第二十五話 お姉ちゃんが出来た日の話です
昨夜は寝落ちしてしまいました。更新出来なくて申し訳ありません。短い『閑話』や『外伝』としてお読み頂けると幸いです。
カミラは修行をはじめるのも独り立ちしたのも、とても早かったらしい。専門である占いに関しては、十二の歳には師匠から『一人前』のお墨付きを貰い、その年の春にはジプシーの一座と旅立ってしまった。わたしが魔女の技を使う時に踊るのは、カミラに教えてもらったジプシーダンスだ。
そのあとは、時々魔女の集会に顔を出すついでに塔に帰って来ては、師匠に修行をつけてもらい、しばらくするとまた旅立つという生活を送っていた。
師匠が亡くなり塔に立ち寄る頻度が上がったのは、ひとりで塔に取り残されてしまった、わたしを慮ってくれているのかも知れない。
わたしとカミルは、歳の離れた兄妹のようにして育った。わたしが六歳の冬までは、確かにカミラは『兄』だった。
けれど、春風に乗ってふわりとわたしの部屋のベランダに降り立ったカミラは、どこからどう見ても綺麗で可愛い女性だった。
いつも無造作に頸でひとつに纏められていた黒髪は緩やかにカールしているし、若草色のワンピースの裾を繊細なレースの付いたペチコートが膨らませている。まるで森に訪れたばかりの、春の妖精のようだった。
秋の終わりにわたしのベランダを飛び立った時は、普通に箒を跨いで乗っていたのに、まるでどこぞのお嬢さまのように横座りが板に付いている。
「ルーシア、久しぶりね。お誕生日おめでとう!」
いつも通りの挨拶で抱きしめられても、わたしはぽかんと口を開けて立ち尽くしてしまった。
どうやら師匠が、わたしが姉を欲しがっているという話を魔女集会でしたらしい。そしてワルノリした魔女たちは集会をそっち退けで、寄ってたかってカミルを女の子に仕立て上げた。
魔女は訳ありな上に癖の強い女性が多い。そのど真ん中に『わずかに幼さの残る、線の細い美少年を女装させる』などというミッションを投げ込んだら、盛り上がらない訳がない。
カミラとしては、わたしを揶揄うネタを仕込むくらいの気楽さではじめたことなのに、出来ばえが良すぎた。綺麗なものや可愛いものが大好きなカミラは、自分のその姿をいたく気に入ってしまったのだ。
そして「どうせ魔女と呼ばれるんだから、魔女の仕事をする時はコレでいく」という宣言の下、後に『放浪の赤い宝石』と呼ばれる魔女が誕生したのだ。赤い宝石は、カミラの瞳の色を指している。
ちなみに、わたしの誕生日プレゼントとしてやって来たカミラお姉さんは、一緒に焼き菓子を作ってくれたり、わたしを素敵なレディに変身させてくれる……なんてことは全然なかった。
わたしが練習で作った水薬の色を見てお腹を抱えて笑ったり、悪戯をして師匠に叱られる時にわたしを道連れにしたりと、まるっきりの通常運転だった。
『見かけだけは極上のお姉さんなのに』と、六歳のわたしはこの時に、理想と現実の隔たりについて学んだ。
それでも、ジプシーの舞いの新しい振り付けを教えてくれて、箒の後ろに乗せてくれて花盛りの春の丘へと連れて行ってくれるカミラは、わたしの大切な家族であり、頼りになる兄弟子なのだ。
カミラはお風呂に入ると人が変わるので、いくら気に入ってはいても、ずっと赤い宝石でいるのは疲れるようだ。
わたしはどちらのカミラも好きだし、性格は変わらないから特に気にならないけれど、シオンは最初は驚いた様子だった。
「るーしあは、ちいさい子になるし、かみらおねえさんは、かみるおにいさんになるんだね。まじょはみんなそうなの?」
スケッチブックにクレヨンで『カミラとカミル』、『ルーシアとルーチャ』の絵を書いてくれた。そして少し不服そうに、自分の姿をその隣に書く。
「ぼくも、まじょになれば、へんしんできるかな?」
君もね……夜になると、美貌の騎士さまに変身しているんだよ。
考えてみれば、今この塔にいる三人は全員変身するのか。何だかどんどん混沌と化している気がする。大丈夫だろうか?
つい先日まではたったひとりで、はぐれ狼に親近感を感じるくらい静かに暮らしていた筈なのに。
カミラが塔に帰って来た日は、朝から雪虫が飛んでいた。日が暮れると案の定雪になった。今年最初の雪は遠く聞こえるはぐれ狼の遠吠えを、合図としたように降りはじめた。雪が降ってしまえば毎年、森は春まで眠りにつく。
けれど今年の冬は、いつもとは随分と違ったものになりそうだ。
次話 何故か全方位で愛でられてます
お話はカミラが帰って来た日の晩、ルーシアが幼女化したまま眠りについた後へと戻ります。
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