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1.我慢の限界。








 今日はなにをしようか。

 そう思いながら、ボクはギルドへ向かった。

 するとちょうど良く、簡単な魔物退治の依頼が貼り出されている。この程度の相手であれば、戦闘系のスキルを持っていなくても、形にはなるはずだ。


 もっとも、得られる金銭は雀の涙程度、なのだけれど。



「それでも、食い繋ぐには必要なんだ……!」



 ボクはふっと息をついて。

 受付にその依頼書を持っていった。

 受理されて、正式にクエストに挑むこととなる。



「今日は何もなければいいけど……」




 そう思った。

 けれど、そういう時に限って目をつけられるのだ。







 魔物を規定数討伐した、その帰り道のこと。



「よお、待ってたぜ。ハクノ」

「お前は……!」



 街の入り口で、一人の冒険者がボクを待っていた。

 彼の名前はアグノン・クレオス。中堅冒険者であり、いつも決まってボクのことをイジメてくる相手だった。

 そんな奴が、どうしてボクを待ち受けているのか。

 その理由はすぐに分かった。



「いやぁ、今日の稼ぎが意外と少なくてよ。どうやらハクノ、珍しく金になりそうな仕事をしたみたいじゃねぇか」

「…………!」



 小銭稼ぎ――いわゆる、カツアゲだ。

 ボクの手元にある僅かな金銭を、奪い取る算段なのだろう。



「おっと、逃げようとしても無駄だぜ?」

「え……!?」



 とっさに周囲を確認すると、そこにあったのは――。



「今日はオレ様の仲間も、一緒だからなァ!」



 もう二人、別の冒険者の姿。

 筋骨隆々とした奴と、細身の下卑た表情をした奴。

 それでも分かったのは、二人ともボクよりも戦闘経験は豊富ということ。各々に武器を構えて、ジリジリと距離を詰めてきた。



「それじゃ、今日もストレス発散と行きますか」



 アグノンがそう言うと、一斉に二人の冒険者が襲い掛かってくる。

 なす術はない。一直線に振り下ろされた大柄な男の方の拳は、ボクの顔面を捉えた。数メイル後方に吹き飛ぶと、そこで待ち受けていたのは細身の冒険者。

 彼は小型のナイフを持ち、倒れ込んだこちらの腕に突き立てた。



「あぁ……っ!?」



 鋭い痛みが、左腕に広がる。

 のたうち回っていると、愉快そうに笑いながら細身の冒険者は蹴りを入れてきた。防ぐことはできない。口から胃液のようなものが出ても、攻撃は続く。


 そうしていると、首根っこを掴み持ち上げられた。

 目の前には大柄な男。



「あ、が――!?」



 そいつは何の言葉もなく、ボクを地面に叩きつけた。

 顔面から落ちて、鼻の骨が折れる。血がポタポタと落ちた。



「けけけ、二人ともオレ様の出番を残せっての!」



 そこへアグノンがやってくる。

 彼は倒れ込むボクの前にしゃがみ込み、乱暴に髪を掴み上げた。

 そして――。



「おらぁ!!」



 渾身の力で、無遠慮に、容赦なく。

 ボクの腫れ上がった顔を殴打するのだ。

 首を持っていかれるそんな感覚に加えて、脳が揺さぶられる。



「へへ、だいぶスッキリしたぜ」



 アグノンはそれで満足したのか、ボクの懐に手を入れた。

 そこには魔素の欠片が複数。ギルドで換金できる、冒険者の生活には必要不可欠なものだった。報酬が安価な分、それを売らなければ生活はできない。

 しかし、彼らはそんなことに興味はなかった。



 ボクの成果を奪い、立ち去ろうとする。



「ホントに、お前は――」



 こちらを見下して。



「都合の良い、金づるだよ」



 そう言った。



「…………」




 その時だった。

 ボクの中で、なにかがプツンと切れたのは。



「ま、て……」

「あん?」



 震える膝に喝を入れて、ゆっくりとだが立ち上がる。

 立ち去ろうとしていた三人は、何事かとこちらを振り返った。



「いい加減に、しろよ……?」




 この時、ボクの胸に湧き上がっていたのは怒り。

 これ以上ないほどの、憤怒だった。


 そして思い出すのは、ニールから言われたあの言葉。



「やられたら、やり返す」



 悔しい、悔しい悔しい悔しい――!



 歯を食いしばる。

 拳を握りしめた。



「あぁ、まだ殴られたいってか! いいぜ――」




 アグノンがこちらに駆けてくる。

 そして、思い切り拳を――。




「ああ、ああああああああああああああああああああああああ!!」




 叫んだ。

 ボクは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 すると自然に、自分の拳がアグノンの顎に吸い込まれて……。




「ぶはぁ!?」




 信じられない、一撃。

 それこそ『今までの鬱積が、すべて詰まったような一撃』だった。




 この瞬間から、ボクの人生は一変する。

 倒れるアグノンを見下ろしながら、ボクは大きく息を吐きだすのだった。



 


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