しい夜なのかしら。帰って来て良かった!」


 カミラのテンションが爆上がりだ。


「ルーシア! どんな縛り方が良い?」


 えっ、何でわたしに聞くの⁉︎


「イケメンのおねだりからの縛りプレイよ! 基本は後ろ手かしら! 上で縛って吊るのも良いわね!」


 カミラの私生活が気になる。いや、だが聞くまい。わたしにとっては良い兄弟子だ。それでいい。


 カミラは、自分の発言を若干()いているらしいアドルフォに、撤回の余地を与えずに、驚くべき手早さと手際の良さで準備を進めた。


「ねぇ、ルーシア。目隠しと猿ぐつわ、どっちがいい?」


 それ、どっちも今は必要ないですよね。


 でも……!


「……め、めかくし……」


 ごめん! アドルフォ! だってこんな機会、もうないかも知れないし……! わたしの持ってるロマンス小説にも、こんな挿絵ないんだもん! 見たい!



 塔のセキュリティは、これ以上ないクオリティで解除された。


 アドルフォは、理性を失くすことも暴れることもなかった。ただ、しばらく「は……ははっ」っと、乾いた笑いを浮かべてとても無口になったので、若干心配になった。








大丈夫! 全年齢対応です!


次話、温泉回予定。もちろん脱ぐのはアドルフォとカミル兄さんです(゜∀゜)ノ

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