和藤潤の日記 〜黄金の鳥〜
私立探偵の保津捨碌と、彼の事務所に下宿する医学生、和藤潤の元には、今日も依頼者が訪れる。
こんにちは、僕は和藤潤と言います。訳あって今、下町の探偵事務所に転がり込んでいます。というのもですね、私、某国公立大学の医学生なんです。自慢じゃないんですよ、本当に。別に偏差値が七十超えてることを鼻にかけてる訳じゃないんです。本当に。
それで、八月まで暮らしていたアパートを追い出されてしまって、行くあてがなかったとき、あの人に出会ったのです。未知との邂逅、といってもいいかもしれません。
「おいこらワトソン、酒ぇ買ってきてくれ」
「先生、僕まだ十九なんですけど?」
「大丈夫だよ。あそこの親父なら、捨碌のお使いです、で通るからよ」
この人が、保津捨碌、本名は小納戸王子。王子と書いてアーサーと読む。本人曰く、クソ程気に入らねぇそうですから、わざわざ捨碌とかいう、格好つけた名前を名乗っているのです。ただ、私にとっては一種、家庭教師のような存在ですから、普段は先生と呼んでいます。探偵業の傍ら、作家活動にも勤しんでおられる作家先生でもあるので、あながち間違いともいえません。
アパートを追い出されてすぐに、私は道の途中に落ちていた先生を拾いました。……何だか聞こえが悪いですね、でも事実として生き倒れていましたから。そうして先生を介抱して、探偵事務所に連れて行ったところから、先生との縁ができた訳です。
まぁ、道の途中でぶっ倒れる位ですからね、そりゃ栄養状態は頗るよろしくない。なんせ、百八十センチを優に越す身長がありながら、体重は五十キロというのですから、とにかく不健康極まりないのです。今までどうやって生きていたのかと問えば、泣き出して、暴れ出すので、迂闊に聞くこともできやしません。恋人に捨てられたのでしょうか。しかし、その恋人は賢明です。捨てるべき人です。何せ、事務所にはカップヌードルが山積みです。
さて、こんなことを考えている内に、僕は買い物を済ませて、事務所に帰ってきましたが、お客様が来ているようですね。意外に思われるでしょう、先生の元には、一週間の内に数回、必ず人が来ます。しかし多くは、猫探しの依頼なんですが、今回はどうも違うようです。こんな雨の中、びしょ濡れになってやって来る程、切迫しているようです。
「いや、頼むぜ捨碌先生。これは警察の管轄じゃあないんだよ」
「いや、譲次さんの頼みでも、俺はやらない」
来訪者は、地元の警察署の首藤警部でした。彼は、数年前に起きた、凄惨な連続通り魔事件の犯人の不審死の謎を、先生と一緒に解決して以来、仕事でなくても交流があるのですが、やはりこの雰囲気は、大変な仕事のようです。……もっとも、先生に受ける気はなさそうですがね。
「警部さん、どうしたんです?」
「あぁ、君は確か、新人探偵だね」
いや、違いますがね。この前、しっかりと挨拶したのですが、忘れられているようです。
「困っちゃってさぁ。実は、怪盗からの予告状が……。あ、捜査機密か、こりゃうっかり」
訂正です。忘れているのは、僕のことだけではありませんでした。余程その予告状のことで、頭がいっぱいなのでしょう。
しかし、先生も何故受けないのでしょう。探偵なら、怪盗からの挑戦状程、燃え上がるものもないとは思うのですが。
「金にならない、やらない」
……そうでした。この人は基本的に、事件の内容や難解さではなく、報酬如何で動く人でした。つまり、酒代に釣り合う仕事しか受けないのです。
さて、警部は、それはもう大きな身体から、大きなため息を吐きました。そうして、懐から、名残り惜しそうに封筒を取り出すと、先生は引ったくるようにそれを受取り、開口一番、少ない。と言い放ちました。
