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二話

 木槌を振り下ろしている兎。

 それは傭兵団や騎士団などの武装集団に登録が義務付けられている標章の一つだ。

『キャロル探偵事務所』

 しかし玄関口に掲げられた看板が表している通り、ここは探偵事務所である。にもかかわらず標章の登録がされている理由は、傭兵団や騎士団の同類と言ってもいいほどに荒事に特化しているためだ。

 まぁ、教国から攫ってきた少女二人を連れた非常事態に頼る相手という時点で、真っ当な経営状況でないことは明らかだろう。

 王国を発つ前に手紙は出しておいたものの、まず間違いなく苦戦は避けられない。

 せめてもの救いは、疲れ切った馬を言い訳にヨルクを追いやれたことか。俺だけでも煙たがれるのに、追加でヨルクまで立っていてはまとまる話もまとまらない。

 問題は、そのヨルクが戻ってくる前に決着を付けられるかだ。

「あの……入らないんですか?」

 玄関前で立ち尽くす俺を見るに見かねたのか、エリノアが遠慮がちに問うてくる。

「大丈夫だ。決心は付いた」

「……?」

 看板まで掲げ客を歓迎する姿勢を見せる探偵事務所に、しかも事前に手紙を出しているのだ。普通に考えれば、決心など不要だろう。

 だが二人は知らない。

 この探偵事務所の主、『キャロル』が俺のことをどれほど嫌っているのか。

 一つ息を吸って、吐いて、それからノッカーを鳴らす。

 耳を澄ませば、戸の向こう側から小さな足音が聞こえてくるのが分かった。どこか忙しない足音は、来客を告げるノッカーの音に急いでいるのもあるだろうが、それ以上に歩幅の小ささを意味している。

 これで第一関門は突破。

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、ガチャリと音を立てて戸が開け放たれた。

「はいっ! キャロル探偵事務所で…………」

 満面の笑みで客を出迎えんとした相手の表情が凍りついた一瞬を見逃さず、俺は口を開く。

「久しぶりだな、アベル」

 相手は、少年だった。

 齢はまだ十五。小柄なヨルクより更に背が低く、ころころと変わるあどけない笑みを合わせれば、未だ初等科教育を受けているような年頃にも見えてしまう。

 そんな幼い外見と打って変わって、彼は類稀な危機察知能力を誇る。

 無理からぬことだ。

「ところで、言わずとも分かってるんだろうが、アリアンはいるか?」

 この少年、アベルがいるキャロル探偵事務所の主はアリアン・キャロル、かつて帝国のお膝元たる王帯鉄火場で大暴れしていた白兎なのだから。

 若いというより幼いと形容すべき年頃から傍若無人の才能を見せ始めていたアリアンのもとで手伝いをするアベルにとって、危機察知能力は何より優先して身に付けるべきもの。

 そして今、彼の眼前に立つのは他ならぬ俺、セオ・ブエンディアである。

 彼女を帝国から追い落とした張本人で、そもそもの相性が最悪な男。事の顛末を知ってなお、アリアンにとって俺などそんなものだろう。

「い、いますけど……。いますけど、やっぱりこういうのは事前の約束が大事っていいますか……!」

 アベルからすれば、俺など突然の迷惑客でしかない。

 無論、手紙を出しているのだから知られていた可能性もないではなかったが、ここまでは想定通りだ。

「大丈夫だ。君には知らされていないかもしれないが、アリアンにはもう何週間も前に手紙を出してある。未だに届いてないなんてことはないだろうし、否の返事もなかった。約束は取り付けてあるよ」

