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第二十二話 兄弟子が帰って来ました

「うううっ! 寒い寒い! ルーシア、早く入れて頂戴! 冬は箒なんか乗るもんじゃないわねぇ。凍えちゃったわ!」


 ベランダ窓の桟をコンコンと叩き、カミラが唇を紫色にしている。


「カミラ! お帰りなさい!」


 わたしはベッドから抜け出して、カミラの首に抱きついた。頬が冷たくて気持ちいい。


「ただいま! 元気……じゃないみたいね。具合悪いの?」


「もうだいぶいいの。熱も下がったし、そろそろ起きようと思ってたの!」


 カミラは『顔色が良くないわね』と言いながらわたしの額に手をあてた。そのあと、視線を下に移して、長い睫毛が縁取る(はしばみ)色の瞳をパチパチと見開いた。


「あらあら! どうしたのこの可愛い子。いつ産んだの?」


 わたしの背中に隠れていたシオンが、びくりと身を震わせて更に引っ込む。


「カミラったら……わたし、単体生殖は出来ない……。森で迷っていたから引き取ったの」


 箱(塔)入り娘に何ということを言うのか。むくれたふりをして言い返す。久しぶりのやり取りが心地いい。


「シオン、この人はカミラ。お姉さんの家族みたいな人。ご挨拶してね」


「……こんにちは。よ、よろしくおねがい、します……」


 もじもじと、わたしの夜着の裾を掴んではにかむ様子に頬が緩む。


「はい、よく出来ました……」


「やだ可愛い! ちょっとルーシア、こんなの聞いてないわ。なんで連絡くれないのよ!」


 食い気味で高テンションのカミラに驚いたのか、シオンがわたしの背中にしがみ付いた。


「連絡したくても、カミラはいつもどこにいるかわからないじゃない」


 それにわたしは、伝書用のカラスもフクロウも使えない。


「カミラ、シオンを驚かさないで。あまり人に慣れていないの。嫌われちゃうよ?」


「そんな、野生動物みたいな……。訳ありなの?」


「うん。かなり……」


「あら……。なんだか楽しい休暇になる予感!」


 うふふと艶っぽく微笑むカミラに、とりあえず今がシオンで良かったと胸を撫で下ろす。アドルフォだったら今頃は、違う意味で大騒ぎになっていただろう。


「お、おねえさん、なんでベランダからきたの?」


「カミラよ。私は魔女なの。箒で空を飛んで来たから、ベランダから入ったのよ!」


「まじょさま、しってる! えほんでみた!」


 わたしは魔女の出てくる絵本をたくさん持っている。幼い頃から、魔女の出てくるお話が大好きだった。世間一般に出回っている大釜をかき回していて子供を食べるような本も多いが、魔女界隈には子供魔女のための絵本もあるのだ。

 シオンには、悪役ではない魔女の本を選んで読んであげている。だってシオンが魔女を怖いと思ったら嫌だもの。天使に嫌われたい人類(魔女含む)はいない。


「かみらおねえさんは、まほうがつかえるの?」


「うふふ。魔法じゃなくて魔術ね。多少は使えるけど、私の専門は占いなのよ!」


「うらない……。まぁるいたま、のぞくやつ?」


「あら、よく知ってるのね。でも私はカードを使うの。占って欲しい?」


 シオンが俯いて、頭をフルフルと振った。


「こわいから、いい」


 思わずカミラと顔を見合わせてしまう。シオンがこんなにもはっきりと拒絶するのは初めてかも知れない。


「何が怖いの? 楽しいことだけ教えてあげるわよ?」


「ぼく、いまがたのしいから、いいの」


 もう一度頭を振り、顔を上げたシオンは、哀しみを隠す手段(すべ)を知り尽くしているような、大人びた顔をしていた。わたしが言葉に詰まっていると、ふわりと表情を緩めて、天使の笑顔を浮かべる。


「それより、かみらおねえさん。ぼくもほうきにのってみたい! れんしゅうすれば、できるようになる?」


「うーん。でもシオンが箒に乗れるようになると、ルーシアが泣いちゃうかも知れないわね!」


「なんで?」


「だってルーシアは……」


「し、シオン! お客さまが来たからお茶にしましょうね。先に行って、カップの用意をして欲しいの。出来る?」


 カミラの言葉を遮るように割って入る。わたしが魔女だということは、まだシオンには話していない。だって一応保護者を名乗っているのに、自分の未熟さを説明するなんて、情けないじゃない!


「うん……ぼく、おちゃのようい、できるよ」


 わたしの慌てっぷりに首を傾げながらも、シオンがまるで重大な任務を言い付かったみたいに、神妙にうなずいた。


「えらいね。お兄さんみたい!」


「うんぼく、いもうとができたから、ちゃんとするの!」


 妹……。それはもしや幼女化した、わたしのことだろうか。


「えっ、女の子もいるの⁉︎」


 カミラが期待に満ちた顔で聞いて来る。この人は綺麗なものや可愛いものに目がないのだ。もちろんイケメンにも。


 どこから話したら良いものかと考えながら、それでもわたしはこの時期にカミラが訪れてくれたことに感謝した。未だかつて、この兄弟子の訪れがこんなにも嬉しかったことはない。

 カミラは占い魔女だけれど、経験豊富で腕の良い魔女だ。きっとシオンとわたしの力になってくれる。


 わたしは急いで寝巻きを着替えて、早口でシオンとアドルフォの呪いについて説明しながら階段を下りた。








ストックあと二話です。その後は不定期投稿となります。年末のデスマーチが思いんやで_(┐「ε:)_


次話 兄弟子に説教されました。


カミラは女装が趣味なだけで、恋愛対象は女性です。次話から、少し本作においての魔女についてお話ししますね。



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