「嘘だろおい……、小遣い制なんだぞ俺は……」
警察としては、まだ起こっていない犯罪には手出しはできない、かといって、放ってもおけない。板挟みになった結果として、先生を頼むという苦渋の決断をせざるを得なかった警部の、何と可愛そうなことか。
追加の二万円を、競馬新聞に挟み込んで、先生は満足そうな顔をしまして、一方の警部は、滅茶苦茶に悲しそうな顔をして、涙目で、恐らくハズレ券に変わるであろうお札を眺めていました。
「はぇ〜、でけぇ屋敷ぃ!!」
先生は、その屋敷の主人から注がれる、訝るような視線をものともしません。図太さが、彼の取り柄です。しかし僕も、この屋敷を見た感想は、でかい、この一言に尽きます。大雨の中、靄が立ち上がるように出現した屋敷は、現実離れした大きさです。
「あぁ、こちらが探偵の保津捨碌先生。僕は助手の和藤潤といいます」
思い出したように僕が紹介すると、主人は曖昧に会釈した。
「警部さんが言ってたからお願いしちゃったけど、ホントに大丈夫なの? この人」
やる時はやると信じています、しかし、その本気を見たことは、僕にはありません。だから、屋敷の主人、礼門善吉氏に対しては、こちらからも曖昧に頷くしかありませんでした。
「まぁ、いいけど。それよりほら、早くしてよ! 予告の時間は今日の夜零時なんだから!!」
先生は、急かされてもどこ吹く風といった様子。自然な動作で煙草を取り出して、火をつけようとしたところで、礼門氏に止められました。
「家は禁煙なんだ!!」
おぉ、先生、そんなに露骨に舌打ちするんですか? マジでこれ、怒られますよ。この際、先生はどうでもいいのですが、先生を推薦した警部が、あまりにも可愛そうです。
「先生、首藤警部のためにも、頑張ってくださいよ」
「え、誰だっけそれ」
屋敷の中は、それはもう見事な造りです。大正時代に建てられた、山の上の豪華な御屋敷。調度類は、黄金に輝くものがたくさんあります。先生、それはメッキじゃないと思いますよ。
「狙われてるのは、この、マ……、えぇと、『カパック王の鳥』と呼ばれる、純金の鳥の模型です」
濁したのは正解です。インカのクスコ王国(これも、場合によってはアウトになりかねない)、その初代国王の名前は、とても人口に入ってよいものではないですからね。
「あぁ、おめこ王のね」
おいおい、と僕は心の中でツッコミを一つ。先生は、氏がわざわざフィルターをかけて濁したのに、何故それを取っ払ってしまったのですか。礼門氏が、汚物を見るような目で、先生を見ていることには、何も気にしていないようですが、先生の後ろにいる僕が、どれだけ居心地が悪いか、ちゃんと考えて発言してください。
「それで、防犯設備は?」
先生が、真面目くさった表情を作って、礼門氏に話しかけました。そこはやはりプロだ、と思った礼門氏。きっぱりと、はきはきと、そして自慢げに先生に喋りかけます。
「はい、警報装置、防犯カメラ、圧力センサー。黄金の鳥は、私のコレクションの中でも、特に価値あるものですから、全て揃っています。万が一、盗み出せたとしても、金属探知のセンサーが入り口にありますから。自動的に警察に通報されます」
「じゃあ俺も手出しできねぇじゃん、チッ」
それはいけません、本当にいけませんよ、先生。見てください、依頼者の礼門氏の顔を。汚物から何ランクもダウンしてますよ、多分××××とか、××××とか、とにかく触れたくないものとして見てますよ。そしてその内のいくらかは、流れ弾として、僕に被弾するんです。帰りたいとかいうのは本当に止めてください、一番帰りたいのは、礼門氏です。だけどここが彼の自宅だから、逃げ場所がないじゃないですか!!