 そんなはずがないだろう、と心中の俺が笑う。

 手紙は丁寧に『必ず読むこと』とまで書いた封筒に入れて出したのだ。それがアリアンのもとに届けばどうなるか? 読まないどころか、即刻ゴミ箱行きが確定する。

 しかし俺の思惑など知る由もない純真無垢のアベルは、その大きな丸い目を白黒させ、顔も真っ青にしていた。……少し心苦しいが、こればかりは仕方ない。

「え、えっと……今呼んできますっ!!」

 さっと身を翻して脱兎のごとく駆け出すアベルを見送り、後ろで待っていた二人に目を向ける。

「ここの女主人は面倒な奴だが、信用はできる。君ら二人の寝床と衣服、その他諸々の用意を頼むつもりだから、そのつもりでいてくれ」

 万が一の時には援護してくれよ、と言外に告げれば、ベアトリーチェが力強く頷いた。一方のエリノアも、そのベアトリーチェに倣う。容姿も雰囲気も全く似ていない二人だが、こうして見ると姉妹のようだった。

 真面目そうでどこか抜けている姉と、実はしっかり者の妹、そんな感じ。

 ふと心に抱いたことを彼女らに話す日が、いつか来るだろうか。それもこれも、全てはエリノアとベアトリーチェ、そしてアリアン次第だ。

 そうこう考えているうち、アベルが開けっ放しにしたままだった戸の奥に二つの人影が現れた。

 ちら、と目が合った直後、女が嫌悪感も隠さず顔を顰める。

「今日の夕食は抜きだね。なんでさっさと追い払って塩を撒かなかった?」

「だ、だって約束はしてあるってセオさんが……!」

「あんな輩の言うことを信じるなんて、本当に私の助手なの? クビになりたいの?」

 たった数言で助手を半泣きにさせるアリアンが容赦ないのか、分かりきった八つ当たりで半泣きになるアベルが打たれ弱いのか。どうあれ、見ている俺の方まで悲しくなってくる光景だった。

「で?」

 一言、というより一音。

 ようやく向けられた言葉はそれだけだったが、しかし俺とて伊達に十何年も彼女との付き合いがあるわけではない。短すぎる言葉に込められた意味を汲み取れないはずはないのだ。

「手紙に書いた通りだ。引き受けてくれるだろうか」

「断る。……って言いたいけど、それだとあんたからの手紙を読んだみたいで癪だね。あんな手紙、まさか本当に読むとでも思ってたわけじゃないでしょ?」

「それが人からの手紙を無視した奴の言うことかよ……」

 まぁ無視されると知っていて手紙を出したと、アリアンも知っているのだろう。知らなかったのは憐れなアベルただ一人で、だからこそ言いつけ通りに俺を門前払いできなかった。

