第二十八話 ほんきれ、おどりましゅ!
三日も更新出来なくて、ごめんなさい!
長い目で見守って頂けると助かります!
「……すまん。もう起きてるんだ。タイミングがつかめなくてな……」
アドルフォがむくりと起き上がり、バツが悪そうに言った。
「目覚めたら、半裸で女性二人に見下ろされていた。祭壇の生贄にでもなった気分だ」
それは確かに怖いかも。ここは魔女の塔だし。
「もう風邪は大丈夫なのか? つらい想いをさせてしまってすまなかったな」
大きな手で、包むように額にあてられる。近い近い! あなた半裸ですから!
「べちゅに……あどるふぉのせいじゃ、ないれしゅ……」
わたしの感染症対策が甘かったせいだ。……薬魔女なのに……。二重の意味で恥ずかしくて、頬が熱を持つ。
「そちらの女性は……いや、御仁か」
『御仁』は騎士言葉で、男性を指して使われることが多い。
「わたちの、あにでし、れしゅ」
初対面でカミラを男性だと気づくのは、魔女以外ではとても珍しい。
「ああ、初めまして。魔女のカミラよ」
「俺は……名乗るものを持っていないが、ルーシアに『アドルフォ』と名前をもらった居候だ」
「あなたのことは、あらかたルーシアから聞いているわ」
好奇心を隠しもせずに、カミラが不躾に視線を上から下へと動かす。
「……初対面で性別を当てられるのは久しぶりなの。何でわかったのかしら?」
「骨格と体重移動だな。そういう知識は失っていないらしい」
「なるほどねぇ。ねえ、ルーチャ。この人の身元割り出すの、そう難しくないんじゃない?」
カミラが悪戯っぽく笑った。
「行方不明の美貌の騎士さまで探せば、きっと一発よ♡」
なるほど! さすがカミラ! あっ、でも……。
「カミラ殿。俺はおそらく訳アリだ。身元の洗い出しは、記憶が戻るまで勘弁してもらえないだろうか?」
呪いを受けたままひとりで旅をしている人が、訳アリでない筈がない。
「ふうん……。でも魔女集会で情報を求めるくらいなら平気じゃない? 魔女はみんな口が硬いのよ?」
「魔女集会……。実在するのか……」
アドルフォが興味深そうに言った。魔女集会は、人間には都市伝説レベルの話なんだろうな。でも、記憶がないのに、知識が失われていないというのはどういう状態なのだろう?
魔女集会は春夏秋冬、季節ごとの風が最初に吹いた日に開催される。集会では情報交換や研究の発表が行われる。魔女の情報網の編み目は、とびきり細かい……らしい。
魔女の弟子にとって、魔女集会はひとつの大きな目標だ。新米魔女は箒に乗れるようになると、師匠に連れられて魔女集会へと参加する。
明日からの特訓、頑張ろう! 新年の……は無理でも春先の集会までには、箒に乗れるようになりたい。
為せば成る……気がする!
幼女化していると、人生やり直してる気持ちになる。そしてヤレる気がしてしまう。
「今の状況を聞いてもいいか?」
「かみらに、あどるふぉの、のりょい(呪い)を、みてもらってまちた」
「記憶に関しては私の専門分野に近いわ。私は占い魔女だから」
「そうか。では、よろしくお頼み申し上げる」
背筋を伸ばして、膝にこぶしを置き頭を下げる。この人の、こういう型に嵌った所作をとても美しいと感じる。
アドルフォが襟の詰まった軍服や、繊細な刺繍の施された騎士服を着たら、さぞかし……さぞかし眼福だろうなぁ。大好きなロマンス小説の『暁の騎士と囚われ姫』のワンシーンが目に浮かぶ。挿絵のリーンハルト様より……イイかもっっ!
まあ……今はとりあえずシャツくらい羽織って欲しい。いつまで半裸のままでいるのか。
そっとシャツを差し出してみた。
「やあ、えらいな。ありがとう」
丸っ切りの幼女扱いだ。慈愛の笑みを浮かべて頭を撫でるのヤメテ。
「もう! なかみは、おとならって、いってるにょに!」
カミラの前で甘やかされると、照れ臭さが三割増しだ。ぺちりとアドルフォの手を叩いたら、ニヤリと笑われた。
ああっ! ワザとだ! もうヤダこの人。そのちょっとクワセモノっぽい笑い方。すごくイイ。もう一回お願いします!
「ふうーん?」
真っ赤になって頬を膨らませたわたしを見て、カミラが呆れた声で言った。
「ずいぶん仲良しなのね。真夜中に二人で、何してたのかしら?」
ちょっと、嫁入り前の魔女に何てこと言うの!
ちなみに魔女の嫁入り率は、限りなくゼロに近い。魔女は魔女として生きて、恋をしても、子供を産む時も魔女のままだ。
「それで……どうするの? このままやっちゃう?」
「にゃ、にゃにを⁉︎」
「塔のセキュリティ解除に決まってるでしょ? ……何だと思ったの?」
「にゃっ! にゃんれすかね……」
カミラの形の良い唇が弧を描き、ふふふと意味深に笑った。
左を見れば妖艶な美女、正面にはシャツの前をはだけた美貌の騎士(仮)様。こっちはちんちくりんの幼女だっていうのに! なぜ二人共がそんなにも楽しそうに、わたしをイジるのか。
「しゃぽーと(サポート)しましゅ! やっちゃいまちょう! わたちもほんきれ、おどりましゅ!」
火照った顔を隠すために、わざと元気一杯に言ってみた。本気を出すのが魔女の技ではなく、踊りだという事実が切ない。
寒いけれど窓を開け放ってベランダへと出る。初雪の雲はうっすらと木々を白く染めて通り過ぎ、森は顔を出した月の青い光りに満ちている。
ああ、なんてお誂え向きの夜だろう! 魔女が踊るに相応しい。
三日月の形のジプシータンバリンをシャンと鳴らす。人里離れた森の奥、動物たちも深い眠りの中だ。誰に遠慮をする必要もない。
スカートの裾を翻して、膝から下をポンと後ろに跳ね上げる。シャンとタンバリンを鳴らす。
カミラがジプシーの旅の唄を口ずさみながら、術を編みはじめる。突然始まった真夜中の宴に、アドルフォがポカンと口を開けている。
「アドルフォは大人しくしててね。危ないから」
カミラがアドルフォを揶揄うように制する。
カミラのハスキーな甘い唄声、青い月。わたしのスイッチは、いとも簡単に切り替わった。
ルーシアが引きこもりで落ちこぼれなのは、実は理由があるのです。
次話から少しずつ、明らかになったり、ならなかったりします笑