そんなことをしている内に、夜が更けまして……。九時頃から、礼門氏も僕も、ソワソワとし始めました。当たり前ですよ、一生の内、怪盗と対決するなんてこと、そうそうありませんからね。そして、その機に際して、先生を頼らざるを得なくなった礼門氏の、何と可愛そうなことか。この文章を見返せば分かると思いますが、僕は、そこそこ長いつき合いとなった先生を、可愛そうだなんて思ったことはありませんが、先生の周りの人には、常に憐れみの感情を抱いてきました。となると、一番近くにいる僕や、大家の鳩ノ巣さんが、一番可愛そうということになりますが、事実そうですよ。
そんな矢先、突然建物の扉が開いて、ゾロゾロと人が入ってきました。どうしたんでしょう、もう夜も遅い時間だというのに。
「いや、新しく入った警備会社の人を、さっき呼び寄せたんだ。どの道呼ぶつもりだったんだが、……流石に不安になってきてね」
その対策は、しっかりと効果を発揮しましたよ。合計三人の屈強な男たち、JM警備保障から派遣された、寡黙な森、饒舌な六角、そしてどこか抜けたような顔の辺田。彼らの出番は、予告の時間の二時間前、十時頃に回ってきました。
けたたましい非常ベルの音が、屋敷中に響き渡ります。間違いありません、黄金の鳥のある部屋です。卑怯なことに、予告時間を無視して、怪盗が現れたのでしょうか。素早く移動する警備員たちを先立てて、僕と礼門氏も向かいます。
「あれ、そういえば探偵は?」
首をひねる礼門氏に、何だか僕は嫌な予感がしてきました。
その予感は、これ以上ない程悪い形で的中しました。警備員たちに組み押さえられた、長身の人物。……先生です。
「何!? 何をしていたんですか!?」
何となく分かる、先生は、盗むとまではいかないだろうが、しかし、黄金の鳥に見惚れていたのでしょう。そのままケースによりかかり、センサーが発動した。ということでしょうか。
「こんな、こんな一口サイズの鳥なんて、なくしたって大して旨くもないだろ!!」
「馬鹿な!! これは歴史的価値に裏打ちされたものなのだ、お前なんぞに分かるか、出ていけ!!」
という訳で、僕は先生と一緒に、屋敷から追い出されてしまいました。
「これは、首藤警部のお小遣いは結局、無駄になっちゃいましたね」
先生は、僕の呟きに、ムッとしたような顔をしました。
「いや、俺の活躍はこれからよ」
そう言って、傘を持つのとは逆の手の指を舐めた先生は、突然顔を真っ赤にして、唾を路傍に吐き捨てたりしました。全く訳が分かりません。しかし一体、どうやって、犯人を捕まえるつもりなんでしょう……。
「あ、橋が……」
折からの大雨で、礼門邸へと向かう橋は、川の中に沈んでいました。山を取り囲むように川が流れていますから、それらは氾濫して、三つある橋はどれも沈んでいるはず、帰ることはできないでしょう。
「どうするんです、戻りますか?」
戻ったところで、礼門氏は入れてはくれないでしょう。心配する僕に、先生は平調で言います。
「警備会社の車があるだろ、あそこで休むぜ」
そういえば、屋敷の側に、黒塗りのバンが止まっていた。黒い車体に、JM警備の文字。しかし、聞き慣れない会社です。ただし、僕が知っている警備会社といったら、某霊長類最強がCMに出演している会社しかないのですがね。
「お前お得意のネットで調べて見れば?」
僕はスマホを取り出して、JM警備保障の文字を入れてみた。すると……。
「あれ、出てこない……」
車体に印字された電話番号にも繋がらない、これはどういうことか……。
「車が来てから分かった、だから俺はわざわざ追い出された。お分かり?」
全く分からない、分からないが、先生は何やら、底なしの自信があるようで……。自然な動作で大きな石を拾ってくると、バンの窓ガラスに振り下ろしました!!
唖然とする僕を尻目に、先生は、車上荒らしの手口で鍵を開けて、悠々と侵入。そのまま運転席に座ると、背もたれをいっぱいに倒して、足を組みました。
「まぁ、待とうや。十二時までまだ、一時間はあるぞ」
ここまでくれば、もうヤケクソです。毒を食らわば何とやら、です。……客観的に見ればこの感覚、おかしいですよね……?