 いや、捉えようによっては恩人の一人に数えられてもいい俺を、あろうことか問答無用の門前払いというのがおかしな話なのだが。流石リースに好かれるだけのことはある。

 と、こんな風に一人で納得していても始まらない。

 せめて彼女の人となりを今のやり取りから理解してくれたかと背後の二人を一瞥するが、ダメだった。エリノアとベアトリーチェの目は、アリアンに釘付けになっている。

「だが手紙を読んでないってなると、一から説明する羽目になるのか?」

 適当な言葉を紡ぎ、喉元まで出かかったため息を飲み込む。

 俺と知り合った当時、アリアンは今のアベルより幼く、そのくせ大人顔負けの美貌を誇っていた。

 あれから十四年という時が流れたが、彼女の美しさは衰えてなどいない。むしろ天賦というものの存在を無慈悲なまでに見せつけるかのごとく、その美しさは増すばかりだ。

 とはいえ、女同士の恋仲にあるのに他の女に見惚れるというのは色々と問題があるんじゃなかろうか。

 今日だけでどれほどのため息を押し殺すことになるのやら。

 ともあれ気を取り直し、本題へと意識を戻す。

「リースの結婚話を知っているか?」

「知らない」

「そこにいるのは、リースの花嫁だった女とその恋人だ」

 その瞬間、初めてアリアンの眼差しが俺の背後へと注がれた。

 彼女の無言は、しかし絶句ではあるまい。恐らくは俺が少女たちを連れてきた時点で大体のことは察していて、だからこそ無視していたのだ。

 ……あとリースの結婚話を知らないはずはないだろうに。むしろ俺が知らないリースのあれこれまで、アリアンは知っているに違いない。

「クズだクズだと思ってきたけど、遂に人攫いにまで手を染めたのか」

 やや間を置いて吐き捨てられる嫌味の、なんと空虚なことか。リースが結婚して最も悲しむのは、眼前にいるアリアンを措いて他にいまい。

「戯言は結構。……とにかく、教国からの強行軍の後で、かなり疲れてる。泊めてもらえないか?」

「断る。犯罪者に手を貸す趣味はない」

 まずはダメ元で真正面から頭を下げるが、当然のごとく失敗。

「勿論、俺は自分で宿を取る。彼女らだけだ。それでも無理か?」

「もし教国が騎士団を派遣したら、いの一番に探すのはガキどもじゃないか。そんな危ない駒を私が預るとでも?」

「教国は手を出さないし、出せない。それに俺にも疑惑は持ってるだろうが、確証までは得られてないはずだし、国境を跨いでの手配も不可能だ。君に迷惑はかけない」

「今この瞬間、既に迷惑を被っている。あと貴様に君呼ばわりされる筋合いはないっ!」

 これが成人し、なんなら刻一刻と三十路に近付いている人間の言動か?

 あくまでリースからの依頼という形で報酬まで貰って動いた手前、恩着せがましく言うつもりはないものの、仮にも意中の相手の結婚を阻止した立役者じゃないのか、俺は。

 十四年前の一件もそうだが、どうにもアリアン・キャロルという女は俺を悪者にしたくて仕方がないらしい。あの時はアドリアーノという諸悪の根源がいたし、今回だって教国の悪習が元凶だ。

 ぐじぐじと募る苛立ちから思わず睨みつけるも、当のアリアンはどこ吹く風。

「そもそも教国の追っ手がないなら、普通に宿に泊めればいいじゃないか。なんで私を巻き込もうとする?」

 挙句の果てに、動物的直感とでも呼ぶべき鋭さで最も痛いところを突いてくる。

 もう少し口車に乗せ、エリノアとベアトリーチェを一晩でも泊めた後にしたい話だったが、下手に避けようとすれば墓穴を掘るのが目に見えていた。腹を括るしかない。

「この後、帝都に用事がある」

「尚更うちに来る理由が見当たらないな」

「……そこに君も連れてくるよう、アドリィに頼まれたんだ」

 あぁ、しくじった。

 今度こそ、アリアンは絶句している。

 しかし彼女を支配する驚愕は、俺が口にした言葉そのものではない。内容はどこかしらのタイミングで訪れると予期できたもので、むしろ俺が口にしたという事実にこそ驚いているのだと分かる。

「貴様は……、貴様はクズだと思ってきた。貴様は詐欺師で、無法者で、人の心を持たない隣人か何かだと思ってきた」

 ……おい。

「だがな、愚か者だとは思っていなかったんだぞ? むしろ真逆だ。リースは愚か者で、だからこそ信頼できた。真逆の貴様は詐欺師で無法者だからこそ、信頼できた」

 信頼、という彼女の言葉。

 それが意味するのは、決して好意的なものではない。例えば嘘しか言わぬ者がいるなら、その者の発言は極めて高度な信憑性を持つ。つまりその者が口にしたことは嘘であり、信じるに値しないという一点でのみ究極の信頼を持てるのだ。

 そんなアリアンの瞳には、たった今、失望にも等しい暗い輝きが灯った。

「貴様は、だが愚かになったか。詐欺師で無法者でも、愚かではなかったから信じられたのに。愚かな詐欺師、愚かな無法者、それほど信の置けない輩がいるか?」

 会えば憎まれ口を叩き、これ幸いにと日々の鬱憤をぶつけてくるのがアリアンである。

 しかし嘘偽りのない、心の底からの失望を真正面から向けられることがこれほどまでに辛いとは、想像だにしなかった。何気ない一言でヨルクから氷点下の眼差しを向けられた時によく似た、胸を抉られるような痛みが生まれる。

