人事部長は、熱い男だ
突然の僕の申し出に、2人は驚き、困惑していた。その後、何とか撤回するように説得しようとしてくれていた。それでも、僕の意志が固くまた、2人の立場を思っての事に気付いた様子で不満そうにはしていたが、渋々納得してくれた。
そして、僕は席を立ち、
「18年間、お世話になりました。」
と、専務に頭を下げ、部屋からでていった。そして、自分の職場に戻り後片付けでもしようと考えてエレベーターに乗り込もうとしたら、
「ちょっと待ってくれ。」
と、恐らく追いかけて来たのだろう、信人がやって来て一緒に乗り込む。
「お前、本当に良かったのか?」
信人が、尋ねてくる。
「良くないですよ。けど、この件で専務の足を引っ張りたくないですし。次期社長は、専務が適任だと思ってるから、社長に睨まれて欲しくないんですよね。」
「義人や俺は、お前の為なら肩書きなんていらねぇんだよ。だから、辞めるなんて言わないで、迷惑とか思わないで、残ってくれよ。」
「だからですよ。そう言ってくれるのは嬉しいですよ。けど、肩書きなくなって会社にもいられなくなったら、2人の家族が路頭に迷うかもしれない。その点、僕は身寄りも、家で待つ家族もいない。だから、辞めたって困らないんです。そもそも、問題起こして辞めなかったら示しつかないでしょ。」
そこまで話して、目的の階に到着したのかエレベーターのドアが開いた。僕は、そそくさと降りようとしたが、信人に腕を掴まれ横にある非常階段へと連れ込まれた。
「確かにお前のやったことは許され無いことだ。辞めるのは構わない。もう引き止めない。けど、忘れるなよ。俺たちはいつだってお前の味方なんだ。お前が刑務所に入ろうと、生活に困ろうと何があっても助けるさ。お前だって俺達と同じ気持ちだろ?だからいつでも頼ってくれよ。1人で解決しようとするなよ。」
そう信人は言って、僕から去っていった。