さて、十二時になろうかというタイミングで、先生は席を立ちました。僕も、慌ててその後を追います。応対する礼門氏は、定刻が近づいてきているということもあり、苛立ちと焦りを隠せない様子でした。
「何だ、またお前か……。警備員がいるから、お前はいらん、帰れ!」
「そんなぁ、いいじゃないっすかぁ、外は雨降ってるんですよ? 川、氾濫してるんですよ?」
礼門氏は、大荒れの空を見て、それから先生を見て、小さく鼻を鳴らします。
「ふっ、それなら好都合じゃないか。犯人は入って来れないし、逃げることもできない。……お前さえ入れなければ、絶対安全だ!!」
「ふふっ、ふははっ。礼門氏、もう既に侵入……」
先生が、そう言いかけた時、再び警報が鳴り響きました。先生はここにいますし、ということは、犯人が現れたということです!!
先生の見立ては正しかった、この事実に感心して、僕が先生に羨望の眼差しを向けると、先生は、鼻息荒く、足を踏み鳴らして、怒気を含んだ声を上げていました。
「俺が、喋ってんのに、警報を鳴らす馬鹿が!! 死ねクソ!!」
先生は有能な探偵である、しかし同時に無茶苦茶である。先生と暮らす上で、念頭に置くべき鉄則を、僕はこの時発見しました。
部屋にいたのは、三人の警備員。他に人はいません。ということは、犯人はどこかに潜んでいるのでしょうか。しかも、その内の一人、森は、怪我をしたのでしょうか、蹲ってしまっています。
普通ならば、犯人に出し抜かれた警備員たちの図。そこにある、得も言われぬ違和感。その正体に、僕は気づきました。
「あっ、黄金の鳥!!」
森は、はっとしたような表情を浮かべて、自身の足元に落ちた、黄金の鳥を拾い上げようとしました。しかし、それより速く、礼門氏が飛び出してきて、掠め取っていきました。本来彼の持ち物ですから、掠め取るという言い方は正しくないとは思うのですが。
「おぉ、よかったぁ……。って汚いぃっ!!」
黄金の鳥が、ズルリと礼門氏の指から抜け落ち、落下していきます。それが床に衝突し、破壊される直前になって、先生の出した手が、鳥を救いました。
「礼門氏、何だと思います? このネバネバした液体」
「分からん、だが臭い」
「唾液です」
「ああああああぁぁぁぁ!!!!」
トイレに直行する、潔癖症の礼門氏。そりゃ、先生と反りが合わない訳です。素手で掴んでいる先生は、まぁ、客観的に見て汚いです。
「さて、礼門氏。このJM警備保障のサービスを受け始めたのは、いつからですか?」
「ここに越してきてから、だから二ヶ月前からだ。この屋敷は私が買い取って、改築をして、セキュリティをどうするか、と悩んでいたのだ。前は海外だったからな、そんな時に、会社の方が訪ねてきたのだ」
先生は、それを聞きながら、満足そうに頷かれます。
「つまり、計画はそこから始まっていたのです。この家のセキュリティは、全てJM警備保障が管理しているんですね?」
礼門氏は、無言で頷く。先生は、指を立てて、謎解きの続きを語ります。
「だとすれば、セキュリティはいくらでも甘くできる。事実、私がケースに触れた時、警報機は作動しなかった。余程派手に動かさない限りね」
先生の一人称が、いつの間にか私に変わっていますが、少し窮屈そうにも感じます。
「防犯カメラもそう。敢えて死角を作ることで、証拠を残させない。万が一、下手を打っても、自分たちで証拠は破棄できる」
警備員の三人は、無言で先生の話を聞いています。彼らが何も言わないということは、先生の推理は、当たっているということでしょうか。
「そして、最後の一手が、金属探知機だ。空港の探知機は、金歯などに反応しないよう、調整されてるんだ。だから、敢えて一口サイズの黄金の鳥をターゲットに選んで、口の中に入れて持ちされるよう、二ヶ月かけて準備した」
寡黙な森ならば、口を開けることがなくても、多少ならば怪しまれまい。そう考えた彼らの考えが、甘かったのでしょう。森は、半ベソをかきながら、先生に尋ねました。
「お前……、どんな細工したんだ……」
「デスソース」
「本当に馬鹿なんじゃねぇの!?」
彼の口内は、真っ赤に酷く腫れていました。口蓋から、舌の裏表まで、恐らく水も飲めないでしょう。可愛そうに。そして、可愛そうな人はもう一人。
「黄金の鳥……、デスソース、唾液つき…………」
今にも死にそうな顔で、壁に頭を打ちつける礼門氏。先生、犯人グループでさえ、ちょっとすまなそうにしているのに、貴方がケロッとしているのは、ちょっとおかしくないですか……?