「言っておくが、俺は正直者だぞ。今日だって、嘘は一言も口にしちゃいない」

「だが騙そうとした、違うか? 嘘を言わず、それでいて騙すから、貴様は詐欺師なんだ」

 相性が最悪だと、分かってはいたはずだ。

 それでも他に頼れる者がいなかった。帝国という本拠地から離れすぎた土地において、しかも相対するのはアドリィだ。アリアン以上に頼れる味方はいなかった。

「まぁ、適当に口車に乗せられたらいいな、とは思ってた」

「でも騙す気はなかった、と?」

「少しだけ訂正させてもらうよ。今はもう騙す気はない、と」

 実を言うと、一つだけだが嘘はあった。

 アリアンを連れてこいとは、アドリィは一言も言っていない。むしろ伝えるまでもなかっただけで、連れてくるなとさえ思っていたのだろう。

 それでも俺はアリアンを連れていきたかった。

 理由は単純である。

 アドリィのアキレス腱だからだ。俺を罠に嵌めようとしているアドリィにとって、アリアンがともにいるのは辛かろう。恋心は捨てたはずだが、それでも彼女は人の心まで捨て去ったわけではあるまい。

 必要とあらば非情とならねばならない裏社会の重鎮といえど、ある一線を踏み越えてしまえば暴虐さだけが取り柄の無法者に成り果てる。

 だが、諦めよう。

 物事には優先順位があって、今はアドリィよりエリノアとベアトリーチェが重要だ。

「君を連れていくのは諦める。……どの道、難しいとは思っていたしね」

「難しい、か。不可能じゃなかったみたいな口振りだな」

「勿論だとも。君をアドリィと引き合わせる方法くらい、いくらでもある」

 ニヤリと笑えば、アリアンは瞳の失望に憎悪を滲ませる。それでいい。憎悪の方が、まだしも失望よりは心地良いものだ。

「諦める。その代わりに、とも言わない。ただ純粋に、頼む。彼女らは疲れてるんだ、本当に。いくら教国方面の心配がないといっても、金で寝返るそこらの商売人より、信頼できる君に預けたい」

 こんな時、リースならなんと言うのだろう。

「頼まれてはくれないか?」

 頭を下げ、全速力で思考を回す。

 考えて、考えて、考えて、結論が出た時。

「……断る」

 一言、アリアンが吐き捨てた。

「どうしてもか?」

「どうしてもだ。悪いけど、そんな危ない橋は渡りたくない」

 言葉通りの申し訳なさを滲ませた瞳を見返し、そうか、と呟く。

 これは自業自得だろう。十四年前には強引な策を取ってしまったし、それから幾度となく口車に乗せ厄介事を押し付けてきた経緯もある。不徳の致すところ、というやつだ。

 そして、それじゃあ最終手段に打って出るか、と気持ちを切り替えたのだが。

「あのっ!」

 不意に背後から叫び声がして、アリアンの視線がそちらへ向けられる。

「僕はいいんです! 僕はいいですから、だからっ、エリノアだけでも……!」

 声の主は、言うまでもない、ベアトリーチェだった。

 必死の声音で叫ぶ彼女を見据え、アリアンが表情を曇らせる。有り体に言ってしまえば、アリアンにとってエリノアとベアトリーチェは見ず知らずの他人だ。

 しかし同時に、自身を重ねるに足る境遇の者たちだろう。

 長く過ごした土地から逃げるしかなくなって、まだ幼い身体には厳しい旅に出る。それは十四年前のアリアンが経験したはずの苦労だ。そして彼女を帝都から追い出したのも、今ここにいる俺である。

