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第二十四話 魔女についてお話しします

 そもそも、魔女とは何者なのか。


 魔女は女系の血に潜む、古代種族の因子で生まれる。人間との混血が進んで、とうの昔に純血は滅びてしまっているが、ほぼ女性限定でその因子が強く出ることがある。それが魔女だ。


 つまり、一種の『先祖返り』である。


 人間であって、人間ではない……。この世の中で魔女はそう位置づけられている。

 これは大陸全土の共通認識であり、魔女には国境も身分制度も意味がない。この大陸で法律を生業(なりわい)とする者たちは、魔女のことを『罪なき者』と呼ぶ。


 魔女の呪いや作った薬で引き起こされることは、依頼した人間の罪となる。刃物を鍛える職人と同じだ。

 刃物を(あや)めるために使うも、守るために使うも、持つ人に委ねられる。


 もちろん、魔女は人間だ。東方諸島の山岳地帯に黒髪黒目の人が多いのと同じで、古代種族の特徴が強く(あらわ)れている人というだけだ。


 だがその能力は、常人の域を遥かに超えている。


 魔女は『魔力』と呼ばれるエネルギーを、自ら作り出すことが出来る。魔力は、魔女が体外に放出することで、無機物・有機物問わずに作用する。

 薬魔女は材料に働きかけ、占い魔女は因果律を読み取り、呪い魔女は対象物を罠にはめる。


 魔力は、太古の大陸で古代種族が生き抜くために発達したとされている。だから力の弱い女性にこそ強く宿るのだろう。今の世でも、追い詰められた女性ほど、強い魔力を発現する。

 魔女のための法律が出来るまでは、魔女の技を欲した権力者に、親が子供を売ることも日常茶飯事だった。


 魔女の歴史は、差別と迫害の歴史なのだ。


 苛烈な魔女狩りが行われた時代すらある。

 当時の大陸を(すべ)ていた覇王が、魔女を邪悪なものと判断した。追われて狩られ、捕まれば殺された。家族が庇えば、その家族ごと連行されたという。

 それが、今から五百年くらい前の話だ。

 この不遇の時代を乗り越え、魔女の技を途切れさせなかったのは、先人たちの魔女としての誇り(プライド)に他ならない。


 まあそんな経緯(いきさつ)があって、魔女は正体や出自を秘密にしたり隠れて暮らすようになった。そうして発達したのが『魔女の塔』だ。


 一方で魔女の能力を利用することを、諦め切れなかった人間たちは魔女を『罪なき者』とする法を作った。その背景には、恐らく権力者との取り引きがあったのだろう。だから魔女たちは『黒き魔女』を責めることはしない。


 本来は『白き魔女』も『黒き魔女』もいないのだ。魔女の能力を使うのは人間なのだから。


 けれど魔女には『自分の技のもたらす結果に無関心でいてはならない』という(おきて)がある。そうでなくては、魔女はまた、狩られる存在になってしまう。呪い魔女は依頼されれば人を呪いの罠にはめることもあるが、その解除方法も用意してあるのだ。


 魔女が大いなる『矛盾』と『危険』を孕んだ存在であることは、今も昔も変わらない。

 それでも魔女は自分の技を磨き、研究を続ける。そういう生き方を選んだ者を『魔女』と呼ぶのだから。



 ちなみに、カミラのように男性でも『魔女』と呼ばれる。なぜならほとんど前例がないからだ。どうしても性別を問われる場合は『男性魔女』。あまり気の利いた呼び名ではないと思う。

 貴族の爵位で『男爵位』を持つ女性のことを、『女男爵』と呼んだりするが、それに近いものを感じる。


 男性で古代種の因子を持つ者も皆無ではない。だが、魔女界隈の歴史を紐解いてみてもその数は片手で事足りるらしい。その中で魔女となることを選んだ男性は、カミラで三人目だという。


 過去の二人の男性魔女が、カミラのように女装していたかというと、そんなことは全然ない。


「男の格好をしていると、魔女としての仕事をする度に説明が面倒なのよ」


 世間的には『魔女は女性のみ』という知識が知れ渡っているので、それも嘘ではないのだろう。でもわたしは知っている。()()はあの人の、趣味のようなものだ。


 カミラが『カミラ』になった日のことは、わたしは今でもよく覚えている。カミラの男性名は『カミル』という。



 あれは森で暮らしはじめて三年目、わたしの六歳の誕生日での出来事だ。


 その頃のわたしは、姉妹の妹が主人公の物語にハマっていて、猛烈に姉という存在に憧れていた。古いドレスをおしゃれにリフォームしてくれたり、可愛い髪留めを一緒に作ったり、美味しい焼き菓子のレシピを教えてくれるのだ。

 そうして素敵なレディに変身した主人公は、貴族の息子に見染められるという玉の輿のシンデレラストーリーだ。


 今考えると、他力本願にも程があるだろうとツッコミを入れたくなるが、六歳のわたしは『お姉さんさえいれば……!』と綺麗な挿絵を見ては、うっとりとため息をついていた。


 そんなわたしに師匠は『ヒーッヒッヒッヒ! ルーシアの誕生日には、とびきり美味しそうなお姉さんを(さら)って来てやろうかねぇ』などと、絵本に出て来る悪役魔女の真似をして揶揄(からか)って楽しんでいた。


 カミラは当時、塔で一緒に暮らしたり放浪したりが半々くらいだったけれど、わたしの誕生日には帰って来てくれる約束だった。


 誕生日の朝、カミラはわたしのお姉さんになって、颯爽と空から舞い降りて来たのだ。








次話 お姉ちゃんが出来ました


 カミルがカミラになった日のお話です。まだ書いてません笑 明日の22:00目標に頑張ります。このギリギリ感、癖になるんですよね……。応援して下さいね!←半ギレ


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