「……それで、私が何をしようと、必ず礼門氏は警備員を呼び寄せるはず。この日なら、彼らの犯行だとはバレないですから」
何故なら、川が氾濫しているからです。彼らが秘密裏に犯行を行い、黄金の鳥が消えれば、まず彼らが疑われるでしょう。しかし、それを突破してしまえば、外部の犯行という線が強くなります。川で囲まれた、孤島のような山を虱潰しに探して、何も出てこなかったらば、犯人は煙のように消えたように見えるのです。
その場合、もちろん礼門氏はJM警備保障を糾弾するでしょうが、彼らは実態を持たぬ会社、その責任は、どこにも求めようがありません。
「そうだ、そんな計画が、デスソースなんかで……」
「いや、俺……、じゃねぇ、私の活躍故ですからね!?」
先生は、全員の白い目を、全く意に介しません。何というか、強強メンタルというのは、このことを言うんだなぁ、という感想しか出てきませんでした。
夜が明けて、雨が弱まって、川の水が引き、警察が来て、三人の男と先生は連れて行かれました。当然ながら、車上荒らしは窃盗罪ですし、窓ガラスの破壊は器物損壊罪ですから。しかし、先生は上手く証拠を隠したみたいで、証拠不十分で釈放されました。
「お前か、俺を警察に突き出したの」
「えぇ、違いますよ」
僕ですけどね。
「それにしても、JM警備保障か……。JM……」
考え込む先生の横顔がいつになく真剣そうで、僕は驚いた。こんな表情を立て続けに見せるなんて、雪でも降るのだろうか……。
しかし、雪よりもっと珍しいものに、僕たちは出くわしました。
「おぉっ、小納戸くん!! 久し振りだなぁ!!」
警察署から出てきた初老の男は、先生を本名で呼びました。普段ならそれを嫌う先生ですが、甘んじてそれを受け入れる辺り、彼を信用しているのでしょう。
「あぁ!! 慈栄の守屋氏!! 何してんのこんなところで」
「見たら分かるだろ、俺は警察署長だぞ!! それより、事件解決おめでとう!!」
その男、守屋慈栄は、先生の親友であるかのように、とても親しげに、先生と会話を交わしました。片手を上げて去っていく彼の後ろ姿を見ながら、僕は先生に聞いてみました。
「先生、あの人は先生のご友人ですか」
「いや、ライバルだな」
「一緒に事件を解決したんですか?」
先生は、朗らかな笑顔で、首を横に振った。
「いいや、敵。今回の事件の黒幕」
先生の言葉に驚いて、すぐに守屋の姿を探しましたが、彼はもう既に、署内に入ってしまっていました。
そういえば、JMは、守屋慈栄のイニシャルです。もし、先生の言うことが事実なら、とんでもないことですが……。
「守屋は、警察という立場を利用して、犯罪を裏で操ってる。あの、ナントカ警部が俺を頼ってきたのも、守屋の差し金だろ」
首藤警部……、僕は警部のこと、忘れませんよ……。
それにしても、先生はとんでもない人間を相手に戦っているのですね。にわかには信じがたいですが、彼の正体が表沙汰になる日は、来るのでしょうか。
「先生……?」
ふと気づくと、並走していたはずの先生がいません。まさか、消されたか……、と辺りを見回すと、溝に嵌った先生が、ぎゃおぎゃおと叫んでいました。
「くそっ、おいワトソン、助けろやぁ!!」
あぁ、リアル汚物になりましたね、先生。
改めて読み返すと、イカれた文章ですね。