 自分の力ではどうしようもないほどの圧力で押さえ付けられた果ての逃避行。

 自身の過去と重ねてしまったらしいアリアンは、それでも苦渋の声音で紡ぐ。

「帰ってくれ。……町に行けば、宿はある」

 彼女にとって、アドリアーノ・バリアーニという女は悪夢の象徴だろう。

 今のアリアンに逃げ果せるだけの余力はない。もし再び魔の手が伸びてくれば、それが最期だ。彼女は鳥籠の中の鳥か、腹の中の蛙になる。もう目の前には蛇などいないのに、ずっと双眸に睨まれ縮み上がっているような有様だった。

「そうか」

 もう一度呟き、空を見上げる。

 町を見下ろす高台にあるキャロル探偵事務所は、それだけ展望を遮るものが少ない。遠くの空に暗い雲を見つけ、今日は雨になるかと口の中で零してみる。

「宿はどこに?」

「そこの坂を下りて通りを真っ直ぐ進んだ先にパン屋がある。その向こう側の角を右に曲がれば、そのうち見えてくるだろう。なんなら、私の名前を出せばいい」

 いつになく殊勝な態度のアリアンを見ていると、まぁこれでもいいかと思えてしまう。

 別に、だからといって容赦してやるつもりもないのだが。

 加えて言えば、こうやって口車に乗せてきたから、今の嫌われ具合があるのだろう。

「あ、そうだ。一つ君に伝えておくことがあったんだ」

 なんだ、と視線で訊ねてくるアリアンに、ほんの一瞬だけ間を外してから、その言葉を告げる。

「君によろしくと、リースが言っていた」

 彼とエリノアの結婚式が行われるはずだった教会を後にする時、取って付けたように投げられた言葉。

 けれども、事実は事実だ。

 リースは言っていた。彼女によろしく、と。

「…………」

「あと、手紙の返事も書いてやれよ? せめて二人が無事に帝国まで来たことくらい、君の口から……いや君の筆で伝えてやってくれ。検閲逃れは面倒だろうが、それくらいしてもらってもいいことをリースはしたんだ。そうだろう? 君だって、何も本当に――」

「貴様は……ッ」

 畳み掛ける言葉を遮るアリアンの怒声が、俺に勝利を知らせてくれた。

「貴様は、だから詐欺師なんだっ! くそっ、死ねっ!」

「本当に口が悪いな、君は。俺はただリースからの言伝をだね」

「さっさと帰れっ、王国に! 貴様の顔なんぞ二度と見たくない! 帰り道でもう一度竜に襲われて死ね! そして食われろ!」

「それはひどいな」

 俺相手に竜に食われて死ねなどと言えるのはアリアンくらいのものだ。アルターでさえ、そのことは流石に触れない。

 とはいえ。

 負け犬の遠吠えなど、毛ほども痒くない。

「アベル!」

「は、はいっ!」

 アリアンは怒り心頭のまま助手の名を叫ぶ。

「私は出てくる。あとは全て君の仕事だよ、いいねっ? 夕食も風呂も何もかも全て!」

「えっ……と。……あ、そういうことですねっ! 分かりましたっ!」

 八つ当たり気味に仕事を押し付けられたアベルは、けれども嬉しそうに頷いた。

 言うだけ言って大股で町の方に行ってしまったアリアンを見送り、アベルが俺たちの方を見据え直す。

「えっと、エリノアさんと……」

「ベアトリーチェです」

「あ、はい、エリノアさんとベアトリーチェさん! それじゃあ、お布団とか準備するので、中に入っててください。あとお着替えとかは……そうですね、所長のタンスから適当に持っていっちゃってください!」

 相変わらず鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているエリノアを除き、三人が三人とも状況を理解していた。

 まぁ、そういうことだ。

 俺の頼みは聞けずとも、アドリィのことは怖くとも、リースの頼みを無下にすることはできまい。

「……でも、なんていうか」

 アベルに案内されるまま事務所の中に入っていくベアトリーチェの囁き声を、長い傭兵生活で鍛えられた聴覚が捉える。

「詐欺師って、すごく納得だよね」

「しっ! 聞こえちゃいますよ!」

 聞こえてるんだけどな、と言わないだけマシな人間性をしていると、今は切実に訴えたい。

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